【改稿】婚約破棄されたウサギ令嬢だけど、ハッピーキャロットで幸せになるの!
編集し直して、ジャンルも変更しました。
誤字報告、ありがとうございます。
「ミミアン・ラビドール侯爵令嬢。申し訳ないが、君との婚約を破棄させてもうらおう!」
その宣言を聞き、ミミアン様は、口からぽろっと、食べかけのラディッシュを落とされました。
コーネル王国の満月祭の夜でございます。
コーネル王国は、耳の長い(うさぎっぽい)生き物の国。年に一度、秋の満月の夜に、王宮ではパーティが開かれるのです。
今しがた、壇上で不穏な宣言をされたのは、コーネル王国の第一王子、ビレーマ殿下でございます。
青みがかったグレーの毛皮に、湖を思わせる深い藍色の瞳。長い睫毛と長いおひげ。お耳と鼻先が短いお姿は、王国の正統な跡取り、血統書付きネザーランドドワーフ一族の証です。
「なお、ミミアン嬢の代わりに、わたしはここで、ラディキノ男爵令嬢との婚約を宣言する!」
ビレーマ殿下の後ろには、黄金色の長毛種で、お耳がぺたっと垂れている、栗色のおメメもトローンと垂れている、ラディキノ男爵令嬢様が毛づくろいをしていらっしゃいます。男爵様は、遠く東の大陸からやってきて、王国にかなりのご寄進をされた、新興貴族の方でございます。
本来ならば、王家とのご婚約など、ありえないお家柄なのですが……
「お聞かせ下さいませ、殿下。なにゆえ、わたくしは、殿下の妃としてふさわしくなかったのでしょう」
意を決したように、ミミアン様が言葉を発しました。
ビレーマ殿下は、ほんの少し躊躇って、しかるのちこうおっしゃったのです。
「顔だ」
え、顔?
顔って言いましたよね、殿下。このたくさんの参加者の前で。
「我がコーネル家は代々耳と鼻が短い一族。君の耳と鼻は長い。不格好だ。マイナス五ポイント。さらに言えば、尻がデカすぎる。わたしは体の大きい女は苦手なのだ。マイナス五ポイント。このマイナスを消せる利点が、なにかあるというのか」
とんでもなく失礼な発言を繰り返し、ビレーマ殿下は傍らのラディキノ嬢にピッタリと体をくっつけました。
ミミアン様は、涙ながらに綺麗なお辞儀をし、まさしく脱兎のごとく、会場を立ち去られたのです。わたくしも、慌ててミミアン様のあとを追いました。
わたくしはミミアン様にお仕えするラビドール家の侍女、マロスでございます。
ミミアン様は、生まれた時から、第一王子のビレーマ殿下と婚約しておりました。
しかし、ミミアン様は、ビレーマ殿下とお会いする機会は数えるほどで、親愛の情を深めることなく、ここまできています。
先ほど殿下は不格好などとおっしゃいましたが、ミミアン様はミルクティ色の毛にところどころ白い毛が混ざって、黒い瞳がキラキラと愛らしいお嬢様です。ご両親様と三人のご兄弟様に囲まれ、健やかに成長されました。
泣きながらパーティ会場を出たミミアン様は、ぴょこたんぴょこたんと歩いておられました。
「ミミアン様。夜道の一人歩きは危険でございます」
「ああ、マロス。……ありがとう」
ミミアン様の泣き顔に、わたくしは胸が痛みます。他の貴族令嬢様たちと比べて、見劣りするような容姿ではありません。あれは耳たれのラディキノ嬢にうつつを抜かした殿下の、単なる暴言でございましょう。しかも何、マイナスポイントって!
「こんな時、キリヤお兄様がいてくださったら、迎えに来てもらえるのに」
キリヤ様は、ビレーマ殿下のご学友であり、ミミアン様の従兄様です。
他国に留学されて、最近は連絡が取れなくなっているとか。
キリヤ様が殿下のおそばにいらしていたら、バカげた婚約破棄など、起こらなかったかもしれません。
侯爵家の近くの道で、路傍の石に座り込む、人影がありました。
不穏な輩であれば、わたくしマロス、命がけでミミアン様をお守りしなければ。
わたくしたちが近づくと、人影は立ち上がります。
「すいません、何か食べる物、持ってないですか?」
人影はどうやら人間族の方でした。
ぼろぼろのトレーナーに、擦り切れたズボン。
どこかの奴隷が、逃げてきたのかしら。
そんな相手に、お優しいミミアン様は、ポシェットの中から、クランベリーのドライフルーツをお渡しされました。
「ありがとう。ウサギさん。これ美味しい!!」
「ミミアンです」
人間は、ミミアン様のお鼻から額にかけて指先で撫でました。
侯爵令嬢に向かって、なんて失礼な!
わたくしは密かに憤慨しましたが、ミミアン様はうっとりされていました。
わたくし共の哀しい性。そこをナデナデされると、うっとりしてしまうのです。
「ミミアンさん、お礼に良いことを教えてあげましょう」
お嬢様を「さん」呼びなんて、失礼な人間です。
でもミミアン様は、気にせずに人間の顔を見ています。
「今夜は満月祭。この先の森では、特別なプレゼントが空から降ってきます」
「トクベツ? 」
「はい。多分、ウサギの皆さんが好きなものです。その中に、さらにキラリと光るものがあります」
「はあ……」
「それを五つ集めたら、森の中の石像にお供えしてごらんなさい」
そういえばこの先にある森の中には、たしかに石像がありますね。
「お供えすると、どうなるのですか?」
人間は言いました。
「ミミアンさんにとって、一番欲しいものが、手に入ります」
立ち去る時に人間は言いました。
「この形。これがお供えするものです。一つじゃダメですよ。必ず五つね」
それは夜空に輝く、お星さまの形でした。
「あの、あなた様のお名前は!」
ミミアン様がお尋ねされます。
「ウサギテイマー、TKです」
王都でも、夜の森は危険です。
夜行性の狩をする獣が生息しているとも聞きます。
しかし、この夜は、ミミアン様はもちろん、わたくしも、常とは異なる心もちでした。
秋の夜。満月はちょうど森の真上に見えます。
月の光は雨よりも細かく、森全体に降り注がれます。
「きれい……」
ミミアン様がおっしゃいました。
王宮のパーティー会場を飛び出た時よりも、落ち着いた声です。
さわさわと木の葉が揺れます。
その時でした!
ひらひらと、空から落ちて来る何か。
手を広げて受け取ると、それは人参やキャベツの欠片でした。
「あったわ! 星型の人参!!」
ミミアン様が喜びの声をあげられます。
わたくしも一つ、薄い星型のリンゴのかけらを捕まえました。
二人でキャッキャッと騒ぎながら、気が付くと、いっぱいのお野菜と果物のかけらが集まり、その中には星型のものがございます。
「あら」
ミミアン様の鼻先に、かけらが止ります。
「星型だわ! やったあ! 長いお鼻でよかったわ」
たくさん集めているうちに、ミミアン様は明るい表情になられておりました。
二人で星型のものを数えます。
「一つ、二つ、三つ、四つ、あったわ! 五つ!」
ミミアン様とわたくしは、石像に五つの星型を並べました。
すると。
驚くことに、石像が左右に割れて開きます。
「あらっ!」
石像の中には、横たわる一人の耳長の姿があったのです。
「お兄様! キリヤお兄様だわ!!」
音信普通になっていた、キリヤ様が、そこにいらっしゃったのです。
キリヤ様は、ぱちりと目を開けました。
「ここは、どこだ? 俺は一体……」
「お兄様! キリヤお兄様! わたくしです。ミミアンです!」
キリヤ様はミミアン様をみつめて、にっこりと微笑まれます。
「ミミアン! ミミアンだ! ぼくは戻ってきたんだね」
お二人はぎゅーっと抱きあいました。
天空の月は、すべてを悟っているような、柔らかい光を投げていました。
その後。
ミミアン様は、キリヤ様と正式にご婚約され、間もなく結婚式を迎えます。
あのクソ殿下、失礼しました。ビレーマ殿下は、男爵令嬢様とご婚約されましたが、
「やっぱり、耳が垂れてないのは嫌!」とふられたそうでございます。
◇◇◇
ウサギテイマーTKが自宅でごろごろしていたら、突如葛城山中におわします、ウサギ大明神様から連絡があった。
「ウサギの国の住人が、間違ってこっちの世界に来て、帰れなくなっちゃったので、送り帰してね。いじょ」
「大明神様、ワクチン接種後なんで、今、動きたくないんすけど」
「無事送り帰してくれたら、お前様のレベル上げに必要なポイント、今なら十倍つけてあげるぞ」
「のった!」
ポイントは、重要☆☆☆☆☆
お読みくださいまして、ありがとうございました!
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