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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第七章 神人と黒猫
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11 重大な秘密


 紳士的な誘拐犯は、オレを居間のソファに座らせて、オレの膝の上に猫型人形を置いた。


 緊急事態なので胸元から監視猫を引きずり出しておいたが、監視猫は危険な誘拐犯ではなく猫型人形に注意を引かれたようで、オレの膝に飛び降りてにゃあと鳴いた。


「これが、秘密?」


「秘密というほどでも無いです。遺物展示交換会で取引した小鳥の宝飾職人に追加で特注したのがその腕輪ですし、猛獣型人形の職人に特注したのがその猫です。あなたの代わりに撫でています」


 白っぽい猫型人形は、オレの本来の髪色とほぼ同一の色であり、目の色まで似せてきている。

 オレの顔で作った人形ではないが、ただ色合いを似せた猫型人形であっても身代わりのように扱われるのだと、特殊性癖の奥深さを知ってしまった。


「……今、オレは重大な秘密を聞かされた気分なんだが、まさかこれを寝室に連れ込んだり」


「まだしていません」


 まだとか言ったな!?


 だが、言いたいことは飲み込んで心を落ち着けた。交渉の基本は冷静さを保つことだ。

 レストランで不意打ちされて以降、動揺したまま押し切られている状況だ。態勢を立て直さなければならない。


 そのためには情報収集が必要だ。


 小鳥と猫の腕輪を改めて眺めると、可愛いが凝っている。細工も細かく綺麗な仕上がりで、成人が身に着けても問題ないデザインだ。

 それだけ手間と時間がかかっているし、遺物展示交換会の後で特注したということは、あの頃からこうする予定でいたのかもしれない。


「……まさか、遺物展示交換会のときから、こうする計画でも立てていたのか」


「私と姉は似ている姉弟とよく言われます。黒猫さんに会いたかったのは、本当にお礼をしたかったからですが、<菩提樹>で会ったあなたが予想外に可愛かったので、一目惚れしました。以後、口説いていたつもりですが、ユレスは全く気づいてくれませんでしたね」


「気づけるか!?未分化型に何考えてるんだ。性分化してない相手に、その気になる方がおかしいと、治療局の研究でも示されていたはずだぞ。まずはアレクが治療局の診療所に行ってこい。話はそれからだ」


「万全の状態で職務に臨むために、警備局職員は毎月の診断が義務付けられていますし、私は正常かつ健康です。

 未分化型のあなたを口説くことは、さすがに問題があるのは分かっていましたので、紳士的に振る舞っていたつもりです。ただ、事件や邪魔者のせいで、口説く機会がことごとく潰されるし、未分化型のあなたはまったく分かってくれないので、最近はかなり追い詰められていました。

 仕方がないので、状況証拠を揃えて身柄確保することにしました。今頃私とあなたが結婚の約束をしたと広まっているでしょうね」


「オレじゃなくて、小さなレディがだろ!」


「同じことです。私は、ユレスが変装していなくても同じことをするつもりでしたし、その方が逃げ道が無くて良かったのですが、珍しく自分から可愛い装いをしてくれることになったので、いいことにしました」


 アレクが何か言っているが、オレは今それどころではない。情報収集すればするほど追い込まれていくので、話を切って整理したいのだが、アレクは勝手に喋り続けた。


「あなたの祖父の精神が回復したのもきっかけとなりました。もう、あなたの祖父が覚えている子どもの姿でいなくてもいいはずですよね?

 それから、性分化して体も成人となったらワトスンが相棒でなくなるかもしれない件については、あなた以外はそれはないと思っています。万が一そうなったとしても、アリス事件のことは私が捜査協力しますので、それで納得してくれませんか?」


「待て、話の展開が早すぎる。オレ以外って、そっちも聞き込みしたのか!?」


「ローゼス、ボーディ前局長、クレア捜査官、デルシーの支配人、現局長に聞き込みしましたよ」


「……ワトスン」

 

 オレの身近かつ、ワトスンに詳しい旧世界管理局職員を網羅しているあたり、さすが優秀な捜査官だ。子守猫が様子を窺っている気配がするので呼び出したが、立体映像でつーんとした態度を取った。


「この話になると、気まぐれ猫はこういう態度が基本だぞ」


「単に拗ねているだけだと思います。分かってくれないマスターで困りますね、ワトスン」


 子守猫がにゃあと返事して不貞腐れたような立体映像を投影しているが、これをどう解釈しろと言うんだ。


「……アレクは分かるのか?」


「私はあなたと一生を共にするつもりでいます。ユレスはワトスンに、いつまでも一緒にいたいと言ってあげましたか?」


「……猫は気まぐれだから、いつ終わるか分からない関係だと思っていた。ワトスン、一緒にいてくれるのか?」


 立体映像に手を差し出したら、頬を摺り寄せてにゃあと鳴いて、腕輪の中に飛び込んで消えた。やはり気まぐれ猫じゃないかとぼんやり見ていたら、そのまま手を取られて、アレクの方に引き寄せられた。


「それ、私にも聞いてくれますか?」


「……強引に押し切ろうとしてるな?」


「押し切るつもりですが、強引に迫れないので困っています。あなたが女なら、抱いていましたが」


「捜査官が性犯罪予告をするな!紳士的振る舞いはどこに行ったんだ」


「あなた相手に、この上なく紳士的に振る舞っていたはずですが?参考に言えば、姉のアリアは、ジェフ博士に夜這いをかけてものにしましたよ」


「あのじじい、やはりへたれだったか」


「女性側から迫った場合、性犯罪と認定されづらくていいですよね。アリスが生きていたら、ユレスは夜這いを仕掛けられていたと思います」


「え?」


 突然アリスの名前を言われて驚いたが、アレクが怖いくらいに真剣な目で迫ってきた方に危機感を抱いた。

 押さえつけられているわけでもないのに、圧迫感を感じるし、怖い。


「……やはり、あなたの反応は、怖い、ですか。アリスのことも、怖いと思いませんでしたか?」


「天才過ぎて、怖いと思ったことはあるが……どうして?」


「アリスもあなたを口説いていたようですし、魅了を仕掛けたと思ったからです。誘惑して好きになって貰おうとしたのに、上手く行かなかったのでしょうね。私もそうでしたが」


「……もしかして、オレは今、犯罪的な秘密でも打ち明けられているのか?精神に干渉するとか支配する系の?」


「あなたが警戒する<天使>のように、強制的な精神干渉というものでは無いですよ。この世界で人が進化して手に入れた力だろうと、私の母は言っていました。

 母は世界研究局でこの世界の歴史の研究をしていました。世界管理機構が成立する前に滅びた古代王国が専門です。<知識の蛇>の拠点がある旧王国遺跡は、その古代王国の遺跡です。そして私の父は、その王国の支配者の末裔、血族と呼んでいますが、その出身でした。あの……耳塞ぐのやめてもらえますか?」


ここまで読んでくれてありがとうございました。

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