3話 勉強会の後に
一度くるっと回ってみる。身に着けている白いワンピースがふわりと揺れる。
水色の髪に父が選んだ青いリボンが結ばれた――美少女がぎこちなく笑っている。
まー……、俺なんですがね。
見れば見る程、パーペキな美少女だった。
中にいるのがオレじゃなきゃ交際を前提としたお友達になりたかった……。そう、オレじゃなきゃ、な……。
姿見の向こうでORZの姿勢になれば、美少女も同じポーズをする。「あいうえお」と話せば、美少女から鈴の様な声が出る。
「イリー? そろそろ教会でお勉強の時間になっちゃうわよ~?」
「はーい!」
落ち込んでいてもしゃーない。「いってきまーす」と家にいる母上に挨拶してから外出。
という名の、今世? でいう学校の時間だ。
転生者はおよそ2000年前から存在してたらしい。で、その頃から転生者たちはジャパニーズフードの再現や治水やら、色んな影響をこの世界に残してきた。
この村で目に見えて影響あんなーって分かるのが黒板とチョーク。勉強会ではこれを使っている。公用語が日本語で、皆日本語で喋っている方が一番分かりやすいかもだ。……いや、転生特典的なもので自動的に翻訳されてるものだと思ってたから……。
「ひい、ふう、みい……。よし皆集まったね」
何も書かれていない黒板を前に、白い衣服に身を包んだ青年が手を叩いて席に座る皆の注目を集めた。
俺のいる村の教会で働いてるヨナン先生は人当たりが良くて大人気だ。
――しかし俺は知っているのだ。そういうヤツほど、裏の顔を隠しているってな……!
「まずは字の書きとりの宿題を見せてね~」
正直五歳児向けの字や読み取りの授業なんて退屈だ。しかも異世界語ではなく日本語なら楽勝ってもんよ。だが、俺のノートを見たヨナン先生の顔は渋かった。
「うーん、イリーガちゃんにしては頑張ったかな……」
「て、ていねいに書きましたっ!」
「分かるよ。その気持ちは筆圧から伝わってくるよ」
……お世辞にも綺麗とは言えない字を見てそうコメントするヨナン先生の優しさが辛い。
うぐぐ……、子供の手で字を書くのが難しいだけであって、決して、決して! 俺が元から悪筆とか、字が汚いとかそういう理由じゃないからな!
「やーい、字が汚い女~。アイダダダダダ!」
「いっけな~い、つい手が出ちゃったァ~」
後ろの席からくすくすと笑われた。近所の悪ガキである。
ふっ、分かっているぞ。あまりにも俺の美少女っぷりに、好きな子にちょっかい掛けたくなる精神を発揮しているということはな……!
ここは年上の余裕として頭に拳骨お見舞いじゃコラ。
「はいはい、喧嘩は止めようね。ギリスもそうやって悪口を言わないの。イリーガもはしたないよ」
「…………はーい!」
「はーい……」
とか言いつつも、ギリスはボソッと「事実だし」と言ってきた。
いつか川にでも埋めようかな……。冗談だけど。
教会での勉強会は無事終了した。昼時になって解放された子供たちが蜘蛛の子のように散るのに混ざって、俺はゴーホーム。母上の飯をかっくらってまた外出。
「イリー! おおーい!」
「ニナ? なにか用?」
後ろから声を掛けてきたのは幼馴染のニナだ。似た系統の水色の髪が眩しい美少女である。
「ちょっとヨナン先生が手伝ってほしいことがあるから来てーって!」
「えぇー!」
「いいから行こっ!」
しぶしぶニナに付き合ってまたもや教会に戻ってきた。授業の時とは違って教会の内部にある一室まで連れてこられた。俺の他にも数人子供がいた。一体何の手伝いをされるんだ?
「集まってくれてありがとうね。実は収穫祭の飾り付けの用意が間に合わなくってね……」
申し訳なさそうにヨナン先生が言うとガキンチョたちは「仕方ないなー!」「手伝うよ!」と言ってきた。概ね好意的なのが恐ろしい……。ヨナン先生が何を企もうとも俺が阻止してやらねばと、ツンとした態度で参加することにした。
飾り付けの用意といっても、紙を繋げた紐とか、収穫祭に行われる「誰が一番大きいカブを作ったかな賞」に使われる花のブローチを手作りしたりとか。まぁまぁ俺も作り方を知っているものだったので、手際よく作れた。
さーて、次のブローチも作ろうという所で隣の席に座ったニナがすすすと寄ってきた。
「ねー、イリー。ヨナン先生かっこいいよね……!」
――俺の一番苦手な話題がやってきた。恋バナ、KOIBANAである。
「そ、ソダネー」
「なにその棒読み。もしかして、ヨナン先生よりカッコイイ人がいるの?」
「んー、ソダネー?」
「……もう! イリーってば恋バナが苦手なのは変わらないのね! いいわ、とことんヨナン先生の良い所を話したげる」
女の子ってもうこんな年からませてんのな……。
「まずはあの綺麗な髪を見て。緑色の、森みたいな色! 性格が髪色にまで出ているのよね!」
「垂れた目がとても素敵よ。ずっと見つめられていたいくらい!」
「それから所作の丁寧さ! あれは近所の悪ガキたちにも見習わせたいくらいに綺麗で、ほれぼれしちゃうの!」
「あ、あのニナ……左……」
気付いてないようだからとんとんと肩を叩く。はっ、と一瞬こっちを見たニナに「左、左」ともう一回言う。
「なによー」と頬を膨らませたニナは一瞬で固まった。
「そ、そんなに褒められると恥ずかしいかな……」
目に入るのは、優しい森みたいな色(ニナ談)の持ち主、ヨナン。
ダイスキなヨナン先生の照れ笑いを間近で見てしまったニナは誰が見ても真っ赤になった後、ふら……と俺の方に倒れてきた。
「しっ、しっかりしろニナ!」
「だ、だめ……。もう、無理ぃ……」
すっと、ニナは顔を隠して意識を失ってしまった。
「ニ、ニナー!!!」
「え、えぇ……⁉」
倒れてしまったニナはとりあえず、教会内にある唯一のベッドで寝かせられた。
そのベッドというのがヨナンの私室のものだから……。起きてまた倒れないか心配になった。
飾り付けが終わったら様子を見に行こうと思う。




