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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第七章 神人と黒猫
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10 不意打ち


 生活区に設置された各画面では、新作映画以外の映像を映してもいいので、ドルフィーの映像も見られた。

 だが、爆走するドルフィー号の映像も混じってくるのが困る。オレは見ないようにしているが、アレクはじーっと見ていたりするので、必死に話題を逸らした。


 大レース会でやらかしたことについて、アレクからまだお説教されていない。別に説教されたいわけではないし、なるべくなら回避したい。


 休憩しようとレストランに連れて来られたが、ようやく画面から解放されたと思ってほっとしたら、レストランの中でも大画面が展開されていた。


 ちょうど映画が終わったところで、別の映像が流れ始めたが、これはやめてほしかった。火宴祭なわけだし、新作映画を映して欲しい。


 よりにもよって、マイクルレース場の最難関コースのレース映像を流さなくてもいいだろ!?


 もしかしてわざとなのだろうか。


 点在する他のテーブルの客も食事の手を止めて見入っているし、当然のことながらこちらにも視線が来る。大画面に映ったのと同じ人がいるから、見てしまうのも仕方がない。


 だが、これはアレクに対する視線であって、オレはばれていないはずだ。不動覇帝はバイザーを外さなかったし、今のオレの変装とは真逆な感じの仕上がりになっているからな。


 軽食と飲み物が給仕された後、アレクがテーブルに備え付けの装置を起動した。周囲の音が散って、多少の内緒話をしても大丈夫になる。


 そうしてから、アレクはとても綺麗に微笑んだが、はっきり言わなくても怖いぞ!どうしても説教したいことがあったので、こういう場でも言うことにしたのは分かったが。


「思い出したところで言っておきますが、二度とやらないでくださいね?」


「圧力かけるな。不可抗力だったんだ。オレがご隠居様に抵抗できるわけがない」


「抵抗して、私のところに逃げ込んできてください」


「それ、大激戦中の最難関コースに突入しろってことだろ」


「突入して来ましたよね、しかも平然と」


「平然としてない。オレはあのとき意識が無かったと誰かから聞かなかったか?ワトスンが必死に、にゃあにゃあ鳴いていたくらいしか記憶がない」


「……では、私があなたのために頑張ったのも、全く記憶にないと?」


 アレクの雰囲気がさらに怖くなったが、記憶にないんだが!?


「もしや、ボーディからオレを救出しようとしたのか?」


「ゼクスがあなたたちのクラフターに手を出せないよう、エスコートさせていただいたつもりです。編集された映像では分からないでしょうが……キスの一つくらい、いただいていいほどには働きましたよ?」


 遺物展示交換会で大猿を競い落したときも、そういうことを言われたが、あのときとは状況が違うと思うんだが。


「隠居と孫にキスされて嬉しいなら、ボーディと一緒に両側からやってもいいが、優勝者が二位にそういうことするのも変だと思う」


「……では、私が優勝していた場合は、どうですか?」


 じっと見つめられたので、さすがに真面目に答えることにした。オレは何かの試験か指導でもされているのだろうか。ローゼスが大レース会の反省会と言いつつ、乙女心的視点で妄想を語って来たので、一応回答できると思うが。


「アレクが優勝した場合、小さなレディがレース・レディとして登場して、キスの一つでもしたら盛り上がるんだろ。だが、オレも別の変装中だったし、小さなレディをあの場に用意するのは無理だ」


「あの場でなくていいので、頑張ったご褒美にあなたにキスしてもらいたいだけです。今していただいてもいいですよ」


 さらりと言われて流してしまったが、今、何と言った?


 茶を一口飲んでから、顔をあげたら視線が合った。微笑んでいるのに、怖い。


「……えっと、今、何を」


「あまりにもあなたが分かってくれないので、はっきり言うことにしました。私と結婚してください」


「……悪いが、聴覚に唐突に異常が発生したようだ。治療局の診療所に行っていいか」


「治療局に行くのは構いませんが、女に性分化するための相談に行きましょうか」


 これは……本気で言っているな?いくらオレでも、今、真剣な話をされているのは分かる。冷静にならなくては。


「……性別を選ぶのは個人の自由だ。人権問題とか思い出せ、アレク捜査官」


「性分化して成人するのが自然の流れです。私は今から10年は待たされるんですよ?いい加減、成人してください」


「オレはすでに成人して社会奉仕活動もしてるだろ。って、なんだ?」


 手を引かれて、腕輪をはめられたが、単なる装飾品であって、旧世界の腕輪型時計というわけでもない。小鳥と猫が連なった可愛いデザインだが……意味が分からない。


「意味が分からない、という顔ですね。ですが、周りの皆さんには当たり前に分かることです。そろそろ出ましょうか」


 オレたちの会話は周囲に聞こえていないはずだが、何故か祝福するような視線と拍手で送られてレストランを出た。


 非常に嫌な予感がする。


 拘束とまでは言わないが、絶対に逃がさないと言うように手を掴まれているし、引きずられるほどではないが、強引に歩かされている。

 一見そうは見えないあたり、誘拐犯の手口としては優秀だ。いや、誘拐犯ではなく警備局の捜査官のはずだし、その証に警備局製防音装置を起動したが、オレは今、誘拐されている気分だ。


「遺物展示交換会のときにジェフ博士が持たせてくれた、宝飾品の腕輪型旧世界時計のことを覚えていますよね?あなたは何故最高評価なのかさっぱり分かっていませんでしたが、私もあえて説明しませんでした。

 ティアラは結婚のお祝とか結婚を申し込むのに使う宝飾品ですが、そういう用途に最も一般的なのは、いつも身に着けられる腕輪です。結婚の約束をしたら、装飾品の腕輪を相手に填めてその証にしたりしますよ?」


 今さっき何があったのか思い出して、一気に血の気が引いた。


「っ、今、あのレストランで」


「はい。皆さん、お祝いしてくれましたね」


「わざと誤解させたと言え!」


「成人して社会奉仕活動をしているのに、分かっていないあなたがいけないんですよ。実体験で理解してもらうことにしました。それから、ここが私の家です。どうぞ」


「は?」


 博士の屋敷ほどではないが、結構大きい家の門を勝手に開けて入ろうとしているが、家の所有者なら別におかしいことではない。


 だが、オレにだってさすがに分かる!背中を押されつつ、全力で抵抗した。


「この状況で連れ込まれたらまずいことくらい、オレにだって分かるぞ!ワトスン!」


 子守猫は腕輪から立体映像を投影することもなく、ただにゃあと鳴いた。


「あなたはよく強引に連れて行かれますよね。ワトスンは子守猫ですので、あなたの保護者役をしている人たちのこともしっかり認識していますし、実績があるならば、多少強引な真似しても子どもの安全確保と思って流してくれると思いました。マスターに判断を委ねないのでしたか。ローゼスもこれくらいなら大丈夫だと言っていましたよ」


「まさかローゼスも共犯なのか!?」


「私が聞き込みしただけです。ユレス、取引をしましょう。アリス事件について、私が個人的に知っている情報を開示します。私の秘密にも関わるので、安全が確保された場所でしか話したくありません。私の家に招待されてくれますか?」


「……」


 それ、取引でも無く、確定事項だろ。


 そう言う気力もなくして体の力を抜いたら、流れるようにエスコートされて、家の中に入れられた。色々……後戻りできない状況に追い込まれた。


ここまで読んでくれてありがとうございました。

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