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相場師を抱いた女  作者: 成瀬あおい
3/6

1億円

 

「それができるかできないかがお前の人生の分岐点だ……、と」


 ラップトップのエンターボタンを押して、満足げに自分の投稿を眺める。投稿すると同時につくいいねとリツイートをみると、自然に頬が緩む。


「これでよし。よしよし、お前たち俺の売り物全部買ってね〜」


 俺は相場が開いている時間は、Twitterへの投稿とうなるほど持っている株の売却で忙しい。もちろん、利益確定、「利確」だ。自分が買った金額よりも株価が上昇したところで、売却して利益を確定することを、「利確」という。


株式市場の仕組みは至ってシンプル。上場している会社の株を買いたい人間と売りたい人間をマッチングするシステムだ。買いたい人間がたくさんいるのに、売り物がなければ株価は上昇する。品薄のゲームハードが転売屋によって高額で売りに出されているのと似たような原理だ。俺はこの10年間、トレードだけで生計をたててきた。安いときに買って、高いときに売る。単純でわかりやすいのに、これほど攻略が難しいゲームもない。本気で取り組めば誰でも莫大な資産を手にすることができる可能性を秘めた、資本主義における最も公平な闘技場だと思う。


 俺はそのゲームを早々に攻略した。そして、それだけでは飽き足らず、「ゲームメイカー」になりたいと考えた。株式市場におけるゲームメイカーは、「本尊」である。株価が低い時期に大量に株式を購入して、価格をつり上げて、買いあさりに来た凡人どもに売りをぶつける。100円の株を10万株買うと1000万円だ。その株価が1000円になれば、総資産は1億円になる。

 

 じゃあ1000万円を手に入れれば、誰でも1億円を手にすることができるのか? 答えはノーだ。100円の株を1000円にするためには莫大な現金が必要だ。じわじわと買い上げていく過程でめざとい投資家が買いに参加するようになる。じわじわと上がっていく美しいチャートを見つけるからだ。彼らに見つけてもらうチャートを作るだけで数千万円は必要である。


 俺が、ゲームメイカー「本尊」になりたいと考えて最初に手がけたとき、手持ちの資金は400万円しかなかった。これでは末端投資家の端くれだ。とてもじゃないが買い上がることもできない。相場の本尊にはなれっこない。そこで、思いついたのがネット掲示板だった。日本を代表する巨大掲示板の株式個別銘柄スレッドには、無数の書き込みがなされ、ときにはそれが株価を大きく左右する。ここで自分の地位を確固たる物にすれば、巨額の資金がなくても、有名投稿者の書き込みに群がる、「イナゴ投資家」の買い注文によって株価は上昇する。実際に有名な投稿者が書き込むと、一瞬で株価が上昇した。


 俺は、その手法で一時代を築いた。ネット掲示板のカリスマになることはたやすい。自分の売買を公開した上で、上がる銘柄を当てればいいのだ。


「○○が狙い目」


「今日は400万円分利確」


 そうやって書き込み、実力が伴っていれば自然と注目を集めることができる。俺はすぐに有名人になり、俺の書き込みによって買い注文が殺到するようになった。400万円だった資金はあっという間に1億円に到達した。その後、紆余曲折あって俺の戦いの舞台は巨大掲示板から、Twitterに移行した。紆余曲折の部分は思い出したくない。


今は、誰にも見向きもされていない小さな上場企業の株をひっそりと大量に買い占めた後、Twitterでその企業の株を推奨するという手法をつかっている。俺のTwitterのフォロワーのかわいい鴨たちは、俺の言葉に乗せられて、万年赤字を垂れ流す小さな会社の株をお宝株だと、「勘違い」して買う。もちろん俺は、Twitterで推奨する時点で仕込みをしているから、完全な勝ち戦。かわいい鴨たちは、俺が並べている売り物だと知らずに、赤字会社の低い価値しかない株を買い漁っていく。


 濡れ手に粟。

 

 手に1万円札が張り付く。毎日毎日1万円札が抱えきれないほど、手に張り付く。


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