Day by Day Act.3
なんだかんだでシイちゃんと田所サンにサバイバルゲーム研究部会の部室へと連行され、目の前でメイドがよくわからん茶器と方法でお茶を淹れている。
というか、サバゲー部って女子率高いなと思った。ジブリールは置いておいて、それ以外全員女子だ。サバゲー界隈で女子の多いウチの部でも意図的に集めない限り中々こうはいくまい。
今いるのはシイちゃん、田所サン、ジブリールとそのお付きらしいシャルロッテというメイド、それとわたしの目の前で不敵な笑みを浮かべている白衣の女性だ。
「はじめまして……ではないね?」
不敵な笑みを崩さないまま挨拶をする。
得体の知れないプレッシャーを感じる。人物像自体は正反対だがこの人、鏡子サンと同じタイプだ。
「この前ネジ取ってくれた子だよね?」
ネジで思い出した、王子を探していた時に向かいの部屋にいた人だ。
「それで、吾妻くんと付き合ってるんだって?」
わたしはむせてしまう。
「なんのことかな?」
何も聞いてないのに田所サンがすっとぼける、オマエか。
「キミ、この前のバニーちゃんだよね?」
王子も王子で痛いところを突いてくる。
「冗談はこの辺にしておいて、何かお困りかな? エアガンのことでもそれ以外でも先達として君の力になろう」
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『そーいうわけでパイセンよーろーしーくーねー』
言いたいことだけを伝えて長岡は電話を切る。それが今朝のはなしだ。
僕は電話口から長岡と藤原が昼から大学に見学に来るということを聞いた。
長岡京と藤原あすかは僕の高校時代の後輩で僕が所属していた映画部の部員だ。長岡は何というか掴みどころのない子で飄々とした感じの子。藤原は逆にストイックなリアリストで職人肌。
去年、僕の卒業制作として映画を作るのを手伝ってもらった。両名共に手伝ってもらった手前無下にはできない。
学食へと向かい私服姿の長岡と藤原と合流する、数ヶ月だけだがもう大分会ってない感覚だ。
「パイセン、おひさー。学食奢ってー♡」
「自分で買えよ」
長岡が甘えた声でねだり藤原が厳しく嗜める、なんというかこういう子達なのだ。左耳のピアスを見てのとおり長岡は学内で不良と呼ばれるポジションであるが甘えたりするのが上手で叱られる事は多いが生徒、先生共に嫌われてるのを見たことがない、藤原は逆に物静かなタイプであるが長岡曰く正論やツッコミ名人なのだそうだ。
「あすかちんはわかってないなぁ、パイセンから奢ってもらう学食が旨いんよ」
「お金ないから安いのね」
そう2人に言う。
お金はないものの今日3人でカレーを食べるぐらいは余裕があるしお金のアテもある。バイトしていてよかったと思った。
「やたー!」
「藤原もカレーでいいでしょ?」
「はい、ありがとうございます先輩。できれば素うどんを所望します」
カレーの食券を2枚とうどんの食券を買って皆で昼食をつつく。
「藤原、漫画の方はどうなった?」
カレーをつつきながら藤原に漫画のことを聞く、藤原は漫画を書いていてストーリーが面白い上に絵も独特ながら上手く何より独特な世界観がある、卒業制作も部分部分で藤原からアイデアをもらったり助言を得た。
「今年に入ってから2回応募しました、1回目は落選で2回めの方も多分落ちてるんじゃないかなと思います」
「今の時期というと……グループ6の高校生漫画大賞?」
藤原は頷く。記憶が正しければ応募の締め切りはそろそろで発表は9月頃だ。2年も同じ部内にいて、時期になると部室でウンウン唸りながらタブレットで作業をしていたので大体わかる。
「発表まだでしょ、落ち込む必要はないと思うよ」
「そもそも受験と並行してるからクオリティは低めです、それで受かるほうが驚きです」
「でもアスカちん、送る際に願掛けでパイセンから貰った写真にお祈りしてるししかもあまつさえは今日見てもらって悪いとこ指摘してもらおうってタブレットの充電とかしっかりしてきたじゃん」
「バカ、それ言うな!」
「隣ええ?」
「どうぞ」
僕の隣に誰かが座る、それも気にせずしばらく話を続ける。
「キミ、吾妻くんやろ?」
振り返るとそこに阿賀野さんがいた、腕には三角巾を付けていて何故かキャップを目深にかぶっているがそのイントネーションは間違いなく彼女だ。加藤さんが呼んだと言っていたことからいても不自然ではないが驚いた。
「えっと、どちら様?」
長岡が阿賀野さんに聞く。
「彼女サバゲー仲間の阿賀野さん」
彼女とは色々あったもののとりあえず無難な説明を2人にしておく。
「そういうこと、よろしく」
チョコレートバーをかじりながら阿賀野さんが答える。
「パイセンサバゲーやってんの?」
長岡からの問いに頷く。
「うそだー、そんな長岡みたいな野蛮な事しないって」
長岡がゲラゲラ笑いながら茶化す。しばらく笑ってから「マジでやってんの?」聞き「うん」と答える。
「マジかー」
「敵倒した時にプルプルダンスとかで煽ったりすんの?」
「いやキミ、サバゲーをなんだとおもってるの?」
「銃で撃ち合う野蛮な遊び?」
「全然ちゃうわ!」
「あの……」
振り返ると真壁さんがいた、こっちは少し驚いた。
「お久しぶりです……」
「久しぶり」
「ああ、彼女もサバゲー仲間の真壁さん」
「よろしくお願いいたします……」
「えっと……その、吾妻さんに、お遊びのお誘いしたいのですけれども……」
真壁さんがチラシを渡す、見てみるとプライマリでツーマンセルオンリーのサバゲーが行われるみたいだ。
「あー、そうだ! みんなで部室に行こう」
周りの視線が冷たくなってきたのを感じみんなに提案をする。美人を侍らすって気分が重いね。
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目の前の丸さんは話しやすい雰囲気を出していたし話術も話さざるを得ない状況に手早く持ち込む。口下手なわたしでさえ正直に話したくなる話術だ。
昨日のことを皆の前で話したことと濃い味の紅茶のおかげもあってか悲しさは大分薄れた。
「ここにいる皆さんを見て吾妻が人を引きつける魅力みたいなのがあるってわかっただけでも良かったです」
「そうだよね! アズマっているだけで安心感あるよね!」
「それはわかる気がする、何というか弟みたいな感じな?」
「そうなの、シイちゃんも吾妻くんなら部屋入れてもいいの」
「まぁ見てもらえればわかるとおりほぼほぼ女性のみの集まりだけど、彼はあくまで仲間の1人って認識がここの総意だと思ってくれていい。それにだ、他人の恋路を邪魔する野暮な奴はここにはいないよ」
「ね、みんな?」
皆が頷く。
「それはそうとして、キミはどんな銃を使っているのかな?」
「MP5KのカスタムとKJのスタームルガーっスね」
わたしはスマホでMP5Kを抱えスタームルガーを腰に差した自撮り写真を出してからみんなに回す。丸さんは「いいカスタムだね」と褒めてくれた、ただ作ったのはわたしじゃなくて一から十までマツケンだし、なんなら撮影の心得まで教えてもらった。
「失礼します」
その声にわたしはビクッとする。
ドアの方を向くと吾妻がそこにいた。
「後藤さんいるの?」
「シイちゃんが連れてきたの」
ただその後ろから高校生2人を含めた4人の女が入ってくる。よく見ると、大人の方は先日戦ったヤツと真壁だった。
「今はそれ良くないなー」
丸さんが窘めるように言う。
「出直してきます?」
「後藤くんと一緒に暫く廊下で話していなさい。君達は入っていいよ」
「ほら、行ってきなさい」
「え?」
「大丈夫、君が思ってるほど彼やましい事はしないから」
丸さんに背中を押されてわたしは吾妻と一緒に廊下に出る。
「えっと……その……」
意を決し、昨日の女のことを聞く。
「女……?」
吾妻はキョトンとした顔をした、反応を見るに誤魔化そうとしてるのではなく質問の答えが見つからない反応だ。
「タイムカード切った後の」
「あ! あれ、ウチの姉貴」
「お姉さん?」
「そう、サバゲーやるらしくてさ。装備整えるためにウチの店に来たんだ」
耳が熱くなり顔が真っ赤になるのを感じそこから安堵を感じる。
自分の勘違いを恥じると同時に部長やシイちゃんの言っていた事が全く正しくて少し笑ってしまった、昨日の暗澹はすでに晴れていた。
吾妻の周りには善い人が集まるのだ。
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後藤さんを落ち着かせ一緒に部室へ戻る。
長岡、藤原はさておき、阿賀野さんと真壁さんは何かしらの用事があったはずだ。
「やあ、彼氏彼女の問題は解決したかな?」
「ええ、おかげさまで」
僕はそう答えてからジブリールの隣の空いていた席に後藤さんを座らせその隣に座る。
「そうだ、真壁さんなにか用事があったんじゃないの?」
先ず一番無関係な真壁さんから話を聞く。
「えっと、その……もしよろしければこちらの方ご一緒しませんか?」
真壁さんはかばんの中から1枚のビラを渡す、それを僕と後藤さんは一緒に読む。
プライマリ・ツーマンセル・アクティビティ
そう書かれたチラシの内容を読むに2人1組で様々な種目を行うサバゲーの競技大会だそうだ。
「わたしの方はもうバディが決まっているのですが、どうにもこういうの慣れなくて……もしよろしければ一緒に出ていただけると嬉しいのですが……」
「そっか、後藤さんはこの日時間開いてる?」
「開いてると思うっス」
「じゃあ僕たちも出場するよ、後藤さんもいいよね?」
後藤さんは頷く。
「手続きはネットのほうがいいかと思います……その、失礼いたしました」
真壁さんはそう言うとぺこりとお辞儀をして部室から出ていったがドアの敷居に足を引っ掛けて転び、起き上がって一礼をしてから足早に去っていった。
「次はわたしやね。先ずは挨拶、吾妻くんらに迷惑かけた手前言うのもナンだけど、ココの1年としてよろしく。それとキミ、高屋に何でもお願いできる権の事忘れとるやろ?」
お願いできる権と聞きふと彼女の連れの礼儀正しいお兄さんから名刺を貰ったことを思い出す。
「ああ見えてもヤツ業界人やからわたしの代わりにナンなりと無理難題ふっかてええよ」
「ほな、邪魔者は帰りますかね? 部長さんお茶ごちそうさん」
「ああ、キミも世俗が煩わしくなったらまた来るといい。歓迎するよ」
阿賀野さんはそういうと部屋から去ってしまった。
「さて、残るはキミたちだな」
「改めてようこそ、サバイバルゲーム研究部会に」
部長は芝居がかった声で長岡と藤原を歓迎する。考えてみれば僕のときもこんな感じだったな。
「さて、話したとおり長岡くんはFPSを嗜んでいるとのことだがウチに入らずとも是非サバゲーをやってほしい、勿論藤原くんも歓迎しよう」
「本来ならここでエアガンに触れてもらいたいのだが君たちは今日吾妻くんに用事があったのではないかな?」
「長岡はパイセンが虐められてないってわかったからひーまー。部長さん彼女ちゃん付き合ってー」
「いい子だねぇ、じゃあわたしが特別な稽古をツケてやろう。君も来なさい」
「え、あ、ハイっス」
長岡が既に部長や後藤さんになついていたので僕は藤原の漫画を読む事にする。
「シイちゃんも読んでいい?」
「どうぞ」
僕とシイちゃんは藤原からタブレットを借りて読む。
話の内容は自殺を志した少年が仕事をサボりたい死神と世界の果てまで逃げるという内容だ。死神がクルマを用意し南の果まで逃げて女の子と出会う。王道ながらも藤原らしさが絵柄やキャラクターの言い回しから出ているしオチもキレイにまとまってる。
シイちゃんと読んでから、藤原に断りを入れてからみんなに回す。
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わたしは吾妻の後輩の長岡と一緒にカーテンで遮られていた部室内のシューティングレンジにいた。丸さんは機材を取りに行くと言っい出ていったきりだ。
「あのさー」
長岡がわたしに話しかけてくる。
「パイセンとどこまで行ったん?」
「ふえっ?」
長岡の急な質問に戸惑う。目の前の意地悪そうな顔はいたずらにわたしのことを伺う。戸惑いはしたが迷うことも偽ることもなくわたしは答える。
「手を繋いで寝た位」
「ひゅー、やるぅ! 姉御と呼ばせてくだせぇ」
本気なのか冗談なのか彼女はわたしに懐く。
「実はここだけの話パイセンってケツの形めっちゃいいんですよ」
「ふえっ?」
「マジで揉みごたえ、叩きごたえのあるいいケツでして」
長岡は嫌らしい指の動きをする。
「彼のお尻けっこういいよね?」
ゴーグルをかけた丸さんが機材を抱えながらレンジに入ってくる。
「あ、わかるー?」
「男の子の尻はよく見てるからわかるよー」
丸さんはてきぱきと作業を行い、わたしと長岡にゴーグルを渡す。長岡にゴーグルを付けるように促し2人共ゴーグルをかける。
「君は高校生だからこれね」
部長は見たことのない紙箱から小型拳銃を出す、見た感じAMTバックアップらしいが大きさが一回り大きいのとセフティがついている。
「もしかしてMARUの?」
そのエアガンに見覚えがあった。前日にタクさんからパンフレットを貰って一通り読んだMARUってエアガンメーカーのエアガンだ。
「よくわかったね」
部長はマガジンにガスを注入してBBローダーで装填をして長岡に銃を渡した。
長岡は綺麗なウィーバースタンスを構え、一発で的に当てる。パンフレットに書いてあったとおりブローバックはしないフィクスドガンであった。
「やるねぇ……」
そこから1マガジン全弾を必中させる。
「あー」
長岡は銃をボードの上に置いた。しばらく考え込んでから目を輝かせて言う。
「これ、めっっつちゃ楽しい!」
「パイセンこんな楽しい事やってたなんてズルい!」
「藤原、漫画見せてる場合じゃない!」
長岡はそのまま外に出ていった、なんというか感情の忙しい子だ。
「ここまで喜んでもらえると嬉しいね、君も撃ちたまえよ」
部長はガスと弾を装填した銃をわたしに渡す。サイトはこのテの安物銃によくある溝形のノッチサイトでアジャスト機能は当然ない。
長岡と同じく両手で構えて撃つ、側面からだとわからなかったが後ろから見ると狂的なまでに真っ直ぐ弾が飛ぶ。この小ささでかつ10歳以上用のパワーでありながら15メートル先でも当てられる銃だ。
「弾道めっちゃシャープっスね」
「よく見てるね、ここまで極めるのに苦労したよ」
「これ、この仕様で売るんスか?」
「その予定だ」
「個人的な意見述べても?」
「どうぞ」
わたしは意を決し部長に言う。
「これ、精度下げるべきっス」
「エアガンとしての性能は確かにいいんスよ、だけど仮に子供が小遣い出して買う玩具とするとその性能の良さが足かせになるかもしれないっス」
「ほう」
「値段税込み3,850円って書いてありましたけど、この性能でこの値段は外装のチャチさとかを差し引いても絶対需要があるんスよ。子供の小遣いで買えるような値段だからこそ大人が買い漁る可能性もあるしこれベースにカスタムガン売る店や転売目的のバイヤーも群がると思うっス。つまり元の顧客層である子供が買えなくなってしまうんスよ」
「さらに言えば種類が色違い除いて20種類以上ある都合上、再生産するにしても一苦労すると思うんスよ」
「なるほど」
そこまで喋って「しまった」と思った、出過ぎた真似をしてしまったのだ。
「すっげー、プロみたい」
顔を出してる長岡がわたしの事を褒める。
「じゃあ君ならどうする?」
丸さんに聞かれて少し思案する。
「この精度で撃てるなら18歳以上用のフルサイズのハンドガンにします、それでいてドレスアップパーツやオプションは既存のパーツから流用できる様にします」
「さらに言えば、これの発売日か発売前に発表して完全な棲み分けをさせます」
「A+をあげよう。よく自分だけでそこまでたどり着いたね、前半はわたしも同じ意見だったが後半はいいアイデアだ採用させてもらう」
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あれから長岡は電動、エアーコッキング等を撃たせてもらい藤原もMARUのハンドガンを撃たせて貰った、藤原は偕成シイとジブリールから漫画へのアドバイスを受けた。
「パイセン、イジメられてなくてよかったねー。彼女さんも部長さんもみんないい人っぽかったし」
長岡はバス停のベンチでスマホを弄りながら藤原に言う。
「おまえさ、よかったの?」
「よかったんじゃないかな? 長岡としてはパイセンが笑顔なのが一番だし、彼女さんも長岡センサー的には普通じゃないけどいい人っぽかったし」
この傍若無人の代名詞ともいえる長岡京が吾妻に好意を持っていてそれをある程度自制していた事を。あくまで先輩と後輩、一つ違いの友人として付き合っていた事を藤原は知っていた。
「ごめん、ちょっと辛いわ」
「しゃーない」
藤原はベンチに座り長岡の手を握り肩を貸しつつ、全てを見ないことにした。隣では多分長岡が涙を流しているであろう。
「あすかちん、ありがと」
長岡は立ち上がって藤原に言う。
「よし、サバゲーしよう!」
そこにはすでにいつもの長岡が立っていた。
今週のエアガン
サバイバルゲーム趣味とエアガン趣味
一般的にはサバイバルゲーム趣味とエアガン趣味は同一視されている、しかし正確に言うと違う部分もある。
サバゲー、サバイバルゲームというのはエアガンを用いた銃撃戦ごっこで、ルールやレギュレーションの元で遊ぶものである。
屋外、室内問わず相手の殲滅か勝利を目指して戦うスポーツあるいはコスプレ大会である。
エアガン趣味というのはサバイバルゲーム以外にもモデルガンの代替としてのエアガンの収集、ブリンキングやシューティングレンジでの射撃、射撃競技等も含め、それ以外でも部屋で装備を整えたりする事や鏡の前でエアガンをかっこよく構える、エアガンの改造のみもエアガン趣味である。
主に銃器を収集したり模型を触り理解をしたり愛でるインドア趣味である。
筆者の考えるサバイバルゲームとエアガン趣味の決定的な違いは相手に銃を向けるか否かという部分であると思う。