表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第六章 隠居と黒猫
114/371

19 暴走する目的


 難関コースの参加者は集合と連絡が来たので、目的を見失ったドルフィーファンたちの期待を背負って格納庫を出た。


 ローゼスが付き添って来たが、一応は本来の目的を忘れていなかったからだ。

 入場前のクラフターが集う、コースに通じる大格納庫に着いたところで、あいつよ、あいつと言ったが、オレも一応、優勝候補にしてオレたちが邪魔する標的の顔と、公開されているクラフターの映像くらいは確認して来たんだが。


 優勝候補の二人は明らかに目立つというか、押しが強そうな雰囲気で周囲を圧倒しているので分かりやすかった。だが、目立つという一点においてはオレたちも十分に張り合える。

 オレたちが大格納庫に入った瞬間に、オレたちを見た出場者たちの間に動揺とざわめきが走ったからな。


 優勝候補としての余裕を見せつけていたバロン・ダンテ組も、さすがに気になったのかオレたちの方を見たが、二人揃って噴き出した。


 まあ、分かる。


 難関コースに出場しに来たのではなく、ドルフィーの宣伝に来たとしか思えない、浮かれた状態になっているからな。クラフターだけでなく、出場者のオレたちの服装もそうだし、どこからどう見ても色物集団だ。

 付き添って来たローゼスも派手に目立つから、いっそ芸人集団に見えてもおかしくない。


 クラフターに大きく描かれた世界研究局自然環境課とデルシーの文字を見て、周囲も優勝候補の二人も、職務参加だからかと納得してくれたようだが、優勝候補二人は、大きく描かれたレクサ工房の刻印に目を止めた。

 他の出場者、おそらくレクサ工房を切ってプロメテウス工房製に乗り換えた出場者も少し動揺したようだが、優勝候補二人は、オレたちのところにわざわざやってくるくらいには気になったらしい。


 めんどくさいなと思ったが、ローゼスが前に出た。もしかしてこのために付き添って来たのだろうか。


「あーら、男に見境のないダンテじゃないのよ。なーに、まさかアタシを口説こうって言うのぉ?さすがのアタシも、妹のお見合い相手はお断りするしかないわ」


「ああ、あの中途半端なお嬢さんの兄上か。安心していい、キミは好みじゃないからね。大事故のおかげでお見合いがなくなって残念だよ、本当に」


「ふん、お見合いすっぽかして大事故に合わずにすんだ男がよく言うわね。もしかして、事故の気配でも察知して自分だけ逃げたのかしらぁ?やっだ、それって男の格が落ちそうねぇ」


「……何が言いたい?」


「あらぁ、何か心当たりでもあるのかしら?でも、アタシ、兄として、妹がこんな男とご縁が無くて良かったって心から思ってるから、流してあげる。あんたと見合いさせるくらいなら、ドルフィーと見合いさせるわ!」


「ローゼスさん、俺ですらそんなこと許して貰えていないのに、高望みし過ぎですよ!」


「頭は大丈夫か?たかがこんな動物に」


 面白くなさそうな顔でダンテとローゼスのやりとりを見ていたバロンが、言ってはならないことを言った。

 それは、全ドルフィーファンを敵に回す発言だぞ。マークとローゼスが揃って口を閉じたのを好機と見たのか、ダンテまでいらんことを言い始めた。


「人気って聞くけど、何がいいのかさっぱり分からないな。賢い動物と言っても、それだけだろ?大して美しくもないし、魅力的でもないのに、何でそんなに夢中になれるのか。

 それより、キミ。自然環境課の新人にしては落ち着いているな。それに、すごく見覚えがある気もするんだが、もしかして、キミの父親に見覚えがあるのかな。伝説の年に親子制覇した息子の方って、自然環境課の新人だったよね」

「まさか、あの暴走野獣の!?」


 おい、ローゼス、変装した意味もなく、正体見破られたぞ。だが、祖父さんとか父さんっぽく変装しているから、間違ってはいないのか?

 それから、父さん、暴走野獣って何だ?知りたくないから聞き流すが。


「っふ、あんたたち、世界には知らない方が幸せなことはたっくさんあるから、追及しない方が良くてよ。でもねぇ、気になるだろうから、このクラフターのことくらいは教えてあげる。自然環境課のクラフターはちょっとした事故で傷がついていて困っていたんだけど、親切なレクサ工房の人が寄付してくれたのよ。最近、色々と、困ったことが続いていたみたいだけど、窮地のときほど、人の本質が問われるわよねぇ」


「本当ですね。俺もせめてものお返しに、レクサ工房の宣伝もさせてもらうつもりです。ドルフィーの絵を描くのにも協力してくれた、いい人たちですし!」


「そうよね!老舗の伝統あるクラフター工房は違うわよねぇ。そう言えばぁ、伝説の年に優勝した親子の乗っていたクラフターもレクサ工房製だったわねぇ」


 そうなのか?オレは知らなかった。クラフターとかレース関係は全然知らなかったので当たり前だが、祖父さんが情報制限していたのは確実な気がする。父さんですら暴走野獣なら、祖父さんが何と呼ばれたのか絶対知りたくない。


 ただ、ボーディの不可解な態度の理由は分かったかもしれない。レクサ工房に思い入れでもあるのかと思ったが、祖父さんと一緒にレースに出場したときのクラフターがレクサ工房製ならば、在りし日の思い出なのだろうな。

 レックスたちのクラフターがレクサ工房製と見分けて、事故った二人を助ける気になったし、二人の事情も踏み込んで聞く気になったのかもな。


 オレが納得している間、ローゼスと優勝候補の間にギスギスしたやり取りがあったが、幸いにもコースへの入場が始まったので、途切れた。


 優勝候補の二人は最初に入場だったので、宣伝目的なら大人しくしてろ、怪我したく無いだろという感じの捨て台詞を置いて去って行ったが、ローゼスのドルフィーファンを敵に回したことを後悔させてあげるわ、という返しはどうなんだ。


 まさか、レースが終わった後に闇討ちする計画に切り替えたのだろうか。デルシーの支配人にあの二人の暴言を報告したら、支配人自ら成敗しに来そうな気もするが、それはそれで事件になるからやめて欲しい。


 職務枠の入場は最後なので、ローゼスにいらんことを報告しないよう言っておこうと思ったら、静かに黙って腕輪の通信文を見ていたマークが口を開いた。


「……ユレスさん、俺はあいつらを倒します。ララのために」


「え、えっと、落ち着いて?ええ、アタシも奴らは締めると決意したけど、本来の目的を忘れちゃ駄目よ!ドルフィーたちのために、無傷で走り抜けるのが優先目標のはずよ」


「ローゼスも目的を忘れてるだろ」


 この場で口に出せないが、バロン・ダンテ組の優勝妨害が目的だ。だがマークが首を振った。


「リマとミヤリに言われて、音声情報を通信文に変換して二人に常時送るように設定していたのですが、つまり二人も奴らの暴言を聞いたようなものです。ミヤリはドルフィーに対する侮辱は許しがたいので始末していいと通信文を送ってきましたし、リマも奴らにかける情けは無いし後始末は任せろと」


「落ち着け、マーク。ローゼス、ミヤリとリマのところに戻って宥めろ。徹夜明けで変な興奮状態になっているぞ」


「分かったわ、やるのね?実はアタシも支配人に逐次報告しなさいって言われてるし、ドルフィーに対する暴言は報告せざるを得ないと思っていたの。

 今のあんたにはデルシー一同の期待がかかっているわ。支配人だって、やっておしまいなさいって言うに決まってるわよ。じゃなかったら、自分でやりに乗り込んでくるかもしれないし、平和的に解決するにはあんたがやるしかないわ!」


「目的を暴走させるな!マーク、取りあえずクラフターに乗り込むぞ」


 早く入場するよう合図されているので、マークをクラフターに押し込んで、出発させた。


ここまで読んでくれてありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ