09 虫干し
とある場所の宝物庫、
数十年に一度の、家宝の確認。
しかし、問題がひとつ。
"吸魔虫"
見た目は小さなダニ。
ただし、吸うのは"血"じゃなくて"魔力"
それが、大問題。
この異世界は、世界中に"魔素"っていう魔法の素が満ちてる。
その魔素を操っていろいろやっちゃうのが、魔法。
もちろん生き物の身体にも魔素が蓄えられていて、
それが密接に生命活動に関わっているのが"魔力"
この世界ではどんな生き物でも大なり小なり魔力を持っていて、
身体の中の魔力は、影響の違いはあれど生き物が生きる上で必須。
例えば魔法使いが魔力を使い過ぎちゃうと"魔力切れ"の症状で倒れちゃう。
魔力ゼロになると、最悪、死亡。
例の吸魔虫は、ダニっぽい見た目の通り、
くっついた相手から魔力をチューチュー吸い取っちゃう。
吸われてる方は徐々に衰弱、そして、やがて死亡。
やられてる最中は、痛くも痒くも無いってのが、イヤらしいね。
古来より悩みのタネだったこの虫、
地道な殲滅活動が功を奏して、少なくとも人々の生活圏からは根絶、
したことになっているのだけど……
えーと、新発見の古代遺跡なんかにはまだ潜んでいるそうで、
そういうとこから持ち出された古代の秘宝とかに、
ごく稀に引っ付いてるそうなんです、虫が。
もちろん最優先駆除対象ですから、丁寧に殲滅。
ただ、相手はちっちゃな虫なので、卵とかの取りこぼしも。
各国王家でも頭を悩ませていて、間違っても繁殖させないよう定期的に宝物庫のチェックを。
それが、宝物庫の虫干し。
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サリアさんの丁寧な説明で、依頼内容は理解出来たけど、
でも、なんで俺たちへの指名依頼?
「正確には、アマツさん個人への依頼となります」
?
「ギルドへの冒険者としての本登録の際、アマツさんが"無魔力"であることが判明しております」
「吸魔虫の影響を全く受けない無魔力の方にお願いしたい、という指名依頼なんです」
……あーなるほど。
普通は魔力ゼロにされちゃうとヤバいけど、
元からゼロな俺なら虫にチューチューされても平気、と。
でも、なんで依頼主とかが秘匿案件なんです?
「もし吸魔虫がいたとなれば、その秘宝のみならず、宝物庫内の全ての秘宝、そして城中、いずれは国中へと影響が及びます」
「つまり、その国自体が他国から忌避の対象となり得るのです」
あー、いわゆるエンガチョってヤツ。
「それゆえ、宝物庫内の秘宝の確認も、万が一の際の処理も、極秘でお願いしたい、と」
「この依頼主は、匿名のままでギルドに依頼を受理させることが出来るほどの影響力がある存在だということをご理解ください」
はい、理解しました。
俺が適任なら、サクッと終わらせてきましょう。
そもそも、俺なら刺されてもなんとも無いんですよね、その虫。
「よろしいのですか、ご家族に相談されてからの方が」
あー、じゃあナナさんにも話してこようかな。
また来ますね、サリアさん。
「よろしくお願いします」