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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第七章 神人と黒猫
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8 お詫びとお礼


 アレク捜査官は、何か取引したいことでもあるのだろうか?


 少し雰囲気が怖いし、脅されているような印象もあるのだが、そう言えば、マイクルレース場の大レース会で不意打ちで最難関コースに出場してしまったし、特別療養所に連れて行ってもらったのにろくにお礼もしていないのを思い出した。


 お詫びとお礼はしなければならないし、何か取引か要求があるなら受け入れるしかない。


「何かして欲しいことでもあるのか?大レース会でオレとボーディが不意打ちで最難関コースに出場して迷惑かけた自覚があるし、特別療養所に連れて行ってもらった礼もしていないから、オレにできることならするつもりだ」


「……そういうことを迂闊に言ってしまうのは危ないと思いますが、遠慮なく要求させてもらいます。あなたはそれどころでなかったのは分かっていますが、今は火宴祭の真っ最中です。明日は一緒に出かけませんか?」


「オレは警戒して、出歩いてはいけないんじゃないのか?」


「違います、出歩くなら警護役と共に行動して欲しいだけです。自宅と職場だけに行動制限されたら、個人活動などできませんし、人権問題になりますよ」


「確かに人権倫理委員会に指導されそうな状況だが、オレは別に気にしない。アレク捜査官が自分の個人活動の時間を削ってまで、オレの警護役のようなことをしなくてもいいと思う。警備局長からそういう指示があるのか?」


「職務であなたを誘ったりしませんし、潜入捜査でも無いです。ただ、小さなレディの姿になって貰ってもいいですけど」


 なるほど、理解した。小さなレディを盾にしたいのか。


 新たな伝説の日に活躍したのは、隠居と孫だけではない。

 アレク捜査官とゼクスの戦いも時事情報放送で大きく取り上げられた。隠居と孫が乱入するまでは、二人は最難関コースの主役だったのだ。

 

 一人だけ説教を免れたローゼスに、しっかり見ておきなさいと言われて、オレとボーディが退場した後の時事情報放送の映像を見せられたが、最難関コース二位となったアレク捜査官は、見ていてくれるはずの小さなレディのために頑張りましたと、いい感じのことを言って盛り上げていた。


 ゼクスもそれに応じて、自分も小さなレディに見てもらえるように頑張ったけど、どっちも優勝逃して残念だったなとか言っていたが、小さなレディの中身はレース中は意識が無かったので見ていられるわけがない。


 時事情報放送と観覧席は二人の発言に盛り上がったようだが、裏事情を知る人たちにとっては残念極まりない状況だと思う。そう言ったら、ローゼスが残念なのはあんたの方よ!と叫んだ。

 オレが残念なのは今さらだし、自覚のある発言をしたのに、何が不満だったのか。乙女心はときどき解読不能だ。


 ローゼスの乙女心的解説では、アレク捜査官もゼクスもとっても素敵だったので、大レース会が終わった後は交流のお誘いがひっきりなしにやってくるはずよ!ということだったので、アレク捜査官が再び盾を必要とする事態の渦中にいることは理解できる。


「つまり、交流のお誘いがひっきりなしに来ているから、盾役となる小さなレディが必要なんだな?」


「……あの、間違っていないようでいて、根本的なところで間違えていますが、もしかして小さなレディになってくれるのですか?」


「詫びと礼はするつもりだったし、二度あることは三度あるという旧世界的格言からして、あと一度は女装しないと逃れられないことは分かっていた。いいだろう、黙っているだけで使えない盾だが、アレク捜査官ならそんな盾でも使いこなせる実力者だということは分かっている」


「いえ、分かっていませんよね?それに、女装と言うのも変です。あなたは未分化型ですし、性分化して女になるかもしれません。あなたの祖父の精神が回復したのでしたら、未分化の子どもの姿でいる理由が一つ消えたと思います」


「事件に突っ込んだり騒動の巻き添えになるなら、オレは男に分化した方がいいだろ。少なくとも棚くらい動かせないと、子猫に持って行かれた小鳥の捜索もできないし」


 監視猫がオレの肩の上に乗って、すぐそこに手を突くアレクの手を引っかくようにつついた。

 アレク捜査官は、ふっと笑って身を引いて棚を戻してくれたが、まったく苦にした様子もなかったのが少し悔しい。


「別にあなたが男に分化しなくても、棚を動かせる捜査官に頼めばいいだけです。私が一緒に来て良かったでしょう?」


「……まあな」



 祖父さんの作った品を入れた箱とオレの私物を入れた袋を、アレクが自然に持って、行きましょうとオレを促した。

 こうも自然に荷物を持たれると非常に複雑な気分になる。確かに手伝うと言って一緒に来たわけだが、オレはそこまで腕力が無いわけではない。

 

 家の扉を閉めて森林管理事務所に向かって歩きながら、アレクから成熟期を迎える前の子供向け講義のようなことをされた。

 こういう状況がいつかもあったと思ったら、アリスだった。思わず笑ってしまったのを目ざとく見た教官が厳しい顔で言った。


「何かおかしいことがありましたか?」


「いや、悪い。思い出してつい笑ってしまった。アリスも似たようなことを偉そうな顔で講義して来たことがあったんだ。オレは性分化が始まる12歳だったが、まだ成熟途中のアリスが講義できるものでもないと思って流していた」


「……私の話も流していましたね?」


「一応聞いてはいたが、笑ったのは話の展開が真逆だったからだ。アリス視点では、オレは男になる方がいいらしい。アレクは女の方が向いてると解説したが、両方ともオレの性質もよく把握しているのに、それぞれしっかり理由つけて違う方をお勧めしてくれたので、どちらがいいのか混乱する。

 12歳のときのオレはどちらでもいいと思っていたし、自然な流れに任せるつもりだったが、昏睡から目覚めた後は、何となく男になると思っていた。アリスがそう言っていたから、そっちが向いてると思ったのかもな。

 そう言えば、性別によって意見がくっきり分かれていた。ばばあはオレは男になってばりばり捜査官やりなと言っていたが、祖父さんと博士とボーディのじじい三人は女の子がいいと言っていた。現在のオレの状況は、ばばあが当てているので、やはりこっちが向いていたのかも」


「あなたの祖父も含めた、じじい三人分の意見も聞いてあげるべきだと思います。ボーディ前局長に、あなたが<菩提樹>に行くことにしたことを伝えておきましたが、私にも<菩提樹>の招待状をくれましたので、今から一緒に荷物を置きに行って、ご意見も聞きましょう」


 連絡してくれるのは助かるし、手配も早いと思うが、じじいのご意見とやらは必要か?そう言う暇もなく、転送装置に押し込まれた。


ここまで読んでくれてありがとうございました。

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