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醜悪なカラクリ

 ダンテ子爵家の先代も、ケインという名ではない。

 たしか、先代はかなり高齢で亡くなり、現在の当主は少年の内に婚約者の父親を後見にして継いでいる。婚約者が成人して正式に結婚したら後見人を降りることになっていたはず。


 突然の訪問にもかかわらず、ダンテ子爵とその母親は丁寧に私たちを迎えてくれた。

 白髪混じりでも凛とした美しさを湛えた母親には色情霊はなく、背筋を伸ばし知性溢れる風貌で挨拶を述べるダンテ子爵にはドレス姿の少女の色情霊がついていた。

 本体、色情霊、よくよく見ても誰一人後ろ暗いところなど無さそうだ。


「ケイン・マクレガー氏と彼が所持していた金剛石の短剣について話を聞きたい」


 ダンテ子爵の挨拶を受けてバードが言うと、子爵の母親が、やはりという表情で頷く。


「聖女様がお見えになるということは、そのお話だと思っておりました」


 私? どういうことだろう。

 バードと顔を見合わせていると、子爵が応接室ヘと案内をした。


「ケインは私の夫であり、この子の父親です」


 使用人を下がらせて、子爵の母親は話し始める。


「ですが二十年前、息子を授かると、神の啓示を受けたと言って、金剛石の短剣を持ち旅立ったまま、帰ることはありませんでした」

「神の、啓示」


 なんだろう。すごく嫌な感じだ。

 たしかに、そういう話なら、聖女が訪ねて来るのを待っていたことだろう。

 だが、ケインは男だ。聖女では有り得ない。

 聖女ではないのに、神の啓示?

 それに、私は、その話を知らない。

 生まれる前のことだとしても、そこまでイレギュラーなことなら、先代のエイレインの聖女が私へも伝えたはず。必ず。知ってさえいれば。

 彼女が知らなかったなら、神は聖女に隠して聖女以外の者に神託を下したことになる。


「部屋を一つ借りたい。聖女が天界の者と話をする」


 私が考え込んでいると、バードが子爵と話をまとめ、黙る私の手を引いて、静かな書斎のような部屋へと連れて来た。


「此処はケインが使っていた部屋だそうだよ。神の啓示も、この部屋で受けたらしい」


 きちんと整理された本のたくさんある部屋。

 嫌な空気は感じられない。


「リュカ、神に対し不信感があるなら、ハネオに訊いてみたら? あれで中々情報通みたいだし」


 天界の神に話しかけるのを躊躇っていると、バードが私を宥めるように提案した。

 それもいいかもしれない。二十年前までの話ならハネオもまだ投獄されていないから何か知っているかもしれない。

 私はペンダントを取り出し、紫の石を握った。


「ハネオ」

『お、リュカだな。どうした』

「ケイン・マクレガーについて知りたい」

『え? あの男が問題を起こすとは思えないんだが』


 ハネオもケインを知っている。

 ケインは天界に関わる人間?


『ケイン・マクレガーは、元天使だ』


 天使? だけど、ケインの子供である子爵は男だし聖女ではない。

 ん? 元?


「元?」

『ああ。元は天界でも有名で優秀な力ある天使だった。だが、娘であるガンダル王国の聖女が神に下された仕事中に死んで正気を失い、神に傷を負わせ天界の一部を破壊した咎で、力を奪われ地上に転生した』


 私は思わず眉間に皺を寄せた。

 天界のことはよく知らないが、随分と不公平な話じゃないか。


「あの変質者は天界で暴れ回って謹慎だけだったよね?」

『アレの標的は天使だけだったからな。天使は神様が創ればいくらでも替えがきくが、神様と天界にはスペアが無いって話』


 替えがきく。スペア。嫌な考え方だ。


「ケインは二十年前、神の啓示を受けて、聖剣の鍵と共に姿を消したらしい」

『神の啓示か。最悪だな。天界における罪を償うための転生だから、魂に神の強制力が加わる。神様側から接触されて命じられれば、意思を失い神の操り人形だ。

 ケインは、もう生きてないだろう』

「え?」

『天界から転生させられた咎人が神の啓示を受けるのは、命の使い方を命じられる時だ。お前は最期にコレをやって役に立って死ね、ってやつ』


 何それ。

 何それ。


 頭がぐるぐるする。


 いつの間にか、私はペンダントから手を離し、バードの腕の中にいた。

 神が支配するカラクリの醜悪さに吐き気がする。


「リュカ。酷い顔色だ。少し休んだ方がいい」


 バードがそう言ってくれるけど、私は緩く頭を振った。


「駄目だ。私は、私に出来ることをしないと。これ以上、神の犠牲を生み出す前に」

「わかった。僕も付き合うよ」


 嘆息するバードにハネオとの通信内容を伝える間に、体に力が戻って来る。


 私たちは挨拶を済ませ、ダンテ子爵家から南へ向かった。

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