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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第六章 隠居と黒猫
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10 相棒


 そこには、オレと一緒に行動すると事件に突っ込む男であり、優秀な捜査官でもあるアレク捜査官がいた。


 オレたちのクラフターの前に3つほどクラフターが検問待ちをしていたし、変装しているオレに気づかなくてもいいのだが、はっきりこちらを見ているし、強張った顔をしたので気づかれたと考えた方がいい。


 オレはともかくローゼスは変装もしていないど派手な姿のままだから、目立つし即座に気づくのは当然だった。オレたちの前を行っていたクラフターにもボーディが乗り込んでいるしな。


 警備局の検問担当に何か言ったのか、ボーディたちの乗るクラフターとそれに続くオレたちの乗るクラフターは、アレク捜査官の指示の元、詰所裏手に導かれた。


 まだ、尋問されるようなことはしていない、はずだ。事件を連れて来たわけでは……たぶん無い。


 プロメテウス工房の件は、<知識の蛇>が絡んでいるかもしれないので報告した方がいいとは思うが、まずはボーディたちのクラフターから事情聴取しているので、ボーディが上手く言ってくれるはずだ。


 割とすぐにオレたちの方にやって来たが、無言でじっと見られた。そうだな、オレは変装しているから不審極まりないだろうな。

 もしかしたら、分かってもらえないかもと思ったが、そこは分かってくれたらしい。監視猫はオレの膝の上で丸まっていたが、この猫を見ればさすがにオレだと分かるだろう。


「……どうしてこちらへ?」


「大レース会の観覧のために来たが、事件を持ち込むつもりは無かった」


「そうよ、アタシたちは、ただの浮かれた観覧客なの、信じて!」


「かえって疑わしいことばかり言わないでください。いえ、すみません、今少し動揺していて、つい尋問するようなことを言いましたが、ボーディ前局長が相談があると言っていた件ですね?取りあえずそちらからお話を聞きますが、後で話す時間をください。お二人は先に指定の位置にクラフターを移動させてそこでお待ちください。なるべく早く伺います」


「分かったわ。あ、でも、待っている間、あの子たちとお話していてもいいかしら?」


 マークが走ってくるのが見えた。何故かその後ろからミヤリも来ている。アレク捜査官は二人を見て、ああと納得したように頷いた。


「もしかしてマークの応援に来たのですか?いえ、後でお聞きしますが、もちろんどうぞ、お話していてください」

 

 デルソレの水中劇場誘拐事件のときの協力者である二人なので、アレク捜査官の信頼度も高いらしい。

 納得のいく理由だったのか、オレたちの疑いが少しは晴れたようでもあるので、マークたちを迎え入れてクラフターを移動させた。


 大レース会の招待状があるとクラフターを止める場所も確保されるらしく、ボーディが事前に登録しておいた場所に自動で導かれた。


 そして、オレたちはクラフター後部のソファで二人と向かい合うことになったが、マークとミヤリはさっそくドルフィー型人形に飛びついた。二人とも予約済みだが、まだ手元に来ていないらしい。


 ドルフィー型人形・大を抱えて、マークが真剣な顔で言った。


「ユレスさんは、俺を助けに来てくれたんですね。さすが、ご慧眼です」


「はい。さすが旧世界管理局が誇る捜査官です」


「あのー、アタシたち、全然事情が分かってないんだけど。リック博士からマークを助けてくれ、事情は現地で聞け、後よろしくって投げられた状態よ。まずは説明よろしく」


「わかりました。情報の行き違いを避けるために、情報を整理しつつまとめるようにとのことですね。お任せください」


 オレたちは本当に何も分かっていないのだが、そもそも何でミヤリがここにいるのかも含めてまとめて解説してくれた。


 ミヤリが来たのは姉御の愚痴がきっかけだった。

 オレたちがボーディと一緒に出立した後、姉御は旧世界管理局に連れ戻されたわけだが、ちょうど勤務が終わったミヤリと受付館で出会って愚痴った。


 絶対何か事件が起こるからあたしがマイクルレース場に行ってあげるってのにと姉御が言うので、気になったミヤリはマークに連絡することにした。

 ミヤリはデルシーの勤務が終わった後も、マークと通信文をやりとりしていて、マイクルレース場の大レース会に出場することも聞いていたし、興味があるなら観覧席を譲ると言われていたが、興味が無いので断っていた。


 だが、姉御が愚痴るし気になるので、マークにまだ席があるかどうか確認しようと通信したら、マークから助けてと返信が来たので、急遽マイクルレース場に駆けつけた。


 もしや二人は付き合っているのかと思わないことも無かったが、友情というよりドルフィー愛を貫く同志的な空気感しか感じない。オレにもそれくらいは分かる。ドルフィーファンってそういうものだしな。


 同志の危機に駆けつけたミヤリが見たものは、マイクルレース場のクラフター格納庫で泣き崩れる二人の青年の姿だった。それから、レースに出場するクラフターの側面に刻まれた大きな傷である。


 事件発生と見て、ミヤリは冷静に二人から事情聴取した。


「あの、話の邪魔して悪いんだけど、そこ、冷静に事情聴取するんじゃなくて、まずは二人を慰めてあげるとこじゃないかしら」


「事情を知らなければ慰められません。ユレス捜査官の冷静な姿を思い出して頑張ってみました」


 それ、オレが冷静というより冷酷と言ってないか?

 ミヤリは本当に捜査官向きの手腕で、二人の事情聴取結果を淡々と報告してくれたが、マークの相棒が失恋した果ての悲劇だったらしい。

 

 マークの相棒はどうせ職務参加だし、優勝は狙わず片思いしている子に告白したいと、マークに協力を依頼した。

 口下手で面と向かって言えないので、クラフターの側面に愛の告白を描いて分かってもらおうとする作戦である。マークはドルフィーの絵も描いてくれるならと了承した。


 だが、明日に備えて会場入りした本日、マークの相棒は告白前に失恋してしまった。

 片思い相手はクラフターのレースが大好きで、この大会も観覧しに来ると聞いて告白を決意したわけだが、実は恋人からレース・レディに指名されて招待されて来たのであった。


 格納庫近くで、優勝したら結婚を申しこむよ、嬉しい、とやっているのを物陰から目撃してしまい、マークの相棒は撃沈した。


 マークは何とか格納庫に相棒を引きずり込んで落ち着かせようとしたのだが、失恋の衝撃から錯乱状態になった相棒が、もうこんな告白は無意味だと、クラフターに描いた告白文を消そうと工具を持ち出して暴れた。

 マークはドルフィーには手を出すなと体を張って立ち向かったものの、守り切れず、描かれたドルフィーに致命的な傷を負わせてしまった。


 そこにミヤリから通信文が来たので、マークは助けを求めたのである。


「えっとぉ、事件というより、ええ、なんか、悲劇って言いたくなるけど、ええー、なんか混沌とし過ぎていて、よく収拾をつけることができたわね」


「いえ、ついていません。収拾をつけたのは、マークの相棒のことだけです。精神錯乱状態と判断し、マイクルレース場の治療室に連れて行ったところ、治療官の方がマークの相棒のやつれ具合が好みど真ん中なので、任されてくださるそうです。

 心の傷のためにレース出場は不可能と診断されましたので、後のことはすべてお願いして引き渡しました。そんなわけで、私たちはマークの新たな相棒を探さねばならなくなったのです」


「えっと?あの、アタシ、マークの相棒がすでに過去のものにされてるあたりに一応突っ込んだ方がいいと思うのよ。ええ、でも分かるわ。精神錯乱状態なら、レースに出すのは危険だし、お任せしちゃった方が楽よね。他にも問題は山積みだし。職務枠って出場辞退とかできるのかしら?」


「大レース会運営側に確認したところ、職務枠なので辞退はできないので、マーク一人で出場するか、職員をもう1人確保して欲しいそうです」


 職務枠の場合、その職場の人であれば、当日まで変更可能となっているので、運営側の対応は正当なものだそうだ。

 だが、自然環境課は現在、研究報告書の締め切りが迫っていて、誰も手が離せない修羅場状態で人員を確保できない。


 一応はリック博士に報告したが、人員送るのは無理という返信が来たそうだ。そう言えば、リック博士はオレにも忙しいとか返信してきていたな。


 そんなわけで、マークは一人で出場するしかないが、難関コースに一人で出場するのは危険度が高い。


 レースには、基本的に操縦役とナビゲーター役で組んで出場する。

 難関コース以上になると、法則性のない起伏の激しいコースを、上下左右のどこからも障害物が出て来る状態で、速度を出して走り抜けることになるので、ナビゲーターがそれを観測して指示して、操縦役が即座に避ける連携も必要になる。


 一人で出場すると、全部を一人でこなさなければならない。

 マークは優勝する気は無く、出場して最下位でもいいので走り抜ければいいと割り切ってはいる。


 だが、クラフターの側面に大きく刻まれた傷跡というより、せっかく描いた力作のドルフィーの絵が破損した状態に心を痛めていた。

 こんな状態のドルフィーを人前に晒すなんて!と嘆き、絵とは言えドルフィーを守り切れなかった自分の実力の無さに落ち込んだりと情緒不安定になっていたので、ミヤリはこの状態のマークを一人で出場させるのは危険だと判断した。


 そんな二人のところにリック博士から通信が届き、その文面を見て、二人は即座に了解した。


「そんなわけで、ユレスさん。俺の相棒としてレースに出てください!」


ここまで読んでくれてありがとうございました。

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