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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第七章 神人と黒猫
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4 旧王国遺跡


 お茶を飲みつつ<菩提樹>特製弁当を食べながら今後の話をしていたが、次はボーディが祖父さんのところに行くよう、局長が仕切った。

 毎日お弁当を持って通って来てくれていいと言ったが、祖父さんのためではなく自分のためというのを隠さないあたりが清々しい。


「あ、そうだ、ユレス捜査官の外出制限を解除するよ。警備局から正式に蛇の拠点を確定したって連絡があった。特別隔離所から脱走した蛇も、アーデルもそこにいる」


「旧王国遺跡と聞いていたが、そこで確定か?」


「そうだよ。ま、納得じゃない?デルシーの支配人も前々から怪しいと思って監視していたし」


「そうですね。世界管理局が管理している遺跡ですので、調査までは指示しませんでしたが、胡散臭いと思っていました。デルシーに干渉しない限りは放置でいいと思いましたけれど」


「世界管理局は大騒ぎのようだね。保管倉庫の爆破に関わっていた職員のことでもごたついてるのに、旧王国遺跡の管理責任者も失踪したし、ついでにヘンリー一族を再教育していた施設から全員脱走したし。それも世界管理局職員が内部から手引きしたみたいだよ」


 オレが眠り込んで起きなかったので再び昏睡の可能性があると心配されたのと、警備局の特別隔離所からアーデルの手引きで蛇の関係者が脱走して、ついでにオレを目の敵にするアーデルも行方を眩ませたことから、局長は蛇とアーデルの潜伏先が把握できるまでは、オレは旧世界管理局の外に出ないよう命じた。


 祖父さんの記憶の再構成をするつもりだったし、マイクルレース場でやらかしたばかりなので、オレは素直に従った。

 元々引きこもり気質だし、旧世界管理局の捜査官室には仮眠できる場所もある。


 そんなわけで、眠った状態でローゼスに連れて来られて以降、旧世界管理局から出ることなく日々を過ごしていた。


 その方が警備局にも迷惑がかからないだろうからな。

 アレク捜査官は<知識の蛇>とかアーデルの標的にされかねないオレの身を心配してくれていたので、オレが引っ込んでいる方が職務に専念できるはずだ。

 

 ベルタ警備局長は、特別隔離所に集めた<知識の蛇>関係者に発信機を仕込んでいた。何をどうしたのかは、秘密だよと言って教えてくれなかったが、蛇にも気づかれずに仕込んだらしい。

 ついでに懲罰中で監視下においていたアーデルにも仕込んでおいた。鋼の女は強かで手回しがいいのだ。


 発信信号を追跡した結果、この世界の歴史上の古い国の跡地である、旧王国遺跡周辺にたどり着いた。

 デルソレから海を越えて少し行った先にあるので、水中劇場船で誘拐した人たちを移送する先としても十分にありえる位置である。


 蛇の拠点がある可能性はかなり高いし、警備局は確証を得るために調査部隊を送ったと聞いていたが、確定に至ったんだな。


 世界管理局が管理している遺跡で、その遺跡の管理担当の職員が失踪したとなれば、その職員も壮大な計画の協力者なのかもしれない。

 遺跡の管理者が庇うか隠蔽していたのであれば、蛇の拠点が今まで発見されなかったのも納得だ。



 デルシーの支配人がオレに説教しつつ、旧王国遺跡関係のことも話したが、申請しないと見学許可が下りないはずの旧王国遺跡方面に、海上陸上問わず出入りが多いことに気づいていたそうだ。

 海を越えた向うの沿岸で、何かの調査をしていたり、施設を作ろうとしている動きも捉えていた。


 だが、その一帯の海はドルフイー王国と言ってもいい領域なので、ドルフィーと関係を繋いでいない限り、施設を作ったり資源を採取することは困難だ。

 生産局が無理やり塩の精製施設を作ろうとして失敗して、ドルフィーの子ども誘拐事件が起こってしまったように、上手く行かない。


 デルシーも含むあの一帯では、すべてはドルフィー次第なのである。


 デルシー支配人は状況を監視しつつも、オレを使ってドルフィー人気を煽り、ドルフィーファンたちを増やしてデルシー周辺海域の安全を確保するという、ある意味壮大な計画を実行していたそうだ。


 マイクルレース場の難関コースに出場するマークを応援したのも、その一環である。

 いい宣伝になると思ったが、まさかの優勝をするとは思っていなかったそうだが、万が一に備えて職人に最優先で作ってもらった巨大ドルフィー型人形の出番がさっそくあったと満足そうに言っていた。


 だが、さすがの支配人も、ボーディ前局長の暴挙による不意打ちには動揺したらしい。難関コースもオレとマークの身を心配してはらはらしていたそうだが、最難関コースは見ていられなかったそうだ。


 オレの身に何かあったらドルフィーたちも悲しむし、ひいてはデルシー周辺海域の安全にも差し障りがあるので、説教せざるを得ないと言う趣旨であった。


 それから、オレの身柄を抑えれば、ドルフィーが言うことを聞くのではないかと考える愚か者が出て来るかもしれないので、身の安全を図るため、しばらく旧世界管理局から出るなと念押しされた。


 デルシーに行っていたときも、支配人はオレがデルソレに連れ去られるのを警戒していたが、デルソレを監督しているはずの世界管理局が、デルソレを妙に優遇して後押ししているのが引っかかっていたようだ。


 世界管理局にも蛇の関係者なのか、壮大な計画の関係者が何人も潜んでいたのは間違いないのだろう。


 遺物展示交換会のときに捕縛されたヘンリー一族は、洗脳教育を受けたようでもあるので、特別な施設で再教育するとして世界管理局が引き受けたそうだが、内部からの手引きで全員脱走となると、もう取り繕いようもないな。


 ボーディがゆったりお茶を飲みながら言った。


「世界管理機構の統制にも限界が来ているようですね。旧世界管理局は前々から人権無視した規制を押し付けられていましたから、いつか限界が来るのは確信していましたが」


「限界が来る前に対策取るべきだったけど、限界が来ないと事態を理解できないってのもあるよ。警備局長から自治区構想聞いたけど、ユレス捜査官が考えたんだって?よくそういうの思いつくね」


「捜査官席にいてもやることないし、旧世界事件記録を読んで暇つぶししていたからだ。旧世界小説も、名探偵ホームズシリーズは全部読破したし、旧世界資料も幅広い範囲のものを読んだと思う。名探偵ホームズの推理力は知識の範囲が限定されず、ありとあらゆるものに精通していたからだ。祖父さんの相棒のホームズも広い視野と広い知識を持つようお勧めしていたからな」


「AIのホームズがユレスの師匠のようなものですからね。ユーリ捜査官を師匠にしないでくれて、本当に良かったと思います」


「ユーリ捜査官は旧世界のハードボイルド系探偵だからね。推理もするし、腕力とか戦闘もこなせるけど、ユレス捜査官は安楽椅子探偵でいいよ。ぎりぎり護身はできても、それ以上は無理だし」


「オレも分かっているし、弁えてるつもりだ。無謀な挑戦をするつもりもない。だが、外出制限が解けたなら、自宅に戻って来てもいいか?祖父さんが手作りした道具とか子どもの玩具が置いてあるから、そういうのを見せたら記憶の再構成の助けになるかもしれない」


「確かに、一生懸命作っていましたので、その可能性はありそうです」


「うーん、外出制限解除したから駄目とは言わないけど、気を付けて行ってきなよ?何なら警備局に警護つけてもらってもいいけど」


「その方が目立つだろ」


 オレは一応捜査官資格があるし、つまり護身くらいはできる。未分化型で未成年にも見える容姿だからか、周囲は心配し過ぎだと思う。


ここまで読んでくれてありがとうございました。

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