表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第七章 神人と黒猫
128/371

6 不穏な状況


 警備局のオレに対する理不尽な扱いに、屈することなく抵抗しようと心に決めたところで、アレク捜査官が、ところでお話がありますと切り出した。


 説教なら聞くつもりでいるが、それ以外のことに関しては抵抗する。オレの決意が分かったのか、何故かたじろいだ。


「あの……そんなに真剣な顔をしなくても、いえ、真剣に話を聞いていただきたいので、それはいいのですが」


「いんや、これは面白くないから抵抗するって顔だ。儂らの用件を察知したんだろう。いいか、子猫ちゃん、捜査官なのに警護されるとか保護されるのが気に喰わんってのは分かるがな、ユレスはユーリやクレアと違って、自衛も危なっかしいだろうが。素直に保護されろ、せめて儂の屋敷に移住しろ、いいな!」


「博士、その言い方ですと、余計に反発されますって!あの、ユレス、取りあえず話を聞いてください」


 警備局長の協力者である旧世界管理局の黒猫は<知識の蛇>に警戒されているし、目の敵にされている。


 マイクルレース場の最難関コースのレースが終わった後、ボーディとオレが退場した後で、アレク捜査官はゼクスから黒猫の仕込みかと言われたそうだ。


 アレク捜査官もオレたちに不意打ちされた身なので、何も知りませんでしたと回答したそうだが、ゼクスはそれで何事か了解してしまったらしい。蛇の連中が警戒するだけある怖い相手だなというのがゼクスの感想である。

 そして、そろそろ怒り狂った蛇が噛みつきに行くと思うぜという不穏な言葉を残して去って行った。


 ゼクスが蛇と関わりがあることは確定したが、言い方からして、ゼクスは<知識の蛇>の構成員ではなく協力関係にあると推測される。


 そして、ゼクスにしろ<知識の蛇>にしろ、旧世界管理局の黒猫を過大評価し過ぎだ。

 黒猫はご隠居様の暴挙に抵抗しきれず、子守猫はにゃあにゃあ叫んでいたし、オレの方は意識が無かっただけだというのに。


 だが、アレク捜査官の見解では、ゼクスはボーディと一緒に優勝してしまったオレが黒猫だとは思っていないらしい。


 あんなに分かりやすかったのに何故分からないのかと言いたいが、旧世界管理局の隠蔽工作と情報攪乱が優秀だったし、ドルフィー効果が絶大だったからだそうだ。


 オレは難関コースが終わった後、服とバイザーだけを取り換えて最難関コースに連れ込まれたが、それ以外変えてないので、難関コースの優勝者が最難関コースに再び出て来たのが分かりやすかった。


 確かに時事情報放送でオレのことは、難関コースと最難関コースを両方制覇した不動覇帝とか、ろくでもない言い方で取り上げられてる。

 優勝した後、取材にも答えずクラフターから出ることすらせずに、悠然としていたからのようだが、オレは単に目が回っていたり意識が無かっただけだ。


 そんな不動覇帝は、自然環境課の職員だと思われている。

 難関コースは自然環境課の職務枠で出場しているので、そこは誤魔化しようがないからだ。


 マークとお揃いのドルフィー装備でドルフィー号に堂々と乗り込んだので、疑いの余地もない。

 博士が、アリアがドルフィーを知り尽くしているがごとき風格があると絶賛していたといらんことを言ったが、だったらデルシー関係者というか、旧世界管理局職員だと疑われてもいいと思うのだが。


 最難関コースには前の旧世界管理局長と共に出場したし、隠居と孫というそのままな芸名だったから、むしろ疑うべきだ。


 だが、難関コースのドルフィー号の印象が強すぎた。


 自然環境課枠で出場しておきながらも、しっかりデルシーの宣伝もしていたので、ボーディはデルシー繋がりで、自然環境課の職員を借りたのだろうと自然に納得されたようだ。


 伝説の年に親子制覇したときの息子も世界研究局自然環境課だったこともあり、孫も自然環境課なのだとごく自然に受け入れられ、自然環境課もごく自然にうちの職員だと回答している。


 ローゼスが手を回して、オレの情報は出さずに攪乱するように依頼していたようだが、リック博士はドルフィーのためにオレの安全確保は全力ですると約束してくれたそうだ。


「つまり、難関コースと最難関コースで優勝してしまったのが、旧世界管理局の黒猫だとばれていないのであれば、別にいいのでは?」


「おいおい、子猫ちゃん。問題はそれだけじゃないだろが。プロメテウス工房も蛇だ。旧世界の遺物使って技術開発してたぞ。大レース会が終わった後、慌てて装置やら資材かき集めて夜逃げしたようだが、結構残ってたから儂が検分してきた」


 プロメテウス工房はレクサ工房を追い詰めるようなことを仕掛けて来ていたわけだし、マイクルレース場の大レース会で派手に宣伝するつもりであったと想定されていたので、アレク捜査官はプロメテウス工房に捜査の手を入れるべく手配していた。


 その動きを察知したかのように、即座に夜逃げするあたりは見事な対応だが、元々そういう計画はあったのかもしれない。

 夜逃げして<知識の蛇>の拠点に逃げ込んだので、プロメテウス工房は蛇だと判明した。


 プロメテウス工房に残されていた大型装置や物品については、世界研究局に検分を依頼して、蛇と旧世界遺物の両方に詳しいジェフ博士に見てもらったそうだ。


 遺物そのものだと旧世界管理局の管轄だが、遺物を元にした技術開発とか技術転用となると、世界研究局の範疇となる。

 ジェフ博士は旧世界遺跡調査のときに使えそうな技術を見つけたら、世界研究局の担当課に連絡して紹介することもしているので、その鑑定眼は確かだ。


 実は祖父さんの特製クラフターも、旧世界の技術を転用した技術が組み込まれている。ジェフ博士は、親友の趣味に個人的に協力したらしい。

 そのおかげで、特製クラフターは最難関コースで優勝できるほどの性能になったのかもしれないな。


 プロメテウス工房は難関コースでも最難関コースでも優勝を逃したし、徹底的に追い込んだはずのレクサ工房製のクラフターに優勝を持っていかれた。


 ボーディ前局長がレクサ工房と縁が深いことは優勝者の取材の際に大々的に宣伝したようなものだし、どちらも旧世界管理局が背後で画策したと思われてもおかしくない状況だ。


 難関コースが始まる前に、付き添って来たローゼスとプロメテウス工房製クラフターに乗る優勝候補が派手にやりあったしな。

 監視役の巨大蝶をつけて派手に目立つローゼスは、旧世界管理局職員を堂々と主張しているし、レクサ工房を応援しているのが分かりやす過ぎた。


「プロメテウス工房というか<知識の蛇>が、旧世界管理局の黒猫が事態を察知して邪魔して来たと思ってもおかしくない状況なのは分かるが、オレは冤罪を主張したい」


「主張したとこで、聞く耳ねぇのは分かってるだろ。それから、冤罪捜査官も蛇と一緒に逃げて、蛇の拠点に行ったんだろ?ある程度情報掴んだから、ユレスの外出制限は解除されたんだろうが、危機感持たんとまずい状況だ。

 蛇も絡んでる壮大な計画ってのを儂も聞いたが、本気で実行してるとなれば、黒猫は邪魔に思われるだろ。そういや、特別療養所に入る前のユーリも似たようなことを言ってたんだよな。あの頃は旧世界映画の見過ぎだって片づけたんだが、今となっちゃ、ユーリとユレスの推測が正しいと儂も思っている。ベルタも同意見だから、自治区構想について話して回ってるし、儂もときどき同行して意見述べてるぞ」


 ばばあとじじいは働き者だな。


 それだけ事態は切迫していると判断したのだろうが、失踪した治療局長以外の局長と、世界管理機構の重役には大体説明し終わったそうだ。

 だが、すぐに制度ができるわけでもないし、追い込まれた蛇が反撃して来たり、壮大な計画の一環で再び大事件を起こされる可能性もある。


 ということで、ジェフ博士とアレク捜査官が主張したいのは、旧世界管理局の黒猫であるオレは、壮大な計画を見抜いてことごとく邪魔して来たような状態でもあるので、目の敵にされているし、オレを恨んでいるか憎んでいるアーデルも蛇についた以上、オレの身が危険だから素直に保護されろということだ。


 不穏な状況であることは分かるし、二人がオレを心配して言っているのは分かるのだが、オレとしては素直に頷きたくない。


 別に理不尽な扱いに対しての抵抗を決意したからではない、いや、少しは抵抗したい気分はあるが、戦略的判断の方だ。


「それ、警備局のばばあの指示じゃないだろ」


ここまで読んでくれてありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ