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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第一章 英雄と黒猫
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13 本当の内通者


 <菩提樹>の給仕が青茶を持ってくるのが見えたので、受け取りに行った。


 一応機密の話をするので、テーブル周辺の音が遮断される防音装置を起動させていたし、これが作動していることが表示されていると、給仕側も近づきづらい。

 残っている人数分の茶器も用意されていたので注いで配ったが、複雑な顔した三人のうちローゼスがようやく言葉を発した。


「アタシね、これは正当な取引だし、先払いで重要情報を言ってくれたし、これ以上要求するのはいけないと思うんだけど、でもね、ここで話をやめられると、不完全燃焼な気分になるのが分かるかしら!?」


「ローゼス、それよりも、危険人物を手引きするような内通者が野放しになっていると分かっているのに、放置する気でいるあたりを窘めるべきですよ。警備局長とアーデル捜査官には圧力かけてでも取引成立させますので、内通者が誰かを教えてください」


「ボーディは無関係だろ」


「私は関係者ですし、必ずアリス・ノートをいただいてきますので、先んじて教えていただけませんか?警備局を信頼できなくなるような経験をされているので、私のことも信じられないかもしれませんが、信用していただく努力は惜しみません。追加要望があれば応じさせていただきます」


「そこまでしなくてもいいが、ああ、そうか、選考委員会の関係者って、姉の身近にいてもおかしくない人たちの集まりか。分かった、なら取引に応じる。

 アリス・ノートが入手できなかった場合のことが気にかかるなら、そのときはマリア・ディーバに遺物の楽曲の中から子守歌を歌って公開してもらうよう計らってくれ。たまには旧世界管理局の印象向上のために働かないと、前局長も現局長もうるさいからな。前局長は、秘蔵の青茶を出してくれればいい。ローゼスは次回の倉庫当番変われ」


「なんか、だんだん扱いが軽くなってくわね。ま、あんたの正当取引の感覚が狂ってるのはいつもどおりだけど」



 全員了承して、秘蔵の青茶が来たところで、もったいぶらずに言うことにした。


「むしろ、何故誰も疑わないのかと思うが、選考委員長だ。ただし、内通している相手は復古会の過激派でない方だ。過激派にも情報を流していただろうが、取引相手はあくまでも復古会の残っている本体の方だと思う」


 取引条件は達成したので、前局長秘蔵の青茶を飲んだが、さすがに香りも味わいも段違いだ。お替りを注ごうとしたら、ボーディに茶杯を取り上げられた。


「わたしが注いであげますから、解説もお願いします。それに見合うだけの茶葉のつもりですよ」


「……確かに。では、占拠事件で一番不可解なところを言うが、杜撰な計画と、ろくでもない人材のせいで、本来であれば占拠事件のような大事件が起こるはずもなかったことだ。

 復古会過激派は中庭に潜入した段階で不審者として捕縛されてもおかしくないし、内通者が中庭に通じる扉を開けたとしても、建物内に入ったところで捕縛されてもおかしくない。ホールが封鎖されて占拠されるという状況が成立してしまったからこそ、人質を盾に要求を通そうとする凶悪な大事件と認識されたわけだが、おそらくそれは、誰にとっても想定外の事態だったのだと思う。

 過激派のリーダーですら、封鎖にまで至るとは考えてもいなかったのだろ?本物の内通者にも、その後ろにいる本当の計画者にとっても、想定外過ぎたはずだ。

 オレは、過激派は何故ホールを封鎖できてしまったのか、非常に疑問だった。ホールに至る前に全員捕縛される機会はいくらでもあったはずだからな。リリアがいなければ確実にそうなっていたはずで、その場合は、復古会過激派が大それた事件を企んで、祝花祭の花王選考会場を襲撃しようとしたが、警備局によって捕縛されたという筋書きになったはずだ。

 祭に水を差さないためにも大事にせず、復古会は関係者に誠心誠意謝罪して過激派は解散、犯罪行為をしようとした者はしかるべく特別隔離所か更生隔離所行きになる。というのが自然な流れだと思わないか?」


「……否定できないわ。リリアが悪い方向にいい仕事し過ぎてなければ、扉は少なくとも一つは開いていたし、そこから即座に飛び込むなり、強行突入もできたはずよね。いえ、そもそも、リリアが中庭に出さえしなかったら、各扉の警備員半減って事態もありえなかったし、過激派がホールに入ることもできなかったはずよ。

 うわー、やだわ、あの小娘、とことんやらかしてくれるわね。リリアがひっかき回さなかった場合を考えたら、ユレスの言う通りだと思うわ」


 ボーディがゆったりと茶を飲みながらも、かすかに溜息をついて言った。


「その場合でも、最終的に変わらない結果がありますね。復古会は事件を起こした過激派を解散させます。ユレスが言うところの本当の計画者の目的は、そうだと言いたいのですか?」


「だとしたら、納得できる。警備局長が言うには、復古会は新たに独自王国を設立しようと考えるだけあって、構成員、王国の民と呼ばれるらしいが、王国の民どうしの結束は固く、一度加入したら滅多なことでは追い出したりしないように誓い合うらしい。性犯罪に走る可能性のある人であれ、それだけで追い出せないのだろうな。

 とはいえ、多大に迷惑をかけてくる過激派を、誓い合ったからとずっとそのままにしておくのも無理があるだろ?かと言って、他の王国の民の手前、追い出すと角が立つ。仲間として支え合い、互いに切磋琢磨して成長しようみたいな高潔な理念掲げているから、困った仲間は当然教育して更生させるべきだと考えるし、考えなくてはいけないのかもな。

 だが、困ったことをしそうなやつらが事件を起こして犯罪者になれば、堂々と追い出せるし切り離せる。冤罪かけて犯罪者にしてしまえ的な発想だが、性犯罪者の素養があるのを、煽って追い込んで暴走させたくらいだと、当人たちの素養の問題とも言える。

 犯罪教唆されたところで、実際に犯罪行為をするかどうかは当人の責任問題だし、やってしまったことを無かったことにはできない。事件も起こせないまま過激派に挫折してもらっては困るので、復古会はしっかり事件的なものが起こって捕縛されるよう、内通者も用意して準備もしてあげたのではないかと推測した。

 本物の内通者がどこまで復古会の事情を知っているのか分からないが、過激派もそれ以外も大して変わらないと思って、素直に言われるがまま過激派と繋ぎをとった可能性もある。そこらへんは調査が必要だろうから、めんどくさいと言った」


 そこまで調査しろと言われたらさすがに断るつもりだが、アレク班長は無茶振りをするつもりは無いらしく、オレに向かって頷いた。


「……調査は警備局にお任せください。その代わりと言える立場でも無いですが、内通者が選考委員長であると判断した根拠をお聞きしていいですか?正直に言えば、彼が内通者となる利点を思いつけません」


「そうよねぇ。だって祝花祭の主役の花王選考会よ?そこで事件が起こったら誰が一番困るかと言えば、選考委員長じゃないのよ。だから身を挺して犯人一味を止めようとして向かっていって、まあ、役に立たなかったし人質になったけど、思いっきり殴られても奮闘したのは事実だし、怪我した顔の映像も公開されたわよね。

 アレク班長の華々しい活躍の影に隠れちゃったけど、あれはあれで英雄的行動だと思うわ。あ、でも選考委員長が内通者ならそれも演技で、疑われないようにするためなのかしら。もしかしてそこで怪しんだの?現場にいたアレク班長は、選考委員長をどう思ったかしら?」


「……疑っていませんでした。扉が閉じられようとするのを必死に止めようとしていましたし、あれが演技ならものすごい役者だと思います。それから、手加減なしで顔面を真正面から殴られていたので、人質に取られたときには半分意識が無い様子で、だからこそ、警備員も強硬手段に出たら選考委員長に万が一のことがあると判断して引いたわけです。

 私がキャットウォークを移動していた頃に何とか意識が戻ったようですが、人質たちと姉のことも必死に庇っていました。私が英雄に祭り上げられるのが納得いかなかったのもあって、選考委員長の方がよほど英雄的行動だと証言していたくらいです。

 つまり……ろくに調べもせずに良いことでは無かったとは思いますが、私の中では勝手に内通者候補から外していました。自分と姉のこともですが」


「人ってそういうものだと思うわぁ。一流捜査官のアーデル捜査官ですら、妹可愛さに冤罪かけてそれを後押しするくらいだもの。ユレス、解説お願いするわよ。アタシたちが納得できるようにね。選考委員長は何のためにそんな真似しないとならないわけよ?」


ここまで読んでくれてありがとうございました。

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