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ショートショート3月~2回目

作者: たかさば
掲載日:2022/03/30

 ここに、一本の…キノコが、ある。


 実に毒々しい、真っ赤な色を誇る、キノコ。


 このキノコは…今から3553年前、秘術に使われていたキノコである。

 人体の老いゆく肉を、逆行させる作用をもたらす、キノコ。


 だがしかし、現代においては、毒キノコとして、認識されている。


 このキノコは、このキノコ単体では毒でしかないのだ。

 このキノコは、「ぬら」と混じり合わねば、薬にはなれないのだ。


 現在、「ぬら」は、存在していない。

 およそ3374年前に、この地球上から、揮発してしまったのだ。


 もはや、このキノコが、人類に食される機会は、失われてしまったのである。



 ここに、ひとつの…実が、ある。


 実に毒々しい、真っ黒な色を誇る、実。


 この実は…今から7010年前、頻繁に食されていた実である。

 人体では視覚できない意識体を、脳内で確認するために必要な、実。


 だがしかし、現代においては、毒果実として、認識されている。


 この実は、この実単体では毒でしかないのだ。

 この実は、「ぼうじくはむ」と混じり合わねば、食用にはなれないのだ。


 現在、「ぼうじくはむ」は、存在していない。

 およそ6996年前に、この地球上から、燃え尽きてしまったのだ。


 もはや、この実が、人類に食される機会は、失われてしまったのである。



 ここに、ひとつの…石が、ある。


 実に毒々しい、真紫色を誇る、石。


 この石は…今から90068年前、頻繁に埋め込まれていた石である。

 人体に足りない触覚を、後天的に出現させるための、石。


 だがしかし、現代においては、毒鉱石として、認識されている。


 この石は、この石単体では毒でしかないのだ。

 この石は、「ぐううううん」と混じり合わねば、人体と結合することはできないのだ。


 現在、「ぐううううん」は、存在していない。

 およそ187561年前に、この地球上から、枯渇してしまったのだ。


 もはや、この石が、人類に装着される機会は、失われてしまったのである。



「ぬら」も、「ぼうじくはむ」も、「ぐううううん」も、かつて、この地球上のそこらかしこにあふれていた。


 どこにでもあるものだから、キノコも、実も、石も、毒と認識されていなかった。

 この地球上からなくなってしまって、その時初めて、キノコも、実も、石も、毒であったのだと認識されたのだ。


「じお」も、「きそきじじゅ」も、「かしをどえおうぢゅぐ」も、なくなってしまった。


 どこにでもあるものだから、まさかなくなるとは誰も思っていなかったのだ。

 この地球上からなくなってしまって、その時初めて、大変なことになったと焦ったのだ。


 ……この地球上に、人類を脅かす、毒でしかないものなど、存在していなかった。

 何かと混じることで、常に人体に恩恵を与えてきた、数々の…物質。


 地球上から失われたものが、たくさん、ある。

 地球上から失われたために、生産できなくなったものが、たくさん、ある。

 地球上から失われたせいで、取り返しがつかなくなったものが、たくさん、ある。


 私は…、うっかり長寿を願ってしまったがために、今日まで生きる羽目になってしまった。


「ぬら」に「ぼうじくはむ」で「もそこむに」したものを「ぐううううん」で練って、「じお」に浸したのち、「きそきじじゅ」の上で三日三晩乾燥させ、「かしをどえおうぢゅぐ」と一緒に体内に取り込んだ、あの日。


 まさか、190301年も生きる羽目になろうとは、つゆにも思っていなかった。


 のんびり地中に埋まって、大陸と一体化していたのが間違いだった。

 ぼんやり人間の進化を楽しんでいる場合じゃなかった。

 うっかり海底で肉体強化合宿なんてしてたから、大惨事に気が付けなかった。


 真っ赤な昆布を「もそこむに」して、「きそきじじゅ」で挟んだものを食べれば、いつだってこの世から旅立てると思っていた。


 魂が、再生する肉体から、はがせない。

 命が、再生する肉体に、こびりついている。

 心が、再生する肉体に、蝕まれていく。


 真っ赤な昆布はあるけれど、「もそこむに」も、「きそきじじゅ」も、この地球上には、存在していない。


 私はもう…木っ端微塵になっても、この世界から消え去ることは、できないのだ。



 忌々しい気持ちを胸に、私はキノコを…かじった。


「これ、食べられるの?!よーし、俺も!!」


 隣のすすけた兄ちゃんが、キノコをかじる。

 嬉々としてキノコを頬張っていたが、やがて盛大に体を震わせて…動かなくなった。


 忌々しい気持ちを胸に、私は実を…かじった。


「これ、食べていいんだ!あたしにも頂戴!!」


 後ろのとぼけた姉ちゃんが、実をかじる。

 嬉々として実を頬張っていたが、やがて大声を上げて…動かなくなった。


 忌々しい気持ちを胸に、私は石を…口に含んだ。


「これ、飴?!貴重な糖分だ!独り占めすんなよ!!」


 正面の血気盛んなおっさんが、石を口の中に放り込む。

 嬉々として石を頬張ったが、声もあげずにばたりと倒れて…動かなくなった。


 ……どいつもこいつも、弱い肉体の持ち主ばかりだ。


 失われたものの多い世界で、人々はどんどん、貧弱になって行ったのだなと、しみじみ思う。


 圧力に負ける肉体、時間に負ける肉体、酸素を拾えない肉体、再生しない肉体、星から逃れられない肉体、コミュニケーション能力に限界のある肉体、知識を生かせない肉体、簡単に揺さぶられる感情しか持てない肉体、なんにでも負けてしまう肉体……。


「おい!ぼやっと突っ立ってんじゃねえよ!くそが!!」

「うわー、きんもー!身長低すぎてまじ萎える!!」

「年上を敬えない若造のくせに何しゃらくさいこと抜かしてんだよ!」

「つか40過ぎたら若者の言うことに従えよな!この老害が!」


 気軽に毒を吐くくせに、毒を食ったら昇天とか……。

 ねえ、これ、洒落のつもり?

 ……はは、笑えねえ。


 ……この地球上に、人類を脅かす、毒にしかならない生物など、存在していなかったんだけどな。

 ……この地球上から、良い人が、優しい人が、少なくなってきているからなのかも、知れないな。


 毒に混じるような肉体が、この世界から消えるのは…もう間も無く、なのかも、知れない。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 上手く言えませんが不思議な読後感でした。 今こうしてる間にも取り返しのつかないことが起こっていると思うと恐ろしいです。
[良い点] ぐううううん!?!!? [気になる点] 自爆する人間さすがさば [一言] 毒だらけ。この世はみんな毒だらけ
2022/03/30 20:14 退会済み
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