4話 俺が公表したくない最もな理由
「皆のおかげで飾りの製作が終わったよ~! ありがとう~!」
ふんっ、あざとい演技がわざとらしいぜヨナン。
「お礼にクッキー焼いたから食べてってね」
前言撤回。
ヨナン先生はイケメンで裏表のない素晴らしい人間です!
……ハッ! いかん、クッキーに釣られる訳にはいかない。あー、でも手が伸びてしまう~。しかた、仕方ないな……。クッキーが食べてくれって言ってるんだから食べるっきゃないよな。
ジャムの入ったあの丸いクッキーを手に取る。
……う、うまい!
ベリーの酸味とクッキーの甘味がマッチングしてやがる! お茶でもあったら一味変わって更に美味さが増すだろう!
そう思う俺の鼻がなにやら良い香りを察知。
「お茶もどうぞ」
感服いたしましたヨナン先生! ヨナン先生素晴らしいです! 神です神!
仕事の手伝い終わりの茶会は楽しかった。そろそろニナも起きてるだろうかと思って、一言ヨナン先生に言ってから私室に入らせてもらう。
ベッドの上でニナはすよすよと寝ていた。
「おーい、ニナ。起きて」
体をゆすってみると、ううん、と薄っすら瞼が開いた。
「もうちょっと寝かせてぇ~」
ベッドのシーツに包まり寝始めてしまった。
困った。これでは最終兵器を使うしかないではないか。
「……ヨナン先生特製のクッキーなくなっちゃうぞ」
「起きます」
なんて欲に忠実なんだニナ……。
起き上がったニナの手を引いてさっさと部屋から出るに限る。いや、ヨナン先生のベッドで寝てたと知ったらまた気絶しそうだし。
「いいにおい……。流石ヨナン先生……」
「おや、お目覚めかなニナちゃん」
「はうっ」
不意打ちのヨナン先生にニナが崩れ落ち……そうになったのでなんとか支えた。
「だ、ダメだわ。寝起きにヨナン先生はしげきが強いわ……!」
「しっかりするんだニナ。何を言っているのかちょっと分からないよ」
「イリーもいずれ分かるわ……はうん……」
トドメとばかりにヨナン先生がニナの頭を撫でた。ノックアウトだ、これはもうKOされてしまった……。
ニナはまた顔が真っ赤になりながらも、ヨナン先生に促されてふらふらとクッキーの並ぶテーブルの方に歩いていった。
他の子がニナを茶化すのを聞きながら、隣に立つヨナン先生に疑問をぶつける。
「ヨナン先生、もしかして遊んでない?」
「……反応が可愛くってついね?」
「イジワルな人だ~」
「さてどうだろう」
含み笑いが似合うなこのイケメンは……。ケッ、付き合った彼女に速攻でフラれてしまえ。
「イリーガちゃんはどう? クッキーは美味しかったかな?」
「母さんと同じぐらいに美味しかったです!」
「それは良かった! 実はクッキーを作るの初めてだったんだ!」
「初めて⁉」
「菓子類はね、あんまりというか作ってこなかったから……」
初めてで母上レベルの美味さを誇るクッキーが焼けるの? なんなの?
やっぱヨナンは裏がある怪しいヤツ。クッキー程度でほだされんぞ。
もう日も落ちるからということで家に帰された訳だが。
「夕日かぁ……」
『ファーレン・オンライン』で太陽が見えるのは一階層と二階層だけだ。三階層は海中遺跡をテーマとしたステージだから太陽は見えない、四階層は天使や悪魔たちの溜まり場なので常に昼か夜かの二択。五階層は自生している植物の光源のみで太陽は出てこないステージだ。
何気に日の流れが追えるというのは貴重だったりする。しかも夕日や朝日なんて曖昧な時間帯な所を。
……天使と悪魔かぁ。
俺が絶対転生者と公表したくない理由の一つには、悪魔が関係している。
『ファーレン・オンライン』内ではそれぞれ職業というものがある。戦士だったり魔法使いだったり、好きな職業を選び、その職業のスキルで魔物を倒してレベル上げしていくのが主な流れだ。
職業は大まかに分けて二つ、物理職と魔法職。この魔法職はまた二つに分けられて、魔法使い職と召喚職とに分けられる。
俺の選択した職業はこの召喚職である――悪魔召喚士。
この職業は人の訪れない(プレイヤーは別)四階層に住まう悪魔を呼び出し、代わりに攻撃してもらう。
俺はこの悪魔召喚士でめちゃんこ強いプレイヤーに憧れてなってみた訳だが……。よく召喚職は不遇と言われる理由がよく分かった。
なにせ、魔導書が無ければ悪魔も天使も召喚出来ない。ゲームじゃ召喚職になった途端、その職の職人NPCから「餞別じゃ」とかなんとか言って魔導書を一つ貰えた。攻守バランスの取れた悪魔が出てくるものが。
それ以降の魔導書は、一次成長、二次成長と呼ばれる区切りごとに職人NPCから貰ったり、はたまた魔物を狩って自然にドロップ(倒した後の魔物がアイテムを落とすこと)するか、フリーマーケットで買い求めるかで増える。そして戦法が増えていくって訳だ。
まず言おう。悪魔召喚士が如何に強くなるのかは魔導書の有無に偏りすぎている。他の職業はレベル上げていけば普通に強くなれるが、召喚職はそれぞれ強い天使や悪魔の魔導書が無ければ圧倒的な力は手に入らない。かといって、職人NPCから貰った魔導書では火力不足。
じゃあ狩り以外で魔導書を増やそうとしてフリーマーケットに行っても、市場が魔導書の値段を馬鹿みたいに釣り上げて買い求めることはできない。
地道に魔物を狩ろうとしてもやたらとプレイヤーによってキルされる。
八方塞がりとはこのことかぁ~^^と、悪魔召喚士になる前の職業でお礼参りに行ったのは良い思い出。
――一応、ゲーム時と同じくアイテムボックスが使える。アイテムボックスを使えば一発で転生者とバレてしまうからそう使うことも無いが、中には最後にプレイした時と同じアイテムが入っていた。俺が狩りでドロップさせた魔物の素材や買い込んだポーション、武器や防具。
――だが不思議なことに魔導書だけはすっからかんに消えていた。
結構……、職業事に100レベルが上限で、悪魔召喚士は50レベル以上は育成できたからそれなりに俺の元には魔導書がある。
悪魔召喚士である以上、魔導書は必需品。だがその必需品がなければ……、転生者として招集されたとしても……。
「え? 魔導書ない召喚士とか死に職じゃん。さっさと消えろカス」
とか言われる可能性がある訳だ。単純にムカつく。
こういう理由もあって俺は転生者として公表しない。ただのイリーガとして生きて行こう。
そう母上のご飯を食べながら思うのだった。うまうま。




