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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第七章 神人と黒猫
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3 伝説の日の裏側


 ベルタ警備局長の証言によれば、在りし日の特製クラフターが変形していくのにつれて、ぼんやりとしていた祖父さんの様子が徐々にしっかりしていったそうだ。


 そして、劇的なくらいに突然、精神機能が回復した。


 第一声は、うちの息子を引きずり出しやがったな!?だった。


 祖父さんにはオレが息子である父さんに見えたんだな。

 そして、ボーディが暴虐覇王が最難関コースでやらかしたことに対しての腹いせか復讐に、息子を連れて再び最難関コースに挑んだと解釈したようだ。


 祖父さんは、ぎゃーぎゃー言いながら、時事情報放送の画面に張り付いて、息子の無事を祈った。

 ベルタ局長も祖父さんの様子は気になるものの、鋼の女ですら直視すると心臓にきたらしいレースを見守って、オレの無事を祈った。


 オレが無事にレースから生還して、二人揃って崩れ落ちたところで、祖父さんがようやくベルタ警備局長に気づいた。


 ここどこだ?何でベルタがいるんだ?と聞かれて、ばばあはすかさず現状を説明しようとしたが、祖父さんは精神は回復しても、記憶は再構成しきれなかったことが判明した。


 ボーディと一緒に最難関コースで優勝したことまでは覚えているが、その後の記憶が無かった。

 ただ、しばらく奮闘したベルタ局長の努力の結果、優勝後の記憶に関わることを言ったら、ああそうだったと連鎖的に思い出していくことは分かった。


 記憶の再構成は可能である。

 だが、その道のりは長いと遠い目をした鋼の女のところに、アレク捜査官から特製通信機で連絡が来たので、ここはオレに任せようと、オレを連れて来いと指示したわけだ。


 アレク捜査官に指示したあと、ようやく警備局長としての職務も思い出したらしい。


 警備局長と連絡を取りたいと、特別療養所の通信室には通信が殺到していたが、特別療養所の職員は今は警備局長は取り込み中だと断り続けていた。


 祖父さん担当の治療官に、祖父さんの精神に変化があるかもしれないので、呼ぶまでは自分に任せるように言っておいたし、最難関コースのレースが終わった後で治療官が療養室に様子を見に行ったら、ベルタ局長が大騒ぎしていたので、配慮されたのだ。


 なお、レースに興奮した他の療養者たちも大騒ぎしていたので、落ち着かせたり鎮静剤を処方したりするために特別療養所全体も忙しかった。


 治療局の他の施設が襲撃されたことは把握していたが、治療局の決定に従って施設は封鎖したし、警備局長が見舞いに来ているので、どうにでもなるという安心感もあった。


 かくしてベルタ警備局長は、ごく自然に特別隔離所や更生隔離所の襲撃事件から遠ざけられていたのである。


 ようやく色々と思い出した警備局長は、オレを迎えに待合室に行く前に通信室であれこれ指示するのに忙しかった。


 オレが到着したと連絡が来たので待合室に行って、オレを祖父さんのところに向かわせてから、アレク捜査官も通信室に連れ込んで仕事を手伝わせることにしたくらいに忙しかったので、オレに対する説明も忘れていた。


 オレは祖父さんがとうとう精神崩壊したのだと覚悟して療養室に入ったら、無事だったのか!と祖父さんに抱き着かれて父さんの名前で呼ばれた。意味がわからないのと状況が分からないので、混乱したままもみくちゃにされたぞ。


 ベルタ局長は大変お忙しかったのは分かるが、オレに説明しておくべきだったと思う。


 通信室で一通り指示を出し終わってから祖父さんの療養室に駆け戻ってきて、オレの腕輪に状況報告書を送ってから再び職務に走って行ったが、通信室でアレク捜査官に祖父さんのことを聞かれて、ようやくオレに何の説明もしていないことを思い出してくれたらしい。


 状況報告書はアレク捜査官が作ったものだった。あの日は、何から何までお世話になったと思う。



 マイクルレース場に残して来たボーディも、後始末の手配をしてから迅速に駆けつけてきた。

 そして、二人で祖父さんの記憶の再構成を試みたわけだが、祖父さんがやらかした話が後から後からでてきて、ほとんど進まなかった。


 経験や記憶が膨大すぎる弊害だ。

 連鎖する記憶を順番に構築していかないと先に進めないので、長期戦になることは確実だったので、当面の対応についてはすぐに結論が出た。


 祖父さんを旧世界管理局に移して、じっくり取り組むしかない。

 だが、祖父さん当人だけでなくナイン・エスの技能も<知識の蛇>に警戒され敵視されている以上、祖父さんが回復したと知られると面倒なことになる。


 ゆえにボーディは再びの暴挙に出た。

 死んだと思われた方が安全という発想で、祖父さんを旅立ちの船に入れて旧世界管理局に移送することにしたのだ。


 ご隠居様の最後の良心は暴虐覇王たる祖父さんに殺されていたので、オレはもう暴挙とすら思わなくなっていた。

 祖父さんも疑問にも思わなかった。そういう作戦行動に慣れ過ぎているのがわかりやすい感じで、任せろ、死体のふりは得意だと率先して箱に入ってくれた。


 旧世界管理局職員が死亡した場合、遺体を旧世界管理局に移送しなければならないので、怪しまれることなく特別療養所から旧世界管理局に祖父さん入りの旅立ちの船を移送できたと思う。


 当然のことながら、特別療養所にも協力してもらった。

 警備局長から、人命保護のためとして正式に協力要請して貰って、所長と祖父さん担当の治療官には口止めもした。


 それ以外の人に対する説明をどうするか悩ましかったが、祖父さんが最難関コースのレースに興奮したあまりに心臓が……と言うだけで納得されてしまった。

 特別療養所では、興奮のあまり心臓にきたり気絶した人たちもいて、治療官たちも大騒ぎだったので、納得のいく理由だったようだ。



 オレはレースに出場した姿のまま祖父さんの療養室に駆けこんだが、幸いにも目撃者はごく少数だった。


 ローゼスがオレの着替えを持ってくるまで療養室に隠れて待機しろと言われて祖父さんの療養室に残ったが、盛りだくさん過ぎて疲れる一日だった。そのせいで、抵抗できずに眠りに落ちた。


 オレの着替えを持ってローゼスが来たときには、オレは呼んでも起きないくらいに深く眠っていたらしい。

 それで昏睡したかと思われて、即座に旧世界管理局の治療室送りになった。


 普通に目覚めたが、その直後から事情聴取が始まり、尋問もされて、説教もされた。

 治療官だけでなく、課長や局長や姉御や何故か来ていたデルシーの支配人からも指導や説教やお小言を聞かされ続けた。


 ご隠居様とオレが不意打ちで最難関コースに出場したのは、それだけ関係者各位を動揺させて混乱させたのだ。


 責任はご隠居様にあるが、お供として止めなければならなかったらしい。ご隠居様を見習って、祖父さんのために仕方なくと言ってみたら、更にお説教が増えたし、祖父さんからも説教された。


 祖父さんは、オレというか父さんが、ボーディに祖父さんの代わりにと押し切られて最難関コースに出場したと認識しているので、自分のことは潔く見捨てて抵抗しろという主張だった。

 前々からそう言っておいただろと言われたが、祖父さんは父さんに一体どういう教育をしていたのだろうか。


 怖いので知らなくていいことは知りたくないのだが、祖父さんの記憶を再構築していく過程で知ってしまうことになるかもしれない。

 祖父さんの記憶を再構成するには、祖父さんの話を聞きつつ、新たな記憶に繋げていかねばならないのだ。


 そのためには100年以上前の祖父さんの記憶の中にいる人が話すしかないし、オレは祖父さんの息子の父さん役として変装した姿で話を聞き続けている。


 祖父さんには旧世界管理局遺物管理課の第三研究室で生活して貰って、オレはそこで旧世界事件捜査をしていることになっているが、祖父さんが捜査官として旧世界事件の捜査をした話も出て来るので、嘘ではない。


 だが、それ以上に、祖父さんがやらかした話が大量に出て来るので、自白されたオレの精神の方が削られていたりする。

 後から後からいくらでも新たな話が出て来るので、進捗は順調なのかもしれないが、先行きが長すぎるのもオレを追い詰める原因だ。


 あと数年話を聞き続けても終わらない予感がする。


 そこまでして記憶を再構成せずともいいのではないかと思ってしまうが、祖父さんはオレが昏睡した後、一人であちこち調査に出かけていて、何か重大な情報を掴んだらしい。


 旧世界管理局にその連絡があった後、精神がばらばらになってぼんやりしている状態で発見されたので、祖父さんに何があったのかも含めて確認せざるを得ない。


 だから、何とかそこまで祖父さんの記憶を再構成するしかないのだ。


ここまで読んでくれてありがとうございました。

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