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不穏な影

 祭も終わり、待ちに待ったバードの休暇。

 私とバードは簡単な荷造りをして、旅装束で王宮を出た。

 私は神様からの任務で、バードはお忍びの視察で旅慣れているため荷物はかなりコンパクトだ。

 王都を出る際に使う馬を街角の厩に預け、城下町を散策して、季節のフルーツジュースを提供する人気店に入る。

 私がベリーのミックスジュース、バードがレモンジュースを頼み、程なくして運ばれて来た商品を見て、バードは店員を呼び止めた。


「このジュースに何を添加した?」


 責める口調ではなく、あくまで問うだけの口調。

 店員も、うろたえる様子も無くニコニコと答える。


「お祭りの時にお城の使いの方が配られた王家の秘薬です。王太子様がいらしたら飲み物に入れるように言われました」


 私とバードは視線を交わした。

 明らかに怪しい。王家の秘薬は持ち出し禁止。そもそも、材料が王族か私にしか採取できないんだから、他の者が手に入れられるはずがない。

 祭の最中に王族が秘薬を配った事実は無いし、そんな杜撰に扱うには効果が強過ぎるから有り得ない。盗まれるほど大量に作ることもなく、盗まれたら王宮は大騒ぎになる。


「残念ながら、城からそのような使いを出した事実はありません。その秘薬は偽物でしょう。危険な物なので私に預けてくれませんか?」


 怯えさせないように聖女スマイルで言うと、店員は青くなりながらも、店の奥から緑の小瓶を持って来た。

 バードが口すら付けなかったということは、ジュースに添加された偽秘薬は何らかの劇薬だ。

 そんな物を飲食店に配ったのなら悪質にも程がある。


 店員に話を聞くと、秘薬を配ったのは、身なり風体が城勤めだと疑う余地も無いほど高貴で大変に美しい青年だったそうだ。

 青年は、これは王家の秘薬だから、王太子以外には決して飲ませてはいけないと言い含め、城下町で特に人気の店十軒に、これと同じ小瓶を配った。


 レモンジュースを目の前で廃棄させ、念のため洗浄したグラスも砕いて廃棄して、罪には問わない旨を約束すると、私たちは残りの小瓶を回収に向かった。


 幸い、誰の口に入ることもなく、偽秘薬の小瓶は全て回収できた。

 城下町の人間は善良らしい。高価な細工を施したガラスの小瓶入りの王家の秘薬を、転売も横領もせず、王太子が訪れるまで大切に保管していた。

 偽物で実際は劇薬。無闇に服用したり流通させてしまえば悲劇が起きていた。


 最後に訪れた格式の高いレストランで個室を借りて、私はバードに問う。


「バードが警戒するレベルの劇薬って何?」


 テーブルの上には十本の緑の小瓶。

 蓋を開けて一つずつ確認したバードは、嘆息して嫌そうな顔を上げた。


「間違いないよ。これらは全て同じ効果の天界の秘薬」

「天界の秘薬?」

「地上に残された神々の庭の花で作られるのが、エイレイン王国の王家の秘薬。天界の秘薬は天界の花で作られる。地上に残された花々と違い選別されていないから毒の花もある。効果は王家の秘薬より強力」


 物騒極まりない。私も嫌そうな顔になる。


「僕はこれを配ったのは、ハネオが言ってたナルシスト天使だと思う」

「根拠は?」

「飲むと全身の皮膚が爛れる。命に別状は無い」

「あぁ、暗殺目的ならおかしいね。しかし、なんでバードを名指しで狙うんだろう?」

「さぁ? 僕は自分でも美しい方だとは思うけど、ナルシスト天使に恨まれるほどだとは思ってないよ」


 二人で首を捻っていても埒が明かない。

 私は服の下から紫のペンダントを取り出した。


「リュカが装飾品を身につけるのは珍しいね」

「これは使役獣と通信する道具だよ。石を握って話すと遠くにいてもハネオと会話できる」

「便利だね。どこで手に入れたの?」

「しばらく留守にすると言ったらハネオに渡された。天使が神様と通信する道具だって」

「リュカ、とうとう自分が神だと」

「細かいことはさて置き、早速使ってみよう」


 聞きたくないことを言われそうで、私は急いで紫の石を握る。


「ハネオ、聞こえる?」

『聞こえる。どうした?』

「バードが皮膚が爛れる天界の秘薬を盛られそうになった」

『マジか。それ、あいつの得意技だな』

「ナルシスト天使?」

『ああ』

「バードを名指しで狙ったんだけど、なんで?」

『あー、それなぁ』


 ハネオが言いにくそうに語尾を濁すので、少し脅してみた。


「バードが羽毛のベッドマットも欲しいって言ってた」

『やめて?! あー、もう。さっき、あいつが謹慎くらった原因の大喧嘩の相手と通信してたんだけどな? お前なんか、エイレインに復活した魔王に比べたら全然美しくないとか言ってキレられたらしい』


 頭が痛い。なんだその迷惑の飛び火。

 紫の石から手を離し、バードに狙われる原因と思しきことを伝える。

 二人揃って目から光が消えてる気がするが仕方無いだろう。

 天使同士の喧嘩で地上に迷惑をかけるな、と声を大にして言いたい。


「とりあえず、リュカが狙われてないならいいかな。遅れたけど、王都を出ようか」


 秘薬の小瓶を袋にしまったバードに促され、私も気持ちを切り替え立ち上がった。

 楽しい休暇は、まだ始まったばかり。

 うん。休暇なはず。

 休暇。だよね?

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