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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第一章 英雄と黒猫
1/371

1 再構成された世界

初投稿です。


その獣は、世界を終わらせてやったのだと告げた。



◇◇◇旧世界管理局遺物管理課捜査官日誌◇◇◇

63410209 1300 ユレス・フォル・エイレ捜査官、捜査官席に待機開始

63410209 1700 特段の変事なし。ユレス・フォル・エイレ捜査官勤務終了



 履歴画面を見ると、ずっと同じ文言が並んでいる。

 変わり映えのしない日常こそ平和の証というのを分かりやすく表現しているとはいえ、生産的な社会奉仕活動を何一つしていない証明でもある。


 オレは気にしないが。


 旧世界管理局、通称の遺物管理局の方が人々に馴染みやすすぎて、そろそろ改名してはどうかとあまりどうでもいい提案がされているこの職場では、事件のようなものが発生した場合、世界崩壊につながるような大事件になりかねない。

 

 何故ならば、旧世界は、ありとあらゆる諍い争いすれ違い、事故や事件の果てに、崩壊して消え去ったからだ。


 世界各地から見つかる旧世界の遺跡とそこに残された遺物を調査研究することによって、矛盾と欺瞞と悪意と憎悪に満ちていた旧世界は、自壊するように、世界自体が存続を拒絶するようにして、崩壊したことが分かった。

 そして、崩壊した旧世界の情報を基盤として、さらに進化した世界を新しく再構築して、今の世界が始まったのだと考えられている。


 崩壊した旧世界関連の事物を扱うのが旧世界管理局である。

 特段の変事なしと捜査官日誌に登録することこそ、平和の証と主張しても許されると思う。



 旧世界管理局の遺物管理課は広大な区画に渡っており、職員は数多くある部屋に散らばっている状態なので、勤務終了まで誰とも会わずに過ごすこともよくある。

 オレは気にならないが、孤独が苦痛と感じる人には勤務時間中は精神修業している気分になるらしい。


 捜査官室を出て廊下を進んだら、第六管理室からでてきた、ローゼス・ヴィラ・ルージュが、オレを発見して襲い掛かるように肩に手を回してきた。


「やーっと、苦痛な精神修業から解放されたわ!<菩提樹>行きましょうよ、果実酒が飲み頃だって連絡あったのよ。席を確保してくれているんですって」


「それ、絶対、いらん用件込みだろ。暇そうなのを誘え」


「遺物管理課の職員は、アタシたち以外は皆、一緒に過ごすお相手いるの知ってるでしょ!?」


「オレが相手探す以前の未分化型なことも知ってるよな?」


「気持ちが変われば分化する気になるかもしれないから、そういう機会には積極参加しましょうって世界管理局が指導してるじゃないのよ」


「当人意志が最も尊重されますと矛盾したことも宣伝してるけどな」


「人は矛盾を許容する生き物よ。アタシのように、体は男、心は乙女として表現することも自由なの」


「その矛盾に関しては問題視されていると聞いたが?」


 だからローゼスは、いつまでたっても相手が見つからないのだ。



 崩壊して消え去った旧世界では、人は生まれつき男と女という性別に分化した状態で人生を始めた。そして、時に男の身体に女の心という不一致が生じたこともあったようだ。

 今の世界はそういう不一致が起こらないはずであるが、それでも特殊な例外事例はどこにでもある。旧世界でも今の世界でも。


 人には魂という核があって、世界が崩壊しようが核は不滅だ。魂は多様な経験を積んで進化し、世界はその経験を積むための素材として、様々な物質や現象を構成して提供する。

 魂がその世界で経験するための器が肉体で、その器を基盤にして魂独自の精神体が構成され、経験が蓄積されて、人は進化していく。


 精神体の進化は世界全体の進化に繋がる。

 そして、その世界で可能な体験が経験されつくしたとき、世界に蓄積された経験や知識を糧にして新たな世界が作られて、魂は再び新たな経験を積み始める。というのが世界進化論だ。

 

 再構成された今の世界では、人は性別を持たない未分化の体で生まれて来るようになった。

 未分化型と呼ばれる体は、それぞれの魂を表現する体に成長しつつ、その精神に相応しい性別を獲得していくので、旧世界のように精神と体が不一致になる事態は、ほぼ起こらない。


 世界の再構成の際に旧世界の不具合を可能な限り排除し、さらに進化した体となったのだと解釈されている。

 ただ、人の体の外観的特徴や機能的特徴は、旧世界において女とか男と呼ばれていた性別とかなり近似する。


 治療局が決めた正式名称では、子宮を発達させてより優れた体を世界に生み出す子宮型と、優秀な遺伝情報を多く伝えることによってより優れた体となる情報を提供する生殖型となっている。

 旧世界と今の世界では言語自体も違うのだが、新しい世界、新しい体で経験を始める魂は、旧世界で経験を積んだかすかな記憶が馴染むのか、治療局の定めた正式名称より、女とか男という名称の方がしっくりくるという意見が多く、今ではそちらの呼び方が主流だ。



 崩壊した旧世界は、遺物と呼ばれる旧世界の欠片を、新しい世界のあちこちに埋め込むようにして置いて行った。

 それらは、旧世界の残滓であり、新しく世界を再構築する際に不要とされて捨てられ、組み込まれなかったものでもある。放置しておくと周囲に悪影響を与えることもあるが、有用なものについては、この世界に新たなものをもたらす可能性もある。


 取り扱いに知識と注意を要する遺物は、旧世界管理局が管轄する。そこに所属する職員は、ある意味では遺物の一種とも言えるかもしれない。

 体と心の性別が合致しないことをあえて選ぶようなローゼスのような職員もいるからというのが理由では無いが。


ここまで読んでくれてありがとうございました。

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