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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第六章 隠居と黒猫
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18 見失った目的


 しなかったことになった話もあるが、アレク捜査官にすべき話は終わった。


 アレク捜査官は忙しいだろうし、職務に戻ってくれていいのだが、見張りを任されたせいか、ボーディたちが戻ってくるまではここにいると言い張った。

 ボーディたちは思ったより早く戻って来たが、会場でリマに会ったそうだ。職務に戻るアレク捜査官を見送ってから聞いてみた。


「リマも来ていたのか」


「特務課の新人だもの。最難関コースは警備局特務課が職務枠で参加するけど、最難関コースは新人だけは危険すぎるってことで、班長と新人の組み合わせで出場することになっていたんですって。それでリマが出場予定だったけど、今回はアレク捜査官が一人で出場することになったから、クラフターの整備と緊急事態に備えての待機要員として来てるそうよ。

 リマはマークも難関コースに出場することを知っていたし、巡回警備しつつマークの様子も見に来たのよね。余ってる整備資材があったら譲ってほしかったみたい。特務課のクラフターの性能を上乗せするそうよ」


「アレク捜査官の実力であれば、思いっきり上乗せしても操縦できるでしょうし、せっかくだから高みを目指したいお気持ちは分かりますよ。

 ユレスは何もしなくて大丈夫ですからね。高性能のナビゲーター装置も足元に及ばないくらいに、子守猫の性能は高いのです。ユレスを乗せている限り、無粋な装置は不要です」


「それ、オレは別にいらなくないか?」


「んもう、マスターのあんたがいてこそのワトスンでしょ!あんたを人質にとるつもりはないけど、あんたが危険に晒される限り、子守猫は全力でお仕事してくれるわ!」


 それ、結局人質だろ。


 変装用の服や物品を大量に抱えて戻ったボーディとローゼスは、無駄に変装に凝り始め、外套の内側に監視猫を仕込むためのポケットをつけたり、マークのクラフターの傷の状態を確認しにマイクルレース場の格納庫に様子を見に行ったりと、慌ただしく働いている。


 オレはボーディのクラフターから出るなと言われて、マークのクラフターを見に行くことすらできなかった。

 ナビゲーター装置の代わりに乗せられるだけならば、見に行く必要もないのかもしれないが、マイクルレース場の格納庫から戻って来たローゼスが徹夜仕事になるとか不穏なことを言った。オレも手伝った方がいいのではないかと思うのだが、猫の手は借りないらしい。


 オレはさっさと寝て万全の体調にするのが優先任務と言われて、添い寝用のドルフィー型人形を押し付けられた。



 そして、大レース会当日、オレはアリアがするのとまったく違う方向に変装した姿となった。


「いいこと、今回のあんたは、自然環境課臨時職員として出場するわけだから、それを忘れないようにしなさいね。この外套の防護性能は優秀だからこのまま採用したけど、いかにもサイズが合ってないのを誤魔化すために、小物を用意したからそれも装備するのよ!」


「目的を、見失っていないか?」


 こういうとき、オレの意見も同意も求められていないのはよく分かっている。だが、レース出場のためではなくドルフィー宣伝目的にしか見えない小物類を押し付けられて、一応突っ込んだが黙殺された。


 いつ、どうやって準備したかのか、もしかして徹夜で作ったのか、ドルフィーの絵が大きく描かれた、自然環境課標準装備の背負い袋と、同じくドルフィーの絵が描かれた腕章も装備させられた。猫は外套の背中に入れたが、空っぽの背負い袋は猫のふくらみを誤魔化すためのものらしい。


 外套の中に着ている服は海をイメージして作ったマークとお揃いの品で、情報バイザーはオレだけがつけて、マークはドルフィーが大きく描かれた帽子を被るそうだ。


 変装が完了してボーディのクラフターから出る許可が下りたので、ようやくマイクルレース場に入ったが、すでに初級レースが始まっていて通路は割と閑散としていた。

 

 さすがに出場者のクラフター格納庫近くになると騒がしくなったが、最後の調整か整備でもしているのだろうか。特に一番奥の格納庫が騒がしいし人の出入りも多いし、雄叫びのような声も聞こえる。

 ボーディも気になったのか、見に行ってきますと言ってそちらに向かったが、オレはローゼスに連行された。


「さ、アタシたちはここよ!」


 自然環境課様と表示された格納庫に入ったら、感想に困る状況だった。一言で言えば、ドルフィーである。

 流れるような曲線を持つクラフターの側面を存分に生かして、躍動感あるドルフィーの絵が描かれていた。


 あちこちに散らばる塗装用資材と、オレの気配を察知して起き上がるまで転がっていた人たちの様子からして、徹夜して描いたに違いない。


 一人だけ元気いっぱいのマークが語ったところによれば、自然環境課所有のクラフターの傷が思ったより大きかったので、走行には問題はないが、他のクラフターで出場してはどうかという提案を受けたそうだ。


 ご隠居様かローゼスの後押しがあったのか、レックスの起死回生の一手かもしれないが、レクサ工房が展示用に持ってきていたクラフターが、レクサ工房の宣伝をすることを条件に自然環境課に寄付された。

 手続き関係は、ミヤリがリック博士に連絡を取りつつ処理して、大レース会運営側にも報告して了承も得ている。


 ミヤリは事務処理をしつつもアレク捜査官と行き会って状況を報告したので、気を利かせてくれたのか、警備局特務課からリマがお手伝い要員として派遣されて来た。

 新人のリマはクラフター改造の手伝いはまだできないし、警備の一環と思って行って来いと現班長に言われた。なお、現班長はドルフィーファンだそうだ。


 そして、レックスがマーク用にクラフターを調整している間に、メイリンがレクサ工房の刻印をクラフターに大きく塗装し、その横では、マークが全実力をかけてドルフィーの絵を描き、ミヤリとリマがひたすら塗装する徹夜仕事となったのである。

 レックスとメイリンも、やることが終わったらドルフィー塗装に参加して、二人の尽力もあっていい作品に仕上がったそうだ。


 レックスとメイリンからは、ボーディのクラフターの中で話している最中、ドルフィー型人形が気になってならなかったと告白されたが、レクサ工房とメイリンは今、窮地に立たされていることを忘れていないだろうか。


 目的を見失ってドルフィーに走ったとしか思えない。


 レクサ工房製のクラフターで難関コースに出場してくれるだけで十分だから絶対無理しないで、せっかくのドルフィーの絵に傷をつけないでと言われたが、難関コースの優勝候補の邪魔をしに出場するという目的である以上、傷はつくだろう。


 オレは目的を見失っていないぞ。


 メイリンはレース・レディに指名されているので、世界管理局からすぐに観覧席に来るようにという呼び出しがあって、自分は大丈夫だから、ドルフィーに傷はつけないで!と何度も振り返りながら去って行った。

 塗料のついた服のままであるが、プロメテウス工房とバロンが罠にかけてきたのなら、抗議のためにあえてその格好を貫く姿勢だ。


 メイリンは徹夜しながら、ミヤリとリマとバロン対策について相談していたそうだ。

 バロンが優勝したとしても、取引は取引として仕方ないとしても、ぎりぎり言い逃れできる範囲で、プロメテウス工房とバロンに不信感が集まるように言いたいことを言う文言を大量に仕込んであるらしい。


 逞しくていいと思うが、どんな文言を仕込んだのか怖くて聞きたくない。ローゼスを見たら、ぎりぎりいけるわと言っていたが、それ、ぎりぎり駄目かもしれないってことだろ。


 当初の目的通り、バロン・ダンテ組の優勝を阻止するために邪魔をする方が確実だ。だが、操縦担当のマークが完全に目的を見失っていることが判明した。


 デルシーの支配人から激励の言葉が届いていたが、ドルフィーたちのためにオレの安全に配慮して欲しいが、ドルフィーの宣伝はしてもいいし、時事情報放送で見守っているそうだ。

 オレ並みに支配人の発言の翻訳ができるマークは、オレたちが怪我をしない範疇で、時事情報放送で取り上げられるくらいに目立ってドルフィーの宣伝をしてきなさいと解釈した。


 その解釈は間違っていないと思うが、目的を見失っていることに気づいて欲しい。オレたちは優勝候補の邪魔して優勝阻止するために出場するんだぞ。


ここまで読んでくれてありがとうございました。

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