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王女の呪い 2



 王女の寝室前では、女官長がマークとリスベットを待ち構えていた。

 女官長は齢四十のベテランで、王宮内では厳しいことで有名だ。そんな女官長はリスベットを見るなり一瞬顔をしかめたが、魔術師免許証を確認するなり、二人を寝室の中に半ば強引に押し込んで、外から扉を締めた。


「来たのね!」


「遅くなって申し訳ありません。魔女リスベット・ヨーク殿をお連れしました」


「あなたが!どうかシャーロットをお救いくださいませ!」


 挨拶もなく駆け寄ると、縋るようにリスベットの手を取ったのは、動揺して今にも泣き出しそうな、王妃のイザベラであった。


 王妃は齢四十。金に近い茶髪に緑の瞳をした美女で、元は侯爵の出である。

 普段は冷静沈着で貴族からの信任も厚く、マークはイザベラが取り乱したところを見るのは今日が初めてだった。


「シャーロットが呪いにかかっているんです!どうか!」


 リスベットは視線を奥にやった。マークもつられて豪勢なベッドを見やる。そこにはシャーロットが仰向けに寝かされていた。


 齢十三のシャーロットは、普段は好奇心旺盛で活発な美少女だが、現在の顔色は青白く生気がない。まぶたを閉ざしたままぴくりとも動かないので、息をしているのかどうかも分からない。まるで人形のようだ。


 その脇に不安げに佇んでいるのは、シャーロット専属の侍女であるエマと、王妃付き侍女のサラだ。どちらもまだ十代半ばであるがしっかりとしていて、シャーロットとイザベラからの信任は厚い。


「陛下。焦るのはわかりますが、ひとまず落ち着いてください。まずはヨーク君にきちんとした説明が必要でしょう?」


 諭すように言ったのは、波打つ灰色の髪を一くくりにした、優しげな雰囲気をまとった五十歳前後の男。大魔導士の一人であるサイモン・メイソンだった。


「そ、そうね。申し訳ないけれど、メイソン卿からお願いするわ」


「かしこまりました」


 リスベットは黙ってイザベラに頭を下げた。イザベラは頷き返すと、シャーロットの元へと戻り手を握った。


「ヨーク君。久しぶりだね。元気そうで安心したよ」


「メイソン先生。お久しぶりでございます。先生も元気そうで何よりです。それにしても、先生がいらしたのならば、私は必要ないのでは?」


「私は魔物に関したことなら得意だが、呪術に関しては苦手なんだ。私に分かることは、この呪いは魔物のものではないということくらいだよ」


 サイモンとリスベットは顔見知りのようで、マークは驚いた。


 サイモンは魔物を使役することに秀でた魔導士であり、魔術学校で魔物に関することを教えている教師でもある。もしかしたらリスベットもサイモンの教え子だったのかもしれない。


「殿下の手足にあざが浮き上がってきたのが四日前の夜。翌日、蛇の形になってあざが広がってきた。今朝から意識がなくなり、あざは腹部まで這い上がるように広がってきた。一刻を争う状態だ」


「最近殿下に変わったことはありませんでしたか?」


「いつものように慈善活動として孤児院や教会を周り、王宮内では令嬢を招いたお茶会も開いていたが、ここ一ヶ月は変わったことはなかったそうだ。私も知る限り王宮内の人間に聞いて回ったが、怪しい人物や呪術に携わった足跡(そくせき)はなかった」


「ということは王宮内ではなく、慈善活動に周った時に、侍従の目の届かないところで何かあったのかもしれません。殿下から目を離したことはありましたか?」


 リスベットが侍女二人に尋ねると、エマが首を横に振った。


「いえ。私が殿下から離れる時は、近衛騎士の方々にお願いしておりましたので、一人になることはなかったはずです。彼らも不審な人物が接触してきたことはなかったと言っております」


「あなたが側にいた時にも、不審な人間が接触してきたことはなかったのですね?」


「ええ。ございません……。孤児院や教会の方達は顔見知りばかりですので」


「と、誰に聞いてもこういうわけでね。殿下は恨まれるような方ではない。とはいってもいくら人が良くても王女という立場である以上、どこで呪いをかけられてもおかしくはないし、顔見知りの者が呪いをかけた可能性もあるが……誰も心当たりがないんだよ」


 リスベットが何も答えないので、たまらずマークは口を挟んだ。


「あの、状態を見れば呪いは解けるのでは?」


 するとリスベットは呆れたようにマークを見やった。


「あのね、そう簡単なことじゃないの。呪いを解くには、いつ、誰が、どんな方法で呪ったのかが分からないと基本的には解けない。呪いの解き方が分かっていれば尚いいけど」


 マークは昔読んだ童話を思い出す。

 童話の中で呪いをかけるのは大抵魔女によるもので、親切にも呪いをかけた後には、愛した人のキスがあれば呪いは解ける!などと捨てセリフを言って去っていった。しかし実際はそう優しくないようだ。


「今回はそのどれも分かっていないじゃないですか!」


「それでメイソン先生でも解けないから困ってるんでしょ?」


「魔女殿にも解けないんですか?」


「まだ情報が少ないわね。とりあえずあざを見せてもらいましょうか」


 リスベットは目を細めると、シャーロットのほうへと歩を踏み出した。



 

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