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Day by Day Act.2

「……とまぁ、県警本部から苦情が来てるんだよね」


 休み明けの火曜日の朝一番に呼び出しをうけた吾妻巡査の前には渋い顔をした課長がいた。

 日曜の深夜に県警特務遊撃隊と悶着を起こしたため出勤早々に呼ばれたのであった。


「とはいえ君のパトの映像見た限りだと、君には非がないのはわかってるし僕個人的には県警特務遊撃隊にあまりいい印象もないんだよね」

「ここからは業務指示なんだけど。君には刑事課の特捜班(・・・)に出向いてある捜査に従事してもらいたい」


「ある捜査?」


例の(・・)エアガン事件の捜査、刑事課の方でも人手不足らしくてエアガン事件の捜査に手が回らないらしいんだ。降格人事って事になってるけど給与やキャリアには響かない異動になってるから」


 吾妻巡査は課長から話を聞き「お世話になりました」と挨拶をしてから特捜班のドアを叩く。


「やあ、いらっしゃい」


 そこには強面の大男が書類仕事をしていた。


「そこ座っててよ、お茶用意してくるから」


 吾妻巡査は応接セットに座る。部屋の中は同じ署内でありながら公的機関特有の殺風景さはなく何となくあたたかみがある。

 大男は可愛らしい茶器や皿でもって吾妻巡査をもてなす。


「自己紹介が遅れたね。刑事課の藤原巌だ、階級は巡査長」


「地域課……いえ本日付で配属となりましたの吾妻真弓巡査です」


「それで単刀直入に言うけれどもしばらくは戦争ゴッコに精をだしてもらいたい」


「戦争ゴッコですか?」


「そ、戦争ゴッコ」


――――――――――――――――――――――――


 加藤は火曜日の昼に里見を呼び出し、新歓での出来事を問い詰める。


「ええ、新歓での事はマネージャー(真壁)に一任してます」


「オマエ、キタねぇな」


 加藤は里見が白々しい嘘をついて真壁に責任を被せようとしている事を即座に見抜く。そもそも真壁は真壁で自己主張しない方だし里見やヒーローズにも色々と良くない前歴や噂がある。

 加藤は吾妻が里見自身から「来るな」と言われた事を伝えた。


「その証拠(・・)は? 僕ら動画配信(チューバー)してるんでそういった逆恨み(・・・)とか多いんですよね」


 あくまでシラを切る里見に対し加藤はため息をついてからサングラスを外す。


「俺はそういう誰がやったかとか言った言ってないってのはどーでもいいんだよ。俺はサバゲー部として吾妻を(・・・)弾いたかどうか聞いてんだよ!」


 加藤が凄みながら里見に詰め寄る。余裕ぶっていた里見も、年齢も体躯もサバゲーマーとしての格も上の加藤に凄まれたじろぐ。


「あんま舐めた真似やってっと、信用無くす前に俺が潰すぞ。わかったな?」

「返事ぃ!」


 加藤に恫喝され里見は返事を返す。


――――――――――――――――――――――――


 昼休みに新堂さんにサバゲー部の部室へ呼ばれ、謝罪を受けた。新堂さんはいつもみたいなTシャツにジーパンみたいなラフな格好でなくパンツスーツ姿であった。

 サバゲー部に入れなかったのは残念だし新歓での出来事は今でも記憶に残って腹が立つが、サバイバルゲーム研究部会に入れたのは良かったしそこにいたからこそ会えた人たちもいる。

 何よりも説明を受けて気がついたのが、話を聞いてるに多分新堂さんに落ち度というのは無い。


「顔を上げてください、謝罪は受け入れます。今後共にいい関係でいたいのでよろしくおねがいします」


 新堂さんにそう言い、部屋を退出する。

 部室を後にしようとすると知った顔とバッタリ遭う。


「あ、若宮(・・)くん」


「ゲッ……吾妻」


 髪の毛を半分白色に染めていてピアスも開けているが間違いない若宮くんだ。

 

「若宮くんもサバゲーやってるんだ」


「あ、うん……」


 僅か数カ月ぶりとはいえ若宮くんとこんな場所で出会えるのは嬉しかった。

 若宮くんというのは僕の高校時代のクラスメイトの一人で僕と同じ大学に入ったとは他人づてに聞いていたがサバゲーをやっているとは思ってなかった。


「僕、ちょっと忙しいから」


「あ、うん。またね」


 僕は嫌な気分から一転晴れやかな気分でサバゲー部を後にする。


――――――――――――――――――――――――


 ツバサは嫌な思いをしながらサバゲー部の会議室に入る。会議室はこの時間、真壁がヒーローズのために抑えていてくれたのだ。


「ユキさんは?」


「なんかカトちゃんに呼ばれた」


 遥斗がだらけながら説明をする。苛立ったツバサはどんくさい真壁を「どけよ、ブス」と恫喝し椅子の座面に足を立てて三角座りをする。

 今いる面子はヒーローズの顔と呼ばれてる陸奥遥斗と若宮ツバサ、マネージャーの真壁まり、それ以外にK2をはじめとした何名かがいる。里見ユキオも参加者なのだが直前に加藤拓郎に呼ばれ退席した。

 ツバサはこの会議自体はどうでもいいくだらない会議だと思っているむしろ会議の内容よりも吾妻の事が頭の中を占める。たまたまバッタリ遭ったのは良くなかった、そもそもツバサが吾妻を嫌う理由というのは多くあり一つを除いたほとんどが劣等感(コンプレックス)という言葉で片付く。学業では覆せない位の差がある、ツバサも吾妻も人気者とは言えなかったが吾妻には自分の世界があった。

 発狂しそうになったツバサはポケットの中をまさぐりアレ(・・)の存在を確認する、性能は河原での実射で確かめ十分以上の威力を発揮した。それはツバサに対して長らく感じなかったある種の愉悦感、安心感を与えた。

 ツバサはふとこれを人に対して撃ってみたい、具体的には吾妻を害したい衝動に駆られる。そうなれば後は決まったも当然だ。金を積めばやってくれる奴は両手で数えきれないほどはいる。大金だろうがツバサにとっては端金だ。


「じゃあ、そーいうわけで時間もおしてるので解散って事で、ユキには俺の方から伝えとく」


 進行役をやっていた遥斗が皆に解散を告げる。ツバサは大勢に交じり会議室を出る。


――――――――――――――――――――――――


「前回の会議で最初に弾かれた彼いるじゃん」


 遥斗は会議室の椅子を前後逆にして遊びながら部屋の片付けをしている真壁に聞いた。


「彼、個人的にちょっと気になるんだよねー」


「はぁ……」


「サバゲーに赤揃いなんて酔狂じゃん。そーいうの俺嫌いじゃないんだよね」


「その……たしか里見さんが新歓で弾いちゃったんで印象最悪だと思うんですけど……」


「え、俺その話聞いてないんだけど」


 真壁は困ったように目配せをする。


「まぁいいや。俺は彼に会ってないし、それにヒーローズの名前伏せておけば大丈夫っしょ?」

「って事でなんとかセッティング頼むよー、お願い、お願い♡」


 遥斗に珍しく拝み倒され、真壁は仕方なく「善処します」と答える。

 一応吾妻のアドレスは知っていたし真壁は絵図を組む(・・・・・)のが得意であった。


――――――――――――――――――――――――


 火曜日は昨日やったことの復習、レジの打ち方、包装やバンドがけのやり方等基本的な事から、インチとミリの違い、時計回り反時計回りの簡単な調べ方、銃の大体の長さから調べるガンケースの選び方、ウェアの日本サイズと米国サイズと国際基準の換算方法、効率のいいオプションパーツの売り込み方、用途別のオススメの工具類、初心者向けのエアガンの選び方等店員だからこその部分も教えてもらった。

 仕事終わりに僕はショップの中を見て回るため竹内さんとは更衣室前で別れる。


「まーどかちゃん」


「げっ」


 何故か姉ちゃんが売り場にいて大声で呼ばれる。為す術もなく捕まってしまう。


「円ちゃんもモデルガン(・・・・・・)買いに来たの?」


エアガン(・・・・)ね、ここでバイトしてるの」


 姉ちゃんが少し考えて「ああ、ここか」と納得したように言う。


「んでなんで姉ちゃんここ来てんのよ?」


「職場でサバゲーやるから、銃とか欲しくて」


 姉ちゃんはあっけらかんと答える。


「んで、円ちゃんここでバイトしてんだよね? じゃあ、専門家としてお姉様が銃買うの一緒についていなさい」


 早く帰って午後ローを見たかったのだが仕方ない、ニコラス・ケイジとジャレッド・レト兄弟は少し後回しにして姉ちゃんに付き合うことにした。


「予算は?」


「全部込みで10万位は出せるかな」


 その値段に頭がくらついた、流石社会人。


「どの銃がいいとか決まってる?」


「いんや、全然。あ、でも円ちゃんがいつも(・・・)構えてる(・・・・)あのけん銃欲しいな」


「もしかして……見てた?」


「ちょろっとふすま開けても気づかない位円くん集中してるからからお姉さん見惚れちゃって、見惚れちゃって」


 僕は顔を赤らめる。あのイメージトレーニング見られてたのは正直恥ずかしい。

 姉ちゃんにせつかれ、商品の案内をする。装備一式の時は銃から選ぶのではなくそれ以外から選ぶのが定石なのだそうだ。


「先ずはゴーグル、出来ればフルフェイスタイプがいいよね」

「ガンケースも忘れたらいけないけど銃のサイズに合わせるから後回し」

「マーカーは入れるとして。姉ちゃんウェアはどうすんの?」


「初心者なのでしばらくは私服でやります」


「後回しと」


 テツ兄や加藤さんに教えてもらった事を先ず一通り済ませる。こう言うのもナンだが他人のお金で買い物するのは楽しい。


「あ、でも靴と手袋はここじゃなくてもいいからいいの買っておいてね。それと服は長袖長ズボンね」


「うい」


「次、銃いこうか」


 姉ちゃんを連れて銃売り場に向かい、先ず僕が持ってるM92を探し値段を計算しておく。ちなみに東京マルイのM9系はグリップのネジの形で新型旧型の区別がつく、マイナスが旧型で六角ネジが新型だ。僕のタクティカルマスターは旧型だが姉ちゃんには新型を勧めておく。


「ライフルどうすんの?」


「え、ライフルも必要?」


 僕はこれまでの事を思い返し「割りとあったほうがいい」と答える。


「ライフルとか長物でなんか思い当たる銃は?」


「ターミネーターのショットガン?」


「1? それとも2?」


「無印」


「じゃあ、スパスだね」


 そこから頭の中で計算していく。


「税込みで計52800円。ここからベレッタ用のガスとBB弾を含めて55000円位かな?」


「流石、人間計算機」


「おう吾妻、まだ帰ってなかったのか。そちらの方は?」


 お客さんの対応が終わったらしい加藤さんに呼ばれる。


「こいつの姉です」

「うちの姉です」


「どうも、デッカーズの加藤です。サバゲーで相談事とかございましたら何なりとお申し付けください」


「あー、じゃあ。円くんに装備の見繕いしてもらったんだけど足りないもの何かある?」


 姉ちゃんはいつのまにか取っていたメモを加藤さんに見せる。


「サバゲーデビューです?」


「まぁ、そんなトコ」


 加藤さんはしばらくメモを見た後、僕に話す。


「んー……おう、吾妻。教えたとおりで悪かぁねぇんだがよ、こーいう状況になったら絶対電動は入れておけ、な」


「電動ってそんなに違うんですか?」


「例えるなら電動とそれ以外の銃ってのはそれこそ自動小銃と拳銃位には違うんだわ、ガンマニアっていうんならいいんだがサバゲーやるとなると電動はほぼ必須(・・・・)なんだわ」


「なんかいいのある?」


 姉ちゃんが加藤さんに聞いた。


「M4、MP5系選んでおけば無難っちゃ無難ですよね。まぁ基本どれも実銃がベースなんで特に使いづらいとかはないんですが初心者向けとなると小さいのがいいですよね」


「円ちゃんは何使ってんの?」


「あそこにあるP90」


 壁にかけてあるP90を指差して言う。ただ僕が持っているタイプではなく上面にレイルとサプレッサーがついている違うタイプであった。


「じゃあ、それください」


「バッテリー周りもセットにすると、31000……あと、アレ使うなら照準器乗せるのをオススメします」


「なんか問題あるの?」


「アイアンサイトがあってない様なモンでしてとても見づらいんですわ」


「ナシで」


「わかりました……スパスはどうします?」


「それも買う」


「商品取ってくるんでレジ前でお待ち下さい」


 加藤さんはそう言ってからバックヤードに向かった。


――――――――――――――――――――――――


 わたしはバックヤードの監視モニタからレジ前にいる吾妻とその彼女を見ていた。休憩時間は過ぎているがその様子が目に入ってから釘付けになっていた。

 一言で言えば彼女に対して嫉妬心を覚えた。あんな雑なボディタッチを許してる吾妻にもムカついている。もっと、こう……わたしの吾妻には優しく触って欲しい。


「おう、こんなトコでサボりか?」


 振り返るとマツケンがいた。わたしは平常心で返す。


「あー、そんなトコ。どったの?」


仕事(・・)さ、オマエも行った行った」


 マツケンに追い返され仕方なく売り場に戻るが仕事が手につかないので体調不良を理由に早引きして寝込む。夢の中で吾妻とその彼女にバカにされて目が覚めてから少しだけ泣いた。


――――――――――――――――――――――――


 翌日、1限目の授業を終えるとわたしはシイちゃんに呼び止められた。


「後藤ちゃん、すごいひどい顔してるの。なにかあったの?」


 シイちゃんの顔を見たわたしは急に泣きたくなって、泣きながらシイちゃんに昨日あった事を全て話した。途中で嗚咽したり悲しくなって話が止まったりして10分ぐらい話した。


「よしよし、辛かったのねー」


 シイちゃんはわたしの肩を持って頭をいいこいいこしてくれる。わたしは抑えていた悲しみが溢れてきた。


「聞いていて思ったんだけれども、もし吾妻くんが浮気したとして、わざわざ後藤ちゃんにバレる様な事しないと思うの」


「どゆこと?」


「見せつける性癖があるなら別なんだけど、後藤ちゃんはカメラ越し(・・・・・)にしか見てないんでしょ? だったら見せつける性癖のセンはないの。それに吾妻くんは頭が悪くないから浮気していたとして後藤ちゃんとバッティングするような事しないと思うの」

「それに見ちゃったのだから仕方ないとしてももう少し吾妻くんの事を信頼してもいいの、多分吾妻くんは後藤ちゃんの事が好きだと思うよ」


 わたしは途端に勝手に嫉妬して陰気になっていた自分を恥じた。何より吾妻を信頼していない事が一番の恥であった、シイちゃんの言う通り吾妻は頭もいいし何よりわたしに対して誠実であった。


「っていうか吾妻くんそんなにとっかえひっかえ女の子集められないと思うの。例えば、後藤ちゃんの身の回りのイケメンを想像してほしいの」


 なんとなくマツケンを想像してしまって悔しいが、マツケン以外が想像つかないのでとりあえずマツケンで代用する。


「その人と吾妻くんがナンパ対決したとして吾妻くんはほぼ勝てないと思うの」


 真面目にナンパしている吾妻とマツケンを想像すると少しおかしかった。


「お、シイちゃんと後藤ちゃんなにやってんの?」


 目の前を田所サンが通りかかりわたしの隣に座る。


「あ、うん。雑談なの」


「部室行くんだけど一緒に行かない、後藤ちゃんも」

今週の週マガ



エアソフトガンとモデルガンの違い


一般的にどちらも遊戯銃であるが、決定的な違いとして弾が撃てるか否かという部分がある。

エアソフトガンとは基本的に弾を撃てる遊戯銃で、広義の意味であればスポンジ弾を発射するナーフやBB弾を使う際のスリングショット、輪ゴム銃、水鉄砲等もその範疇に入る。

10歳以上用と18歳以上用(10禁、18禁)の違いはリアルさではなく発射されるBB弾の威力である。10歳以上用は0.135J以下、18歳以上用は0.989J以下である。

モデルガンとは弾薬を発射しない拳銃の模型で、火薬や手動等によって薬莢が発射されるものからライターとして使えるもの等から、広義の意味であれば無可動実銃や映画に出てくるプロップガン等がある。

モデルガンはエアガンと違い10歳以上用、18歳以上用等の区分はないが弾を発射出来ないように銃口に金属板がはめ込まれていたり拳銃型で金属製の物は法規制で金色になっていたりする。

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