本体登場
王都を出て馬を駆け、日暮れには次の町に到着した。
旅人御用達の宿に部屋を取り、賑やかな一階の酒場で夕飯にする。
この町名物の苦味の強いビールと合わせ、ハーブが爽やかでいくらでも食べられそうな揚げ物と、硬いチーズを頼んだ。
今度は妙な薬も入ってない。
「リュカと一緒だと食事が美味しいよ」
王都に居る時よりも気楽な雰囲気で、バードがジョッキを空ける。
城下町では楽しむ余裕が無かったが、ようやく二人で休暇を過ごしている空気だ。
「ハーブとビールが合うね。串揚げも追加しようかなぁ」
残り少なくなった皿と壁のメニューを見る。
バードが串揚げと地元野菜のピクルスを注文してくれた。
この先通過予定の町の特産品などの話を聞きながら、美味しいビールと料理に舌鼓を打つ。
そんな平和な時間に油断していると、外の喧騒が不自然に乱れた。
いつでも動き出せるように足元を整えると、酒場の前に乱暴に白馬が停まる。
馬上の男はヒラリと降りて、優雅な足取りで酒場に入って来ると、入口付近で変なポーズを取り始めた。
体は斜に構え、足は片方を踊り子のように後ろに引き、片手を苦悶の表情の額に当て、もう片方の手で金の巻き毛を払ってからバードを指差し、更に一拍溜めてから緑の瞳で指差す方へ流し目を送る。
「ハッ! お前が、お前如きが、この私より美しいだと? ハッ!」
口調と台詞もポーズに合っている。
つまり、変だ。
酒場の他の客たちも、コレはヤバい奴だと目を逸らす。
バードが意に介さずビールを飲んでいると、調子づいた変質者は腰に手を当て高笑いを始めた。
「ハーッハッハッハッ! 私の美しさに恐れを成したか! 私は誰よりも美しい! まお、ふぐぅっ」
魔王と言い切る前にバードが見えない速さで投げた付け合せの揚げた豆が、変質者の口の中にヒットする。
しばらく咳き込んだ後、変質者は捨て台詞を残して白馬で逃げ去った。
「お、覚えておけ!」
沈黙漂う酒場に元の賑やかさが戻ってから、私はバードに一応訊く。
「アレ、ハネオの言ってたアレだと思う?」
「むしろ他の何かだったら偶然と確率について研究が必要だと思うよ」
「やっぱり」
たしかに一般的に言って美しい青年ではあった。私の心には響かないが。そして強烈なキャラで色々台無しである。
「バード、平気そうだね」
「僕はリュカが関わらないことは、基本どうでもいいからね」
平然と料理を口に運ぶバードは通常運転だ。
釣られて私もさっき見たものを忘れ、この一時を楽しむことにした。
部屋に戻って休んでいた夜中、バードが音も無く起き上がった。
「バード?」
「ごめん。起こした? 外の様子を見てくるね」
「私も行く」
気配を消して階段を降り、外に回ると、バードは私たちの部屋が見上げられる場所で地面を探る。
生い茂る雑草の中に、不気味な赤さの石が置かれていた。
「何それ」
「火属性の時限石だね。この大きさなら時間が来れば、この宿なら一瞬で燃え上がる。今は天界にしか存在しないはずだよ」
「わー、また天界のビックリ・アイテムだー」
私が棒読みで感心すると、バードは赤い時限石を一度握って懐にしまう。
「燃えないの?」
「石の時間を止めたから、また動かすまで燃えないよ」
記憶の戻ったバードが何を何処まで出来るのか少し気になるところだが、とりあえず危険が去ったなら、必要なのは睡眠だろう。
私たちはまた気配を消して部屋に戻り、朝までぐっすり眠った。




