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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第七章 神人と黒猫
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9 三度目の女装

 

 転送装置で<菩提樹>に移動したら、ボーディもすぐに帰ってきた。


 アレク捜査官から連絡があって、切り上げて来たのかもしれない。オレを見て頷いて言った。


「長期戦を覚悟しましょう。ユーリ捜査官が当時のやらかしをあれこれ白状するので、わたしもついつい突っ込んで追及してしまって、先に進めませんでした」


「そこは追及せず、流せばいいと思う」


 ボーディはオレの部屋として、ボーディの私室の近くの部屋を用意してくれていた。見覚えがある部屋だと思ったら、オレが子どもの頃にときどき泊まった部屋だった。

 子ども向けなのか、どこか可愛い感じの内装の部屋の中で、ボーディに祖父さんが拠点にしていた家の棚の裏から、旧世界の情報記録媒体を見つけたことを報告した。


「ユーリ捜査官を締め上げて聞き出すより、解析した方が早いかもしれませんね。隠したとしてもユレスが昏睡した後のことですし、記憶の再構成はそこまで至っていませんから、追及してもわからないでしょう。仕方ありません、局長に最優先で調査するよう押し付けてきます」


 前局長は重要情報と判断したらしく、旧世界管理局にまた戻ることにしたので、オレは家から持ってきた子どもの玩具の入った箱を託した。これで少しでも祖父さんの記憶の再構成が進むといいのだが。


 祖父さんの相棒のAIホームズはナイン・エスのロック技能を使用できるが、情報記録媒体がその技能でロックされていたら解析不能である。


 祖父さんの精神が回復したので、相棒のAIのホームズに祖父さんの記憶の欠落を補って証言なり情報提供をしてもらいたいのだが、ホームズは祖父さんが精神がばらばらの状態で発見されたとき、休止状態ではないが自分にロックをかけている状態だった。


 ロック解除するにはマスターの照合情報を入力する必要があるが、つまり祖父さんだけが知っている暗号を入力しないとならないので、結局のところ祖父さんの記憶を再構成するしかない。


 祖父さんの記憶の再構成を少しでも進めるつもりのボーディを転送装置までお見送りしに行ったが、アレク捜査官がどうしてもと言ってじじい三人組の一人の意見を聞いた。

 オレが子宮型と生殖型、通称の女と男の方がもはや一般的だが、そのどちらに性分化した方がいいかと聞かれて、ボーディは真剣な顔で答えた。


「今となっては、どちらでも構いませんと回答しますが、12歳の頃は白うさぎさんのようで可愛かったので、女の子一択でした。過酷な事態の連続のせいで、こんなにふてぶてしく育ってしまいましたが、無事でいてくれればそれでいいという達観した気分でもあります。しっかりした保護者がついているなら、女の子でもよろしいと思いますよ?」


「ご回答ありがとうございます」



 じじい三人組のもう一人の意見も聞きに行くと言われて、オレたちもジェフ博士の屋敷に再び転移した。アリアが夜の食事を一緒にしようと、料理を準備してくれていたしな。


 こっちのじじいは頑固で偏屈なので、最初の意見を変えていなかった。


「儂がなんで、子猫ちゃんと呼んでいたと思うんだ。今からでも間に合うから何とか洗脳しようとしていた、じじい心を察しやがれ」


「洗脳とか言っているじじい心なんて、察してたまるか!オレの味方は、ばばあか」


「ベルタに洗脳されてこうなってしまったが、儂はまだ諦めていないし、親友のためにも、断固としてばばあの野望は阻止するぞ!」


「応援します、博士」


 明日は、アレクの盾になるべく三度目の女装をすることになったと報告したら、じじいは満足そうに頷いて映像記録を撮るとか言い出したが、却下だ。だが、オレが却下する前に自分で却下した。


「うーむ、惜しいがやめておいた方がいいかもしれん。ユーリに見せてやろうと思ったんだが、記憶の再構成が終わってない今だと、いや、再構成が終わったとしても荒ぶるかもしれん」


「そうなのか?祖父さんはオレが祖母さん似だからか、女の子がいいと言っていたと思うが」


「そうなんだが、複雑な祖父心ってやつだ。可愛い孫が女の子になって男と付き合い始めたら、相手を闇討ちするとか真剣な顔で言ってたからな。儂は相手を見極めてからにしろと言っておいたが」


「祖父さんは妄想し過ぎだ。ボーディも祖父さんが暴虐覇王に覚醒するみたいなことを言っていたが、成人したらそういうのは本人の自由が基本だろ」


「そうだが、割り切れるもんじゃない。フォウが成人しても、ユーリは鬱陶しかったからな。フォウがエレンと結婚することになったら、エレンと一騎打ちをして実力を確認して、お前になら息子を託せるとか、お任せくださいお義父様!みたいなことをやってた」


「……旧世界映画で割とお馴染みの名場面だと思うんだが、配役がおかしい」


 基本は娘の父親と、娘の結婚相手の男が一騎打ちをして結婚の許しを貰うはずだ。


 食事した後で、ジェフ博士が一般公開されている旧世界映画を上映したが、男が結婚するために、恋人の父親が与える試練に次々に打ち勝って行くというものだった。オレは、そこまで頑張って結婚しなくてもいいと思う。


 だが、アリアとアレク姉弟は非常に感銘を受けたらしい。

 二人で感想を語り合っているが、オレはついていけない。じじいはオレの教育のために見せたそうだが。


「分かったか、子猫ちゃん。ユーリは、映画に出て来ためんどくせぇ父親のようなもんだ。この映画を見たとき、父親の気持ちがよく分かると感情移入していたぞ。儂は、こんなめんどくさい試練超えてまで結婚したいかと思って引いていたんだが」


「オレもだ」


 理不尽かつ強引なじじいであるが、オレとジェフ博士は割と感性が似ている。恋愛とか結婚はめんどくさいと思っていたし、だからオレも博士のように300年縁がない同志になるものだと思っていた。博士が結婚した今となっては、オレがばばあの同志になってやるしかない。



 翌日、アリアがまた新作を作ったと女装服を出してくれて変装したが、女装したところで気づいた。二度あることは三度あるなら、こっちも三度目があるはずだ。


「アレク、今ごろ言うのはどうかと思うが、二度あることは三度ある。この女装で出歩いたら、絶対に仮面の不審者に遭遇するぞ」


「……旧世界的フラグを立てるのはやめてください」


「これはすでに立ってしまっているから、どうすることもできない」


「そうだな、二度あることは三度あるってのは、二度目があった時点で確定するってのがユーリの意見だったな。いや、不穏な予測はやめろ、本当に出て来るだろ。取りあえず今回は儂のお使いは無しだ。儂がお使いさせると事件に突っ込む法則かもしれんからな」


 ジェフ博士も旧世界的フラグの発想に慣れているし、祖父さんと一緒に事件に突っ込んでいた経験値が膨大なので、配慮のようなことを言った。


 だが、三度目の女装をしている以上、何か起こると思って警戒は欠かさない方がいい。

 ジェフ博士とアリアに見送られて出発したが、博士のお使いがないと何をしていいのか分からないことに唐突に気づいた。


「何をすればいいのか、わからないんだが」


「私に任せていただいていいですよ。映画を見に行くんです。警備局と旧世界管理局合同で撮影していましたよね」



 火宴祭では、生活区のあちこちに設置・展開された画面で新作の映画作品を見ることができる。

 その画面を展開している管理者が、火宴祭の新作映画審査委員会に提出された作品のうち、自分が気に入ったものを映すのだ。


 だから、生活区を歩いていると、その年の人気作品が分かる。


 人気投票と審査を経て最優秀作品を決めることになるが、その発表は本日の夜である。


 決定された最優秀作品を野外広場に設置された大画面で上映しつつ、燃え上がる炎を囲んで踊るのが火宴祭の主要なイベントだ。

 旧世界で言うところの、野外映画とキャンプファイヤーを無理やり足したような大祭だが、普段と違う開放感があって恋が盛り上がるらしい。


 野外広場に着て行く服装を、新作映画に出て来た服装にすることも火宴祭の楽しみ方の一つだ。


 新作映画は、ポーラ女史のように服飾関係の仕事をしている人が、斬新なデザインの服装をお披露目する機会ともなる。

 想像力に富んだ作品の場合、服装もその世界観に合ったものを作るので、新たな流行を生むこともある。


 最優秀作品が野外広場で上映されるので、その作品に出て来る服装で野外広場に行くと人の目を惹くことになる。だから、どの新作映画が最優秀作品に選ばれるのかの予想も盛り上がる。


 野外広場に着ていく服を作ったり、一緒に行く相手と相談して服装を合わせたりすることでも交流が深まったり広がったりするので、新作映画が公開されてから最優秀作品が決まるまでの間、生活区のあちこちが賑やかになる。


 マイクルレース場の大レース会が終わった後に新作映画が公開される流れだが、オレはずっと旧世界管理局に引きこもったままだった。


 久しぶりに生活区を歩いているが、あちこちの画面に見えるのはバトルドレスである。

 防犯効果を狙って映しているのでなければ、最優秀作品は決まりでいいくらいに人気作品のようだ。


「……今夜は、バトルドレスが炎を背景に踊るということか。不穏すぎる」


「ここまで人気だと、そうなるとしか思えませんね」


 夜に、燃え盛る炎の前でバトルドレスで踊るのは映えるとは思うが、実録映画と思うと不穏だ。今日が無事に終わるといいのだが。


ここまで読んでくれてありがとうございました。

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