10話 リアル人間出荷
拝啓、父さん、母さん。如何お過ごしでしょうか。
今、俺は奴隷商に捕まっています。
俺は昨夜に寝た。頭が結構スッキリしていたので向かい側に見覚えの無い優男がいてもヒドロヴァールと合致させることが出来た。ほんの少し毛布が掛けられていたが寝た場所が寝た場所なので体がバキボキなのはおいといて。
性悪サーカス団ことブランシュ・ローズが子供を謎の技術で誘拐しようとしていたこと(そういやあの暗転なんだったんだろ)。
ヒドロヴァールはサーカス団と対立している事。
で、愛用悪魔のよしみで助けた俺はコイツに同行するってことになったって訳。
起きたらひとまず村を離れる為、森を南下することになった。適当にテレポートしたのは村の南側、あのサーカス団の設置場所から更に奥へ行った場所なのだ。北側に森は無かったと記憶しているので、南下は正しい判断だった筈。
ここでヒドロヴァールくんの目的をおさらいしよう。彼はなんか不穏なことになってる同門の悪魔たちと性悪サーカス団が求めている生首ことソロアネストという奴の復活だ。
手段はあるにはあるらしいが、本人が何故か弱体化している。大方契約すれば力が戻るとでも目をつけたのだろうが、力は戻らず。ここら辺は多分ヒドロヴァールくんの事情もあるので一旦置いておく。
一番のミソはここっすよね。
八門悪魔は強いみたいな描写がゲーム方でもされてる。そっちはヒドロヴァールじゃなくて八門の中でも最強とされるグロムっていう悪魔が。悪魔の中でも一目置かれる存在、憧れのカリスマ!
――なのになぁ?
「ブルーウォルフすら倒せないなんて……」
「黙れ……」
「今までよく生きてこれたな……」
「黙れ……!」
ヒドロヴァールは拳を握りしめる。
俺たちの腕は鎖に繋がれた鉄の腕輪が嵌められていて思うように動けなくなってしまった。
――敗北ッ……! 圧倒的敗北ッ……!
ことは数分前。
無事に歩いていた俺たちは運悪くブルーウォルフの群れに遭遇し、逃げた先は奴隷商の馬車が通っていた。
俺たちは捕獲された挙句、馬車が運んでいる牢にぶち込まれて出荷されてる状態にある。
森に生息するブルーウォルフとかいう経験値魔物すら狩れないとか……。哀れみ通り越して慈愛覚える。
ぶちこまれた先ではみーんな死んだ目してる。これから俺たちどうなっちゃうの~!?
「おい、あまり近寄るな……」
「身の振り方っつーもんだよ」
奴隷ってほら、基本バラ売りされるから。ツラだけはいいこの男に買い手は数多、なんならこいつの血縁かなんかで誤魔化しときゃセットで買ってくれる太いお客がいるかもしれんだろ。
ツラのいいイケメンとちょっとばかし賢い儚げプリチー美少女セットとか、垂涎もんだろ。
もしかしたら、ラノベのお約束。転生者がやってきて奴隷商を屠って――。
なんてことはなく町で売り場に出されました……。
誰だよお約束とか言ったやつ。俺には救いの手、主人公枠のヒロインにすらなれないってか?
ふざけるなよ……、お前ら全員顔面ボコしてやるよぉ……!
「ほお……。では私はこの奴隷を頂こう」
「毎度ありがとうございます」
もみ手を擦った奴隷商が腹の出ている貴族にヘコヘコしている。その貴族は俺から二つ隣の牢にいる、やせ細った少女を買い上げていった。
売り場つっても牢獄ですわ。カプセルホテルみたいに場所を牢で仕切られてる感じ。一つの牢に何人か入れて売り出している。
俺の所はクソザ……、ヒドロヴァール、俺、筋肉ムキムキ絶望おじさん、うろんな目をした肉感的女性、片腕の無い少年といったバラエティー豊かなもの。誰もなにも言葉を発さない。
おじさんはずっと「ちがう、ちがうちがうちがう……」しか言わない。
女性は「あー」とか、「うぁっあああー」しか言わない。
少年は無口。
気が滅入りますわぁ~……。
そんなこと言ってるとまた足音が聞こえてきた。俺たち商品は鎖でつながれているので、必然的に歩いてるのは奴隷商か買い付けの客しかいない。今回は多めだな……、奴隷商抜いて二人か?
「こちらなどは如何でしょう」
「もう少し幼い子はいないの?」
「それでしたら……」
――少女の声だ!
カツ、カツ、カツ。足音がこちらに寄ってくる。
――牢の前には俺たちと少年。奥に女性とおじさんがいる。この配置なら……。
(……おいヒドロヴァール。今からすることに何一つ文句を言うなよ)
(一体何をするつもりだ貴様……)
(より良い未来へフライアウェイってやつさ)
(は?)
小声の耳打ちが終わると同時に足音が俺たちの牢の前で止まる。
「こちらの少女など如何でしょう。――おい、顔を見せろ!」
「い、イヤです……!」
ピッシィーン!
牢に鞭が打たれた。音に怯え、渋々といった様子で俯く。ヒドロヴァールの服の裾をしっかり握るのも忘れない。
「そう脅さなくていいわ。……ねぇ、お顔をこちらに向けてくださらない? 痛いことはしませんのよ」
え゛~? 本当かな~?
疑いは胸の奥に隠し、その声で警戒を解いたように俯いていた顔を上げる。美少女に見える角度を忘れない――!
そこでようやく俺も貴族の姿が見える。くりっとした栗毛の少女、付き添いらしいメイド。
少女の方は天真爛漫な風貌で、いかにも活発そうな感じ。メイドの方は……、キッチリ髪を整えて結わえてロングスカートのクラシカルメイド服。いかにも冷たい感じ。
「……ね、メイ。この子ならいいでしょう?」
「お嬢様……。しかし……」
「ね、ね?」
「……致し方ありませんね。この者を買います。値段は?」
すかさずポロっと涙を流す。ひっぐ、うっぐ、と呻きを忘れない。
「お兄ちゃん、離れたくないよう……!」
極めつけはこの可憐なヴォイス……!
ヒドロヴァールの方を向いたら「何してんだコイツ」みたいな顔してる。うるさいぞクソザ……おっほん。
こんな所にほいほい来るガキなんざ格好のカモだろうがおおん!?
しかも女よ女! お前もセット買いされる可能性があるんだってば!
髪の色合いが似てるからワンチャンいけるって!
「あら兄妹なの? こちらの男も中々……。ねぇ、メイ?」
「あの二人を買いますか?」
「えぇ!」
「ではそのように」
「は、はい!」
――計画通り。
俺はこの少女の元にセットで買われることになった。
送られた先は豪邸。うーんやっぱり貴族。
俺とヒドロヴァールは別々にされた上で洗われて、執事服とメイド服を着せられて部屋に案内されて再開。
「貴様ァッ……」
「そう怒んなよ……。さっきの小太り系貴族に買われるよりもまだこっちのがいいだろ……!」
「こ、の、私が……。買われるなど……!」
そういや『ファーレン・オンライン』のフリーマーケットでもお前の魔導書売ってたよ。
額は48,000,000ルルック。八門最強とされるグロムは197,000,000ルルックと一桁違う数だがな。
「なんだその目は……」
「いやぁ? お兄ちゃん見違えたなーって」
「それだ、その気色悪い呼称を止めろ……!」
「無理だよ。兄妹で買われたんだからそれらしくしないと、ね? お兄ちゃん?」
鳥肌立つなよ。こんな美少女の妹が生えてきて嬉しいだろ? お?
心底イヤな顔すんなよこの、このっ。
「あら! とても素敵になったわ!」
バーン!
扉を開けて出てきた少女は真っ先に飛びついてきた。
「あ、あのっ……」
「やーん可愛い!」
激しいボディタッチと頬ずり。う、ニナとはまた違う積極的な女の子だ……。
「お嬢様、お離れください」
「えー? いいじゃないの、私の物なのよ?」
私の物。ガチで俺人権無くなったんだな……。
少女がぱっと離れてにこにこと俺に笑いかける。
「貴方達には今からティネウィルトン家の使用人として働いてもらいます」
「貴方のお名前は?」
「い、イリーガといいます」
「そちらの方は?」
「……ヴァールだ」
おうおう偽名名乗ってんなぁ。俺も名乗っときゃよかったかな。
でも折角もらった俺の名前なんだから、それ以外の名前を名乗るのはどうなのか。俺は訝しんだ。
「お嬢様、そろそろ」
「む、分かったわよ。お茶会の時間ね。他の者に用意してもらうから、メイはちゃんと教育してよね」
「かしこまりました」
お茶会の時間らしいので少女は退場するようだ。名残惜しく見つめられながらも部屋を出ていく。ヒュー、流石お貴族様だぜ。
「私の名はメイと申します。メイド長を務めさせていただいております。今後、貴方たちの教育を任せられていますのでお見知りおきを」
「は、はい!」「……はい」
明るい返事と暗い返事。これからの幸先が危ぶまれるぜ。
さて、いつ脱走するかだよな……。




