俺だけ超天才錬金術師 ゆる~いアトリエ生活始めました 本編&書籍発売記念SS
超天才錬金術師ゆるーいアトリエ生活始めました 2巻発売記念SS・おっぱいが大きくなる薬作って!(グリムニール編)
・ロリババァ
我が名はグリムニール。錬金術師の始祖の一人と名乗る資格を持つ者だ。
現に己の血族からは始祖様と呼ばれ、陰ながら世界を今日まで見守ってきた。
そんな我には夢がある。大きな夢、小さな夢、叶わぬ夢、我らは夢を見ずには生きられん。
その夢の一つをあのアレクサントが実現した。
彼は天才だ。いや、天才という言葉だけでは片付かぬ。
彼が捨て去った過去、彼の出生の真実を知る者からすれば、あの力に納得する面もあれば、想定を超えた能力に困惑する部分も大きい。
すまん、前置きが長くなったな。
つまりアレクサントは特殊。よって彼が扱う錬金術もまた通常とは異なるのだ。
・
「え、グリムニールさん!?」
最初は驚いた。いや、アレクサントがこうして生きていて、どこか間抜けな男に姿を変えていたのもそうだが、今回の要点はそこではない。
我は従業員の、通称アインスさんとやらに目を向けた。
この娘は我の前でさり気なく乳を揺らしつつ、アレクサントへと取り次いでくれたのだ。
知っているぞ。この娘、ついこの前まではそこまで大きくなかった。
お嬢とやらと、我が末裔アクアトゥスもだ。
「うむ、念のため聞くがアクアトゥスはいないな?」
「最近ちょっと影が薄いかな。卒業間近だから色々あるんだろうね、あの子も……」
そう言いながら、アレクサントはほんの少し寂しげな顔をしたかもしれぬ。
だが今はどうでもいい。
「久しいな。元気にしていたか?」
「久しいってほど時間経ってないけど、この前は助かったよ。おーいレウラッ、グリムニールさんがきたぞー!」
「あ、ご主人様……。レウラなら先ほど、昼寝から起きて、散歩に……」
「ああそうなんだ、せっかくグリムニールさんに自慢したかったのに。冒険者に狩られても知らねーぞ、あの竜……」
さてどこから言い出したものか。
面と向かっておねだりをするわけにもいかん。我にも立場と威厳があるからな。
しかしアレは必ず手に入れたい。アインスに目を向けて、我は決意を新たにした。
「アレクサントよ、最近調子がいいようだな」
「それもこれもグリムニールさんのおかげだよ。早くレウラを見せたいな、まだ子竜だけど」
「うむ……そうか。そんな少年みたいな目をされてもな……」
彼の真実を知る者としては不思議な感覚だ。
我の知るアレクサンドロスはこんな人間ではなかった。
しかし困った。頼みにくい……。
豊胸剤を完成させたのだろう!
わかっているのだぞ! そこに証拠そのもの突っ立っておるのだからな!
「あの、なん、でしょうか……?」
「フン……そなたも調子が良さそうだな。ああそうだろうとも、絶好調だろうとも」
「ちょっとグリムニールさん、うちのかわいい従業員を睨まないでよ」
「あ……。私、かわいい、ですか? ご主人様、私のことを、そんなふうに、思って……」
「いやかわいいっていうのは例えで、大事に思っているってのが正確な意味で――」
その言葉に感激したのか、アインスがアレクサントとの距離を詰めて目を輝かせた。
微笑ましいことだ……。などと思う余裕は、今の我に一片たりともない!
「人の前でイチャイチャするな! そういうのは我の要件を済ませてからにしろ!」
「イチャイチャなんかしてないよ」
「そう思っているのはお前だけじゃっ!」
「そうなの?」
アレクサントが不思議そうな目をアインスに向けた。
するとアインスの方もどこか抜けておるな。首を傾げて、随分と長々と彼を見つめ続けた。
いやそれにしてもずるい。
つい最近まで、同類の情を覚えてやっていたというのに、いきなり裏切られた気分だ。
羨ましい、腹立たしい、我はなぜ、今だかつて豊胸剤を完成させられぬのだ!
「あ、なんだそういうことか」
ついつい強い目線でアインスの胸に目を向けてしまった。
それをアレクサントに気づかれ、察してしまわれたようだ。
恥ずかしい。全身が火照ってきた。
巨乳に憧れ続けてきたこの一生を、のぞき見られてしまったかのような気分だ。
「う、うむ、なんだ、そういうことだ……。欲しいのだ、我も……」
「ごめんグリムニールさん、ちょっと取ってくるね」
「現物があるのかっ!?」
「あるよ。来客用のやつだけど」
「ま、待て! それはそんな安易に使っていいものではない! 下手をすれば戦争の引き金になるぞ!」
「なんかどっかで聞いたなそのセリフ……」
アレクサントが地下倉庫の方に立ち去った。
我はそれなりに下調べをしておいたからな、このくらいは知っているのだ。
ああ、それにしても歳を取ると恥をかくのも一苦労だ……。
だが我は耐え抜いた。ついに手に入れるのだ、この摩天楼を!
「あの、ご主人様は、きっと、わかっていないと、思います……」
「まあそう侮るな。アレのことはそなたよりずっと知っている。やるときはやる男だ」
「昔の、ご主人様を、知って、いるのですね」
「――うむ。だが過去については話せんぞ。思い出さぬ方がいいこともある」
「はい、私も、そう思います。今が、幸せなら、それで……」
そこにアレクサントが帰ってきた。
ついにこの日がきたか。悠久の月日を経て、ありとあらゆる者どもに始祖様、お婆様と、ババァを受けてきたこの我に、始祖に相応しき肉質を手に入れるときが……。
「お待たせ、はい」
「ほぅ、飴玉のように小さいのだな。早速服用しよう」
「服用……? まいっか、召し上がれ」
「やっぱり、理解、していない、ような……」
甘い。まるで本物の飴玉のようだ。
特に雑味といったものはなく、しかし段々と、胸部が熱を帯びてゆく感じがする。
今日からは巨乳のグリムニールか。ククク……我が世の春がきた。
「せっかくだしアインスさんもどうぞ」
「あ、いただき――あ、いえ、今は、いいです……」
「そう? じゃあ後で食べなよ」
「ご主人様は、錬金釜で、なんでも、作ってしまいますね……」
バカめ、アインスとしてはこれ以上胸が大きくなっても困るだろう。
意外とこやつはスケベなのかもしれ――んなぁっ?!
「ブフゥゥゥゥーッッ?!!」
「うわっ、どうしたのグリムニールさん!?」
し、しまった……こやつがいきなり飴玉(豊胸剤)を口に入れるから、つい吹いてしまった……。
だが、だが背に腹は代えられん……。
我は床に転がった飴玉を、再び口へと入れた。
「グリムニールさんっ、さすがにそれは汚いよ! そんなのドロポンにやっちゃえばいいんだし――って、喩えね? 喩えだからそんなことしないよアインスさん?」
「あの、ご主人様……」
「何?」
「これは、ただの飴、ですか? 例えば、胸の大きくなる、薬が、入っていますか?」
「え、なんで、そんなの入ってるわけないじゃん」
「ンブフゥゥゥーッッ?!!」
我は再び、ただの床に落ちた飴玉に過ぎないものを吹いていた……。
騙したな、この我を騙したなこの外道!!
「うわまた吹いた!? どうしたのグリムニールさん、不味かった?」
「違う! 我が欲しいのはコレジャナイ! コレジャナイって言ったらコレジャナイのだ!」
「そうは言われても、アインスさんの顔見ないで下向いてたから、てっきり甘い物が食べたくなったのかと」
「どこをどう捉えたらそういう結論になるのだ! そうじゃない、我が欲しいのは、その、あの……ぅ……」
い、言えぬ……。
胸を大きくして、ムダな見栄を張りたいだなど、我とアレクサントの関係性からすればとても言えぬ……。
「ご主人様、グリムニール様は、胸を大きく、したいのです」
「それがなんで吐いた飴を、もう一度に運ぶ奇行になるの?」
ここで我はこう言えばよかった。
恥を承知で、胸を大きくして見栄を張りたいと。だが邪魔が入った。
「兄様っ、アトゥが来ましたよっ! 嫉妬と寂しさのあまり兄様がアカシャの家を尋ねて、そのままお布団までご一緒する展開をアトゥは期待していましたが、なかなか来て下さらないので無理をして飛んできました兄様っ、アトゥは兄様が大好きです!」
我にも立場がある。ヨトゥンガンド家の者は、我に対して羨望に近い感情を持っている。
アクアトゥスに、錬金術師である我が豊胸剤を自作せずに、アレクサントを頼ったことを知られるわけにいかぬのだ……。
「あれ、グリムニールさん?」
「え、お婆様ですか?」
我は見栄っ張りな己を責めながらも、店の裏口から逃げた。
店の外は日差しがまぶしくて、恥ずかしさもあって涙があふれてきた。
覚えていろ、いつか必ず我もソレを手に入れてやる……。
そして必ずや、コモンエルフの権威を手に入れるのだ。
なぜ我ばかり身体が成長せぬのだ! 我も大人になりたい! 胸だけではない、身長もだ!
いつか全てセットで注文してやるぞ、覚えていろアレクサント!
皆様のおかげで晴れて2巻を発売できました。
ありがとうございます。
二巻からでも十分に楽しめる一冊になっていますので、書店で見かけたら手にとって見て下さい。
二巻の売上が三巻に繋がります。
どうか応援して下さい。