96話 ボンヌ伯爵とプリン
俺達はボンヌ伯爵の屋敷の前までやってきた。
「止まれ!ここはボンヌ伯爵様の屋敷である。何か用か!?」
ゴツイ守衛2人が俺達に話かける。
「今日、伯爵様とお約束をしている、冒険者のユーキです。お取次ぎ願えますか?」
「うむ、話は聞いておる。中へ入れ。」
話は通っているようだ。
守衛の1人について門の中に入ると、広い庭を通り屋敷の中へ通される。
屋敷の扉の前には執事がおり、守衛から執事へ引き渡された。
「ユーキ様でいらっしゃいますね。私ボンヌ伯爵様の執事で「ネロ」と申します。以後お見知りおきを。」
「冒険者のユーキです。こちらこそ、よろしくお願いします。」
俺達は、ネロの後についていくと、広い応接間に通された。
しばらく待つように言われ、俺は豪華なソファーに腰掛けてユリ達は俺の後ろに立って待っていると、メイドが紅茶の様な飲み物を持ってきてくれた。
勿論5人分だ。
その後、5分位待っただろうか、扉が開くと
「ユーキよ待たせてすまぬな。よく来てくれた。」
俺は立ち上がり、
「ボンヌ伯爵様、お久しぶりでございます。本日はお時間を頂きありがとうございます。」
「良い良い、堅苦しい挨拶はなしじゃ。それよりもいつも砂糖を送ってくれて儂の方こそ礼を言わなければな。」
「勿体なきお言葉で。」
さすがボンヌ伯爵だ、今まで見てきた貴族の様に完全に見下した物言いをしてこない。
執事や守衛にメイドまで躾も行き届いている。
「して、今日はどうした?何かあったか?いや、気軽に訪ねてくれるのは嬉しいぞ。」
「はい。少しご相談したき事があったのですが、その前にこれを。」
俺は、準備していた手土産をアイテムポーチから出す
『オークキングの肉』×10㎏
「おお!これは、美味そうな肉じゃな。」
「先日、オークキングを討伐致しましたので、少ないですがオークキングの肉のおすそ分けを。」
「なんじゃと!オークキングを討伐したのか。あれは確かAランクの魔物じゃったはず。ユーキはそんなに強くなったのか。まぁ仲間も増えているようじゃし、変わった調味料を持っていた事といい、其方何者じゃ?」
「ただの運がいい冒険者兼商人ですよ。」
「運だけでオークキングは倒せんじゃろうて。しかし、オークキングの肉は久しぶりじゃな、有難く頂くとしよう。」
豪快に笑うボンヌ伯爵は、それ以上は突っ込んでこなかった。
冒険者に対する礼儀を弁えているようだ。
「それから、伯爵様にはこちらの方がお喜びになられるかと思い、作ってまいりました。」
『プリン』×20個
氷の入った金属の箱を取り出すと、ボンヌ伯爵の前に出す。
「これは…?」
「先に申し上げておきますが、これは作り方をまだお教えするわけには参りません。まだこの世の中に出していない、私が考えたデザートでありますので。それでもよろしいでしょうか?」
「うむ。金の成る木と言うわけじゃな。それはしょうがない。早う説明をせい。」
「これは、プリンと言って、卵等を使ったデザートでございます。冷やしておりますので、冷たいうちにお召し上がりくださいませ。」
「なんと!デザートじゃと!其方はこの間の玉子焼きは絶品じゃった。我が家での定番料理になっている位じゃ。」
伯爵は、すぐにでも食べようとガラスの器とスプーンを持つと、
「おぉ!確かに其方の言う通り、冷えておるの。」
プリンを様々な角度から見ると、臭いをかぎスプーンで掬って口に運びそうになる。
「伯爵様!お待ちを!!」
ネロが声をかけなければ、そのまま食べていただろう。
伯爵ともなると、得体のしれない身分のものが出した料理をそのまま食べるなどありえないらしい(玉子焼きは食べていたような…)。
1人の若いメイドが
「伯爵様、失礼いたします。」
と言うと、伯爵の持つプリンを取り上げる。
あぁ、っと残念そうな伯爵を他所に、スプーンで掬って口に運ぶと絶句した。
「これは…。」
メイドは、無言でもう一口食べると、そのまま3口4口と口に運んだ。
最終的に一心不乱に全部食べてしまい、意識を取り戻す。
「ハッ!!」
ワナワナと震えだすメイドをその場にいる全員が見つめていた。
「も、申し訳ございません。あまりに美味しすぎて全部食べてしまいました…。」
単純に夢中で食べてしまったって事ね。
「死んでお詫びいたします!」
そう言うと、メイドは一目散に部屋から出ようとダッシュした。
「え?」
俺は咄嗟に体が動かず、止める事が出来なかったが、ネロがメイドを捕まえると、ボンヌ伯爵が一言。
「気にするな。それほど美味しいという事だろう。」
メイドは涙を流しながら、頭を下げた。
「では、早速。」
伯爵がスプーンを使ってプリンを掬うと、待望の一口を口に入れた。
「…。口の中で溶けてなくなってしまった。甘くて美味い。」
小さな声でそう呟くと、伯爵は夢中でプリンを食べ始めた。
1つ食べ、2つ食べ、3つ食べ…。
最終的に9個食べた。
「ハッ!いかんいかん、全部食べてしまう所だった。これならメイドの気持ちはわかる。」
伯爵の食べっぷりに、部屋にいたネロと騎士3人およびメイド5人の口元には明らかに涎が垂れていた。
「ユーキよ。このプリンなるものは非常に美味い。こんなに美味いデザートは食べた事がないぞ。また、持ってきてくれるか?」
「伯爵様、勿論です。プリンは日持ちがしませんので、砂糖の様に遠くから送る事は出来ませんが、近くに寄った際には必ず持ってくる様にいたしましょう。」
伯爵は満足した様で、10個目のプリンを食べ始めた。
プリン残り9個。
ジーっと見つめる、伯爵以外の関係者達。
そして、俺の奴隷達。
そう、ユリ達にもプリンはまだ食べさせてないのだ。
そんな中、サナの喉がゴクリと鳴った。
伯爵はその音に気付くと、
「もしや、ユーキの仲間達にも食べさせてないのか?」
「はい。プリンを初めて食べて頂くのは伯爵様と決めておりましたから。」
どや顔で俺が言うと、伯爵は大層喜んだ。
そして、周りを見ると自分の関係者達の表情も確認する事が出来た。
「む、すまぬ。皆にも食べさせるべきであったな。」
「伯爵様、滅相もございません。ユーキ様がいらっしゃらなくなったら、次はいつお召し上がりになれるかわかりません。存分にお召し上がりくださいませ。」
ネロがすぐに100点満点の回答をすると、ガッカリした空気が醸し出された。
「伯爵様。どうでしょう。家に帰って食べようとまだ沢山あるのですが、私の仲間達も我慢が出来ないようですし、もしよろしければ、ここで皆にも食べさせてあげてもよろしいでしょうか? 勿論皆さまの分もございます。」
「それは渡りに船じゃ。是非頼む。」
明らかに、華やいだ期待に満ちた優しい空気が作られていくのがわかる。
俺は、アイテムポーチからプリンが60個入った大きめの金属の箱を取り出すと、全員に配り始めた。
「本当にこのプリンとやらを頂いてもよろしいのでしょうか?」
ネロやメイド達が恐る恐る俺の顔を見ながら聞いてくる。
「是非、召し上がってください。伯爵様の分が減る事はありませんから、遠慮なく。」
俺が笑いながら答えると、ネロが上品に食べ始める。
その後、メイドや騎士達も恐る恐る食べると、皆一様に言葉を失った。
ボンヌ伯爵は、残り9個を金属の箱に仕舞い優しい様子でみんなの様子を窺っている。
出来た貴族だ。
俺は、そう思った。




