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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第六章 隠居と黒猫
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7 レース・レディ


 マイクルレース場が設置されてレースが開催されるようになっても、レースファンやクラフター工房の関係者や職務上でクラフターを利用する人たち以外にはあまり人気が出なかった。


 マイクルレース場の大レース会では、毎回レース・クイーンという宣伝担当が選ばれて、時事情報放送などで宣伝活動をして、当日も着飾って会場に華を添えていた。

 各レースの優勝者に褒賞を手渡すのもレース・クイーンの仕事だが、褒賞は指定されたものの中から好きなものを選んで後日渡されることになるので、レース直後は褒賞の代わりに花束を渡している。


 レース・クイーンのおかげである程度の宣伝効果はあったが、盛り上がるというほどでもなかったので、大レース会の人気を煽るために、恋愛や見合い的要素を取り入れて場を盛り上げるために設置された役割がレース・レディである。

 恋人や結婚相手がいる場合は、レース・レディとして指名して、レース・クイーンの代わりに褒賞を渡してもらうこともできる。


 レースの出場者は、そういう相手がいる場合は、レース・レディとして指名するよう推奨されていて、レースの優勝者は恋人のために勝利したと言って、その場で結婚を申し込むことが多い。

 当然相手も頷くし、会場中で祝福する流れになって盛り上がる。


 大レース会をいい感じに盛り上げてくれて、お見合い推進政策の一環ともなるので、各レースの出場者は優勝したときに備えて、指名したレース・レディをマイクルレース場に招待できることになっている。


 レース・レディとして招待されたら、世界管理局にも報告され、大レース会の当日に職務が配分されないよう日程調整もされる。

 世界管理局が職務の代わりに大レース会への出席を指定しているようなものなので、理由なく欠席できない。


 メイリンが取引した相手であるバロンは、約束を反故にされては困るからとメイリンをレース・レディに指名していた。

 勝手に指名するのも問題なので、世界管理局からは当然確認が入るが、メイリンは取引をしたわけだから了承していると頷いた。


「つまり、バロンが優勝したら、その場で結婚宣言できちゃうってこと!罠にはまったようでいて、メイリンが自分で了承してしまってるし、多くの人の前で宣言されたら逃げられないわ。こういう風に犯罪にならないけどぎりぎりで押し切られることがあるから、成人の交流は細心の注意を払う必要があるのよ」


「計画的な罠の気配が濃厚ですが、計画的犯罪とまでは言えなそうなところがやっかいですね」


「はい、メイリンはあの場で、プロメテウス工房の陰謀だ、犯罪だと叫ぼうとしたので、慌てて連れ出してクラフターで出て来たんです。名誉棄損とかそういう風に受け取られたら、レクサ工房は評判も信頼も地に落ちます」


「だって、ワタシ、パパと、レックスが、工房がなくなったら、夢も無くしちゃうし、それなら、ワタシが何とかしないとって」


 泣き始めたメイリンを宥めつつローゼスが聞き出したところによれば、メイリンは夢を追ってクラフターの技術開発をする父親とレックスを見ているのが好きだった。

 だから、レクサ工房がなくなって欲しくなかったし、自分の片思いを封じてバロンと取引してでも、レクサ工房の宣伝をして再起を図りたいと思っていた。


 一方、レックスは、自分も工房長もメイリンが望まない結婚までしてレクサ工房が続く方が耐えがたいし、レクサ工房がなくなっても個人的に夢を追えばいいだけだという主張だった。

 工房長の娘と思ってメイリンに遠慮があって告白できなかったが、レクサ工房がなくなったなら、それはそれで吹っ切って告白しようと思っていたらしい。


 結果的に、バロンとのメイリンの取引を知った後で告白することになってしまい、もっと早く告白してくれていれば、バロンと取引なんかしなかったとか、そもそもメイリンが勝手に暴走しなかったらそんなことにはならなかったと、喧嘩していたそうだ。


 どちらの言い分もその通りであるが、不幸なすれ違いによって事態がどうにもならなくなったところにきて、ようやく心が通じ合ったのはどうすればいいのか。

 ポーラ女史のときは、ぎりぎり間に合ったが、この件についてはすでに手遅れとしか思えない。


 ご隠居様は長老会として助言するみたいなことを言っていたが、何か助言はないのかとボーディを見たら、あっさり首を振った。


「事情をお聞きしてからでなければ判断できませんので、まずは事情をお聞きしましたが、助言できることがあるかもしれないと申し上げた通りです。残念ながら、事態は助言すればどうにかなるものでも無いようですね。

 ですが、ここまで事情を聞いておいて、見捨てるのもまた隠居の名折れ。まずは話を簡単にしますが、難関コースの優勝がバロン以外の者であればよいわけです。ついでにレクサ工房製クラフターの宣伝ができればいいのです」


「ま、そういうことだけど、言うほど簡単じゃないわよぉ?でもねぇ、アタシ、バロンの相棒が因縁の相手だから、いらんお節介はやめましょって言いづらいのよねぇ」


 因縁の相手?レース出場者名簿を展開して睨むように見ていたローゼスが好戦的に笑って告げた。


「ダンテ・フォン・カールよ。あのときはアタシも名前まで言わなかったけど、ロージーの見合い相手よ!見合いはデルソレの大事故のどさくさでなくなったけど、あいつ酷いのよ!?アタシがロージーを何とかなだめすかしてデルソレに連れて行ったのに、ダンテはすっぽかして、デルソレにも来なかったのよ!信じられない!」


「事故の巻き添えにならない方が良かったと思うが、だが、確か男専門とか言っていなかったか?実はバロン狙いとか?」


「バロンはダンテの趣味かどうか微妙ねぇ。バロンが確実に勝つためにダンテを雇ったって方がありそうかも。んー、ちょっと調べてみるわ」


 レックスとローゼスで何やら調べ始めた横で、オレはボーディに質問してみた。話についていけていないが、話に参加しないと指導されるのは分かっているからな。


「ボーディと祖父さんが優勝した時も、レース・クイーンとかレース・レディっていたのか?」


「おや、気になるのですか?その頃からそういう役はあったのですが、今に至るまでにかなり変遷してきましたよ。今は、世界管理局のお見合い推進政策もあって、恋愛とか結婚色が強くなってしまいましたが、わたしたちが優勝した時代では、お祝いの花束を渡してくれるくらいの軽いお役目でしたので、自分の子どもや知り合いの子どもを指名する人もいましたし、その場で観客席の誰かをご指名することもできました。

 優勝者が指名することで愛の告白をして大変盛り上がったこともありますので、それが今のような形になるきっかけだったかもしれません」


「あ、あの!もしかして」


 メイリンがようやく泣き止んで、何か言いかけたが、ローゼスとレックスがうめき声みたいのをあげたので、そちらに注意が行った。

 何事かよろしくないことが判明したらしい。


「んもう、嫌になっちゃう!レースファンの間じゃ、難関コースの優勝候補はその二人の組よ。ただ、せこいとか見損なったって意見多数だけど。ダンテはね。難関コースの優勝経験ありだけど、それで満足したのかレースから身を引いていたわけ。つまり、バロン以上の実力者だったわ。本気で難関コースの優勝を狙っているわね。予選レースでも余裕だったみたいよ。

 それから、バロンとダンテは単なる仕事仲間でしかないみたい。バロンって千人規模の大農場の農場主だったのね?味と質がいいから結構人気の品みたいで、ダンテはお得意様の取引相手よ。以前から付き合いあっても踏み込んで親しいお付き合いでは無いみたい。確実に優勝するために手を組む取引でもしたと考える方が妥当かしら」


「せこいとか見損なったって意見多数っていうのはどういうことだ?」


「今回の難関コースは優勝しやすいからよ。

 10年に一度の最難関コースがある年だから、通常の年は難関コースに出場する、腕に覚えのある実力者たちはこぞって最難関コースに挑戦するわけ。だからいつもは上級コースに出場する人たちが背伸びして難関コースに挑んだりするけど、そういう手薄な状況の中で、いつも難関コースに挑戦してる人とか、難関コース優勝経験ありが参加したら、そりゃ優勝候補になるわよね。せこいわ」


「……そうまでしてメイリンと結婚したかったのでしょうか。何かが噛み合いませんが、背後でプロメテウス工房がレクサ工房に画策している一連の事態の範疇ではありそうですね」


 メイリンと結婚したいがためにすべてをバロンが画策したにしては、規模が大きすぎるし、手が込み過ぎている。

 レクサ工房がここまで追い込まれたことによって、メイリンが追い詰められて取引してしまった状況なので無関係でないのだろうが、違和感がある。


 ローゼスとボーディがオレも何か意見を言えという目で見ているので、一応発言しておいた。


「優勝することが、そもそもの目的だったという印象があるんだが」


ここまで読んでくれてありがとうございました。

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