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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第六章 隠居と黒猫
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11 なるべくしてなった了解


 マークのとんでも発言にオレがついていけてないのを見かねたのか、ローゼスがすかさず突っ込んだ。


「ちょ、ちょっと待ちましょうよ。ええ、アタシ、その結論にどうやって至ったのか分からないから、解説頼むわ」


「そうですね。ユレス捜査官はご了解済みのことでしょうが、ローゼス管理官のために解説します」


 いや、オレも分かっていないんだか。



 ミヤリが、二人が即座に了解に至る前に検討して確認済みだった事項について解説してくれた。


 マークの相棒は自然環境課の職員であれば誰でもいいわけなので、臨時職員ではどうかと調べたところ、一人引っかかる人がいた。オレである。

 

 オレもときどき忘れているが、リック博士はドルフィー研究にオレを参加させたいがために、オレを自然環境課の臨時職員として登録していた。

 しかも30年の長きに渡り研究協力実績があるらしい。意味がわからんと思ったら映像資料提供と言われて理解した。デルシー勤務から戻ると、子守猫からドルフィー関係の映像記録を回収して提供させられているのが実績になっているとは思ってもいなかったが。


 ミヤリはオレが自然環境課の臨時職員であることを知った時点で、運命を確信したらしい。


 姉御からオレがボーデイに連れられてマイクルレース場に向かったことを聞いていたわけだし、ちょうどいいのが来ると思ってもおかしくはないが、運命は言い過ぎではないかと思う。


 優秀なミヤリは、手抜きせず証拠固めもしていた。


 ミヤリが運営側に確認したところ、十年以上前に登録されている実績ありの臨時職員なので、自然環境課の出場者として認められると回答された。


 ミヤリは姉御が愚痴っていたときに、オレがクラフターの操縦資格も無いのも聞いていたが、ナビゲーター役限定であれば、操縦資格は不要であることも確認した。


 さらに、旧世界管理局職員である場合の規制についても確認しておいた。姉御が自分はレース出場禁止措置を受けたと愚痴っていたからである。


 ミヤリは大レース会規程を読み込み、旧世界管理局の職員が相棒のAIの技能を使用しても問題ないことも確認した。ナビゲーター役は補助用の装置を持ち込んでいいことになっているので、AIの補佐もその一種と解釈されている。

 姉御が出場禁止措置を受けたのは単に暴走したからであって、旧世界管理局職員だからではないのだ。


 オレならば出場資格があると、ミヤリは確信した。


 そして、ミヤリからオレがマイクルレース場に連れて来られると聞いたマークも希望を持ち直した。

 オレが許してくれるなら、ドルフィーを守り切れなかった傷も許されるらしい。何故ならば、ドルフィーはオレの管轄だからだ。


 ドルフィーファンたちの強引な論理展開にはついていけないが、オレはドルフィー関係は言われるままに頷く覚悟を決めている。だが、ミヤリは理性的に突っ込んでくれるべきだと思う。


 とにかく二人は、オレがマイクルレース場に来たら相談を持ち掛けようと待っていたそうだ。


 そこに届いたのが、リック博士からの通信である。


 オレが用もないのにリック博士に連絡するはずがないのを正確に読み取っていた博士は、今ならば多少無茶振りしても通るはずじゃい、相手の要求は全て飲む覚悟で取引をするんじゃ!というありがたい助言を送って来たので二人は了解した。


 そんなわけで、オレにレースに一緒に出場してくれと迫ったのである。


「……なんか、すごい心理戦だったのね。ええ、アタシたちも難関コースに出場する人に協力して欲しいことがあったわけだし、そこまで読み切られていたなら、こっちも遠慮なくお願いするわ!」


「ローゼス」


「なによぉ、アタシが闇討ちするよりずっといいでしょ」


「確かにそうだが、危険度が高いこともちゃんと説明しろよ」


「分かってるわよ。じゃあ、アタシたちの話をするけどね、実は」


 ローゼスが、プロメテウス工房の動きとかレクサ工房の窮地に加えて、レックスとメイリンのことも上手くまとめて話したら、二人とも即座に了解に至ったらしい。


「弱みに付け込んで罠にはめて結婚するだなんて、人権問題です。これは邪魔をしても馬に蹴られない恋路です」


「あら、旧世界格言を上手いこと言うわね。マークは優勝狙うつもりはないわけだし、無理のない範囲で迷惑な男どもの邪魔をしてくれるだけでいいのよ。マークとユレスの安全が最優先よ!怪我するほど体張る義理も義務もないし、聞いてしまった以上、協力したくらいの気楽さでいいわ」


「そうだな。メイリンが迂闊に同意したのもいけなかったし、無関係なマークに怪我をさせてまで尽力するつもりはない」


「そうですね。俺もドルフィーのためなら命をかけられますが、見知らぬ女性のために命をかける気にはなりません。それに、ユレスさんに何かあったらドルフィーたちにどう申し開きしていいのか」


 あくまでもドルフィー優先らしい。

 ドルフィーファンの思考はときに理解不能だが、オレが一緒に出場すると決まって、一応は落ち着いたマークの唯一の気がかりには配慮することにした。


「マーク、レックスはクラフターの技術者だから、傷の修理の相談に乗って貰ったらどうだ?もしかしたら、上手く隠すか修理してくれるかもしれない」


「あら、いいわね。レックスたちも当事者なんだし、手伝ってもらいましょ。アタシは、上から塗料で塗って隠してしまえばいいと思ったけど」


「私もそれは検討して、材料は格納庫に用意してあります。着手する前にリック博士から連絡が来て、ユレス捜査官をお迎えに走りましたので、放置したままですが」


「何とかできるなら早めに着手したいわねぇ。うーん、取りあえず必要そうな資材を揃えておくのはありね。それから、妨害行為するわけだし、レースの後で相手に難癖つけられるのに備えて、変装的なことをしておくのもありかも」


 ミヤリとマークはオレを見て頷いた。


「ユレス捜査官はそこまで見越してすでに変装済みとは、さすがです」


「いや、姉御たちに遊ばれただけって聞いてないか?」


「すごく自然区向きの装備だと思いますよ!でも、どうせなら統一感出すのはありか。あと、顔も隠した方がいいか」


「ナビゲーター役だと情報バイザーでかなり隠れると思います。出場者はマイクルレース場内である程度の物品を調達できますので、変装も込みで用意します」


「そうだな。ユレスさんの了解も得られたし、出場登録を早めにしておいた方がいいから、俺たち、先にマイクルレース場に戻っています。格納庫の場所はここなので、後から来てください!」


 オレたちがアレク捜査官からの事情聴取を待っていることを話しておいたので配慮してくれたらしい。

 急いで走っていく二人を見送って、ローゼスが腕輪の通信を確認しつつ首を傾げた。ご隠居様からの連絡はなかったようだ。


「うーん、ボーディたちはどうしたのかしらねぇ」


「もしかしたら、プロメテウス工房を捜査するよう話しているかもな。オレからばばあに言ってもいいが、アレク捜査官を経由した方が正当な経路だ。いらん手出しはしない方がいい」


「ま、そうよね。話の通じる捜査官がちょうどいたわけだし、もしかしたら、何か不穏な事件の気配でもあって来てるのかもしれないから、プロメテウス工房の怪しい動きはお知らせしといて互いに損はないわ」


「そうだな。……アレク捜査官から連絡が来た。今から来るそうだが、裏事情の話をしたいようだ。マークたちが先に行ってくれていて良かったな」


「あらあ、やっぱ、事件なのね。じゃあ、レックスとメイリンにも上手いこと言ってマークたちのとこに行ってもらいましょ。修理のお手伝いしてくれるようお願いするわ」


 ローゼスはクラフターの外で待ち構えて、バロン優勝阻止のための協力者を捕まえたことと、クラフターが傷ついているので修理が必要だから手伝ってあげて欲しいと説明して、レックスとメイリンをマークたちの元へ向かわせた。

 反論の隙も無い押しの強さであるが、二人はクラフターの傷が気になったらしく、快く向かってくれた。素直で親切でいい人たちだと思うが、だからこそ、罠にかけてくる奴らにやりたい放題されることになる。


 それを放置しておくのも、長い目で見れば旧世界のように崩壊に至る案件だ。ご隠居様の世直しの旅のお供として、たまには真面目に働くか。


ここまで読んでくれてありがとうございました。

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