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Bad Motherfucker Act.2

 夜の帳、桃色や紫色、赤、青、黄色に光るLED或いはネオン、でなければクリプトン球の山。幹線道路を少し外れ山道へ入る途中にそのラブホテルはあった。

 そのホテルに一台のクラウンが停まっていた。

 他にも様々な車両が中で停まっているが目の前をキャノピー付きのハイラックスが塞いでいるのはそのクラウンの前だけであった。

 ハイラックスには後部座席に少年が1人身をかがめて乗っているだけだ、アイドリングしていて発進できるようにキーに鍵をつけている、ハイラックスの車内からは90年代西海岸ヒップホップが延々と流れていた、ただ少年はその音楽に聞き入る事なく辺り一面を警戒する。右手にはスマホを、利き手である左にはデザートイーグルが握られている、実銃であれば多少は様になるかもしれないがそれはエアガンであった。

 ホテルに入ってきたミニバンに少年は注目する、ミニバンに乗ったカップルは察したのか或いは何も考えてないのか一番手前に頭から入る。

 少年はほっとして銃を握ってる左手を緩めスマホを置く。

 右手でポケットにあったプレイヤー機を動かしSの行のSNOOPDOGからSmif-n-Wessunへ動かし選曲する。

 その瞬間、右手に握ってたスマホが鳴る。少年は片手で器用に操作し応答する。


『撤収』


「なにかやる?」


『スヌープは飽きたから、いいトラックお願い』


「うん」


 少年は慌ててOnyxの項目から曲を選んだ。

 それと同時刻にホテルの専用入り口からスキンヘッドの大男、フードジャケットの男、サングラスとカラスマスクで顔を隠した男、それらの中央にいる全裸の男と少女の5名が現れる。

 スキンヘッドの大男、フードジャケットの男、カラスマスクで顔を隠した男の3人は似たような黄色を基調としたヒップホップスタイルの服装を着ている。いわゆる(ヤカラ)という人種だ。

 その中で異質なのは後部座席の少年と少女と真ん中の男であった。

 後部座席の少年は赤い袖あまりの長めのジャケット、下はジーパンと安全靴、ジャケットの下にはデザートイーグル用のホルスターが隠されている。他の3人と違う点は黄色ではなく赤を基調としているところだ。

 少女は都心の進学校ブレザー制服を着ている、色味自体は合わせてあるがブレザーとスカート、胸元のリボン、バッグに至る全て別の学校のであった。

 一番ひどい格好の男はほぼパンツ一丁な上に、タイラップで手を縛られていて顔にはかなりの殴打痕と鼻や口から流血があった。

 男は前の輩のスキを盗んで逃げようとする、成功したかに見えたがハイラックスのドアが勢いよく開いて男の鼻先をぶつ、少年が勢いよく降りてデザートイーグルの台尻で男の頭を殴りつけ、コッキングをし撃とうとする。


「待った」


 少女がそれを止め、横になって倒れた男の前に屈む。


「逃げたいの?」


 男は首を縦に振る。

 少女は少年の手からデザートイーグルを男の手に握らせ、優しく立たせる。


「わたしを殺せばすぐにでも逃げれるよ?」


 男は少女の甘い吐息と囁き、指先からの柔らかい触感に抵抗すらせずへたり込む。男にとって少女を殺すという選択肢はもうなかった。自己保身なのかもしれないし仮初とはいえ少女に身体を重ね愛を感じたのかもしれない、単にもっとご褒美(・・・)が欲しいだけかもしれない。しかし少女の方は男を籠絡し脅迫しそして洗脳した。

 ギャング達が無抵抗な男を囲み転がしてハイラックスのキャノピー付きの荷台に放り込んでからトノカバーを閉めて南京錠を掛ける。

 同時にフードジャケット男が少女から鍵を貰いクラウンに乗り、ドラレコのSDカードを抜き違法な装置を使いGPSと盗難追跡装置を無効化させる。

 ハイラックスとクラウンは同時にホテルを出た、ハイラックスはクラウンを先導するように峠道を抜けていく、ハイラックスの中の面々はそれを不信に思う事なくクルマの中でどんちゃん騒ぎを行う。

 否、どんちゃん騒ぎをしているのは前2人だけで後ろの少女は不敵な笑みを浮かべ少年の肩を抱き少年は落ち着きなくそわそわしている。

 峠道から産業道路に渡り旧区画の一角にある倉庫の影にハイラックスは停まった。

 少年が最初に降りて辺りを観察してからギャング達が降りて、少女が降りる。


「はい、報酬」


 少女は男にSDカードを渡した。SDカードには男のあられもない痴態が動画、画像、音声、テキスト等に余すことなく詰まっている。男には生活はおろか婚約者や権力もあった、30手前で新型のクラウンを買って維持できる財力もあった。もっともそれらはこれから奪われる。


「それとだエス、やらせる(・・・・)約束忘れちゃいねぇだろうな?」


 スキンヘッドはエス(・・)の尻を弄りながら凄む。太い指がエスの股ぐらをまさぐる。


「ああ、忘れてないよ。その前にその汚いの片付けてきてよ」


 エスはハイラックスを顎でしゃくり、男たちは股ぐらを熱くさせながらクルマを走らせる。

 エスはそれを手を振り見届ける、クルマが過度を曲がると少年が涙目になりながら抱きついてくる。


「ああ、嫉妬してたんだ。かわいいね」


 エスは少年の頭を母親のように愛おしくなでながらスマホである人物に電話していた。


――――――――――――――――――――――――


 ハイラックスとクラウンは旧区画を走行していた、すると路地からハッチバックのパトカーがサイレンを鳴らしてハイラックスを追跡する。


『そこのハイラックスのお兄さん、止まってくださいー』


 ハイラックスは停車する。パトカーの中から人懐っこそうな婦人警官が降りてきて「一時停止違反ですねー、あそこ見落としやすいんですよ、前のクラウンさんにつられちゃいましたか?」と説明しながら切符の準備をする。

 するとハッチバックのパトカーの後方から赤色灯が光る、3輌の覆面パトカーが現れ1輌はハイラックスの手前に、もう2輌はパトカーの後ろに停車する。前後2輌は車種不明の黒色のセダンだが格納式のパトランプが展開している事から覆面捜査車両であり残りの1輌も同じく黒色の車種不明のSUVであった、普通の覆面車両にあるメーカーエンブレムやグレードエンブレムすら無い。


「どけ!」


 隊長らしきコートの男が婦人警官を投げ飛ばす、婦人警官は状況を察しパトカーから慌てて出てきた相棒の警官に支えられる。

 前の覆面から2名、後ろの2輌の覆面から6名の計8名の男たちがハイラックスを囲む。

 キャップとツナギの男が運転席の鍵穴に工具を押し付ける。


「解錠準備良し!」


「解錠」


「解錠!」


 小さめの爆発音と火薬の匂いが辺りに、婦人警官は驚きおののく。

 運転席から男が引きずり出され、警棒でタコ殴りにされ「確保!」と手錠がかけられる、助手席の大男にも手錠をかけられる。


「中にはいません!」


「トランクだ」


「解錠準備良し!」


「解錠」


「解錠!」


 キャップの男が工具を作動させる。


「いました!」


「保護急げ!」

「1台逃げられたか……おい、所轄! 何してくれてんだ!」


「一時停止違反をしましたので停車指示と違反切符の発行です」


 婦人警官は堂々と答える。


「こいつ等はな俺たちが追ってたヤマだったのによ」


「苦情等は署の方にお願いします」


「貴様、所属と官姓名を名乗れ」


「吾妻真弓、巡査です、手帳番号は……」


 吾妻と名乗った婦人警官は淡々と己の情報を開示していく。


「覚えたからな、撃1、撃2はクラウンの捜索。機材車は処理班が来るまで待機、お前らは帰れ!」


 謎の覆面パトカー達はそのまま夜の帳へと消えていった。

 謎の覆面パトカー軍団の正体は県警特務遊撃隊、とある出資者(スポンサー)鳴り物入りで本年度から編成された部隊で僅か数ヶ月ながらも既に多数の重犯罪者を検挙している。

 装備も出資者(スポンサー)から提供された特殊な物ばかりを使用し、代表例は謎の覆面パトカー、正確にはフォード・トーラスのポリスインターセプターの日本仕様がそれである。

 県警本部は特務遊撃隊の成果を評価する流れがある一方でその成り立ちの不明さや捜査や摘発の熾烈さ等を批判する動きもある。


――――――――――――――――――――――――


 2人は少年を先頭に倉庫街の中の裏道を通る、今頃連中は警察の世話になっているだろうとエスは考えていた、周りに誰もいない事を確認してからとある工場に入る。その中は可動していない旧式の工作機械ばかりで生きていない工場であるが半地下の事務室だけには電源と上下水道、インターネット環境が入ってるらしい。

 最も電源は変圧器から直に盗電していて水道はレンチで水道管を違法に開けただけに過ぎないがインターネット環境に関して言えば一般家庭で使われていない5GのポータブルWi-Fiが複数機置かれている。

 事務室に残っていたであろう机の上には様々な種類のスマートフォンが複数置かれていて一部に電源コードが繋がっている。

床に直置きされているダブルのベッドマットが敷かれていて枕元にはコンドームの箱があり、ゴミ箱にはコンドームの空き箱や丸められたウエスや使い終わったコンドームが詰められている。

 給湯器と流し台がついている簡易的なキッチンには大型の冷蔵庫と電子レンジ、灰皿がある。

 少女は冷蔵庫を開けて紙巻きのタバコらしき物を一本取り出して開いてる机に座ってから一服する。


「ねえ、お姉ちゃん」


「残念ながらR指定の無い週マガではそれ(・・)を描写してはいけいんだ。そういう外伝はノクターンノベルズ辺りにでも任せよう」


「じゃあ一緒に寝よ?」


 少女は机の上であぐらをかいて暫く煙を肺に入れたり吐いたりする。新鮮な草の匂いが少年の鼻腔につき少女を脱力させ興奮させる。

 しばらくそうやった後に紙巻きを消し少年を抱え込み、泥にまみれる様に2人で横になる。


「優しい曲を流してくれる?」


「うん」


 少年は手元のアイポッドにイヤホンを付けてからgroup inouを流す、イヤホンは少女と片方ずつを共有する。

 少女は母の様に少年を抱き、少年は子の様に丸くなって安らかな眠りについた。

今週のエアガン



デザートイーグル.50AE

メーカー:不明


デザートイーグルはIMIが開発した実用的なマグナムオート拳銃である、マグナム弾を装填し発射することから銃は大型化されており頑丈な造りになっている。

このエアガンはグリップで人を殴っていたことからフレーム側はメタル、アルミやダイカスト合金みたいな強度の低いものではなくスチール削り出しやジュラルミン製と考えられる。

スライドもメタルであり、パワーも法規制を超えている、もちろんどちらも違法である。

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