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The Longest Day Act.3

 阿賀野さん達を見送り自分の席にもどる。

 新しいゲームはすでに始まっていて後藤さんだけ残っててくれたらしい。


「おつかれ」


 買っておいてくれたであろう缶コーヒーを僕に渡し、それを受け取る。普段は飲まないブラックなのに今日はやけに酸味と苦味が美味しく感じる。ぬるいが旨いコーヒーだ。

 空は青く、雲の流れもゆっくりとしている。遠くに鳴くセミに鳴き声に気づきようやく今が夏だと感じる。


「2人きりになるのってこれがはじめて?」


 後藤さんが聞く、考えれみれば新歓の時もデッカーズの時も周りに人がいた。

 

「そだね」


 そう答えると後藤さんが軽く寄りかかってくる。僕は甘い匂いと柔らかい重さを全身で感じ、心臓の鼓動を聴き、それが2つであることを感じた。

 この時間が続けばいいのにと思いフィールドから戻ってきた人が現れた辺りで後藤さんが「次の支度しよっか?」と言った、僕のサバゲーはこれからだ。夕方までたくさん遊ぶぞ。

 支度を終えて、皆といっしょにフィールドに入る。フィールドに入り次第空気が変わるのを肌で感じ取った。なんというか先ほどと違い活発かつ好戦的な感情がうずまいている。


「みんなさっきの吾妻くんの活躍見てたの」


 シイちゃんがこっそりと教えてくれた。なるほど、午前中は阿賀野さんが無双しててやる気を無くしていたのが阿賀野さんが帰ったから本来の戦意を取り戻したというところか。

 ブザーが鳴り戦場へと突入する。

 いざ、勝負!


――――――――――――――――――――――――


 夕刻になり、かなりの充足感を得ていた。


「負けた負けた、見事に負けた」


 今回のヒット数は阿賀野さんのを含めて5回、被ヒットは無数、フラッグは1回とれた。

 程よい混戦でストレスなく負けれた、負けもまた楽しいのがサバゲーなのだなと思った。

 阿賀野さんとの戦闘以外だとジャガーノートさん含めた4人の軽機関銃の弾幕援護の元でフラッグまで直進できたのが一番の戦果であった、それ以外にも積極的にフラッグを取りに行くがその1回だけ取れた。

 ただ一番良かったのはサバゲーマーの知り合いが増えたのと情報を色々と教えてもらった事だ、念の為にノートと筆箱を持ってきていてよかった。


「お、いた。赤い彗星くんー」


 帰る支度をしていたら、カメラを持った人達に囲まれる。


「今日のMVPだから一緒に写真を撮ろうよ」


「皆さんも……ご一緒に」


 向かってみると駐車場の空きスペースにハンヴィーとハイラックスが並んで停まっていてそこに大勢が並んでいた。

 端っこに並ぼうとすると「綺麗所と戦功者は真ん中や!」と言われてしまいみんなで真ん中に固まる。


「もっと端っこ詰めて」


「端っこ収まらんならハンヴィーの上乗ってええよ」


「テクニカルは荷台だけにしてくれよなー」


「暴発気をつけぇや」


 皆それぞれ銃をもって撮影に挑む、僕はタクティカルマスターをレディポジションにしてP90をカメラに向けたポーズをとる。両方ともトリガーに指をかけない。

 そうしてから一眼レフと三脚を持ってるおじさんがセルフタイマーで写真を撮り、データをスマホに移す。


「エアドロで上げますので……アンドロの人はアイホンの人から各自貰ってください」


 ウチのチームはシイちゃん、ヨウちゃん、新堂さん、後藤さんがアイフォンを持っていて。僕は後藤さんから写真を貰った。かなり人数がいるが中央なのと赤いジャケットのおかげですぐに見つけられる。

 写真は中々壮観で100名近くにもなる雄姿がそこに写っている、西側の銃もあれば東側の銃もありグレネードランチャー両手持ちの人もいればボルトアクションライフルの人もいて軍装もあればロンTとキャップもある。まさに千差万別で誰もが個性的だ。


「あ、シイちゃん半目なの!」


 シイちゃんが真っ赤な顔をして悲鳴を上げる。

 各自片付けに戻り順次撤収をする。

 後藤さんの車でフィールドから撤収する。帰りの車内では充足感か疲れからか2人共無口だった。

 しばらく走ると渋滞に巻き込まれる。どうやら結構長いらしい。


「渋滞捕まったねー」


「ねー」


 しばらく雑談を行う、今日のサバゲーや珍しい銃をもっていた人の話、阿賀野さんの事話す。話に詰まってしばらくの沈黙の後に後藤さんが僕の手を握ってきた。僕はそのいきなりさと冷たい触感にドキッとした。

 後藤さんの方を向く、顔と顔が近い。シートベルト座席から乗り出して僕に迫ってくる。


「ま、前見ないと危ないよ」


「どうせしばらく動かない」


 後藤さんの唇が僕の目の前にくる。あとは僕の選択だけだ。


『ビビビビビ!』

『♪~』


 二人で慌てて顔をぶつけてしまった。

 スマホを見てみるとヨウちゃんからであった。


「吾妻です」


『あ、吾妻くん? 多分今渋滞に捕まってると思うんだけど、みんなでお風呂行くって話になってるけど一緒に来る?』


「えーと、ちょっと後藤さんと話してみます」


『場所はなごむ湯って場所で地図は送ったからよろしくねー』


 後藤さんの方もちょうど話が終わり、しばらくスマホをいじっている。


「そっちの要件は?」


「ヨウちゃんからなごむ湯って温泉センターで一緒にお風呂にしないかって話だけどそっちは?」


「新堂サンからなごむ湯にいかないかって話」


 どうやら同じ話を聞いていたらしい。

 車をUターンさせなごむ湯へと向かう。

 道中で気まずくなったのか「さっきの話だけどさ……」と後藤さんが話を振ってきた。


「えっと、その……うん、ちょっと……恥ずかしかった……かな」


「あ、うん……そうだね」


「っていうか、いきなりアレ(・・)はないよねー。ゴメンね」


 ここでヒーローなら「今からでも続きをやる?」と聞き返すであろう、ただヒーローではない僕はそれが言えなかったし、今日一緒に遊んでお風呂に行くだけでも十分な結果であろう。

 来た道を戻りなごむ湯の看板を見つけ駐車場に入る、はじっこの方にヨウちゃんのベンツがありその隣に止める。


「来たわね」


 運転席側から新堂さんが覗き込む。


「あんた達()どうしたの?」


「え、あ……ナイショっス!」


「ま、そこまで酷い怪我じゃないし事故ってないなら何でもいいわ」

「それであんた達装備からバッテリー、ガスマガジン、ガス缶、BB弾を抜いて寄越しなさい」


「え、なんでっスか?」


「車に置いていたら夕方とはいえこの暑さで爆発(・・)するからよ。装備持ってお風呂に行くわけにもいかないでしょ?」


「どこに持っていくんスか?」


「クーラーボックス」


 僕と後藤さんは装備を持ち出し新堂さんについていく。

 新堂さんの車はヨウちゃんのベンツの隣に停めてあった白いワゴン車だ。

 後部トランクを開けると上下二段になっており、上段はガンケースや装備類が置いてあり下段には大型のクーラーボックスがあった、新堂さんがそこを開けるとマガジン、BB弾、ガス等がそれぞれの両端に置いてある。


「あんた達真ん中ね」


 新堂さんはてきぱきと僕たちの装備をしまっていく。


「ヨウちゃん達は?」


「もう入ってるわよ」


「え、新堂サンこんなクソ暑いなか待っててくれたんスか?」


「そうよ、感謝なさい。さらに言えばわたしここの優待持ってるから2人とも特別タダでいいわよ」


 外はじんわりと暑くすでに汗をかいていた。


――――――――――――――――――――――――


 僕は大浴場に入り、身体を洗ってから湯船に浸かる。水の音と水の動きと風呂の熱さが心地良い、疲れが抜けるとはこのことだ。

 これまでの事そして今日の事を思い出す。数カ月間に新歓から追い出され部長の仕事を手伝い、タクティカルマスターをもらい、その後にシイちゃんヨウちゃんタマちゃんと出会い、ウェアを買ってもらい、心ちゃんをはじめとした小学生や中学生の子たちと戦い、デッカーズでコンペを戦い、サバゲー部とジブリールとシャルロッテを賭けて戦い、テツ兄にP90を買ってもらい、トレーニング中に助言をもらい、部長が新たに出す銃にときめき、加藤さんとラーメンを食べ、デッカーズで働くことが決まり、阿賀野さんと決闘を行い、そしてここにいる。

 本当に本当に長かった。

 のぼせかけて壁にかかっている時計を見るとそこそこ過ぎていたので上がる事にした。服に着替える前にふと思い、自販機でコーヒー牛乳を買い全裸で独り祝杯を上げる。


――――――――――――――――――――――――-


「あんた、あのコとどういう関係なの?」


 脱衣場で新堂サンから聞かれる。


「え、ああ、彼氏っス」


 わたしは内心ドッキドキだった。未だに吾妻の彼女としての自覚がない。


「そう、良かったわね。見た感じだとあのコとあんたなんとなくいい感じだったし。バディとしてもいい動きしてたわ」


「あ、ありがとっス」


 新堂サンがシャツを脱ぐ、シャツの下には小ぶりのスイカかと思うぐらいのブツが2つ隠れていた。


「うわっ、でっか……」


「デカイだけでいいことあまり無いわよ、強いて言えば初対面で胸を見るか見ないかである程度男の質がわかるぐらいかしらね?」

「というか、あんたこそその身体なに?」


「身体?」


「なんでそんな腹筋バッキバキなの?」


 わたしはその時になってはじめて自分のミスに気づいた。普通の女の子はここまで腹筋が割れてないということに。


「あー、鍛えてまスからねー」


「鍛えてどうにかなる身体じゃないでしょ、なにボディビルでもやってんの?」


「やってねぇっスよあんな健康に悪いの」


 新堂サンの後について風呂へと向かう。勝手がわからない時は常識人のマネをしていればいいって鏡子サンが言っていた。


「今日はあたしが洗ったげるから」


「いいっスよ……」


「遠慮しないの! ホラ、背中向けなさい」


 新堂サンに押し切られ頭と身体を洗われる、他人にそういう事されるのってはじめてではじめは怖かったがかなり気持ちよく頭をワシャワシャされる頃には怖さよりも気持ちよさのほうが大きくなった。

 新堂サンと一緒に吾妻のチームメイト達を探す、外の風呂に全員で入っていた。


「おまたせ……アレ? 英は?」


「エリの連れのコ? シイちゃん見た?」


「見てないの」


「そう」

「っていうかあんた邪魔よ、奥に行きなさい、それと他の人のことも少しは考えなさい」


 新堂サンが足で田所サンを追い払う仕草をする。


「うっさいなー」


 確かに田所サンは出入り口に陣取っていていて邪魔であった。彼女は泳いでシイちゃん達の方へ向かう。


「泳ぐな、ガキか」


「ぶー」


「貴女達、ヨウみたいな常識ない先輩になってはいけないわよ」


「はいなのー」

「はい!」

「うい」


 後輩(わたし)達は返事をする。


「確認だけれどもヨウの隣はシイちゃんと……隣の貴女は?」


 シイちゃんの隣の子、髪の毛で顔が隠れてて地味だから今まで気づかなかったけどよくよく思い出してみると彼女、王子(ジブリール)の時の凄腕スナイパーだ。


「サカタです、よろしくおねがいします」


「サカタちゃんね。わたしは新堂、こっちの後輩の後藤よ」


「よろしくっス」

 

 わたしは新堂サンの隣に座り湯に浸かる。おっぱいってアレだけデカイと浮くのねと思いながら何も考えずにいたこれまでの事を雑談の隅っこに混じりながら思い返してみる。

 鏡子サンに拾われてから3ヶ月で泣きながら英語を叩き込まれ、その後にフォートスミスの民間軍事企業の訓練所で2年間昼はありとあらゆるシゴキを受け夜は受験勉強を行った。死ぬかと思ったがこれまでの人生の中で出来る事が増えていき一番充実していた時期だ、訓練所を出てシアトルで鏡子サンとマツケンと顔合わせをした時に辛気臭かったとかって理由で手品を見させられそれが妙にヘタクソで笑った。


「っていうかこの場だから聞くんだけど、どっちから告白したん。お姉さんに言ってみ?」


 田所サンがわたしの隣に来ていたずらそうに聞く。シイちゃんも店長ちゃんもあの新堂サンでさえ聞きたそうにしている。


「あー」


 こういうのって苦手だけれども仕方ない意を決し答える。


「吾妻の方から告白されました、ただモーションは少しかけました」


「すっごいの……」


「吾妻くんやるねぇ」


「それからは?」


 皆が驚くほど食い入ってくる。


「それだけっス……っていうかそもそも先週の話だし」

「っていうかわたしだけ話しててめっちゃ理不尽だし皆も話してほしいっス」

「じゃあ先ず田所サン」


「えー、しょうがないなー。1年……一昨年の今ぐらいに3回目位のサバゲー行ったのよ、そんときに変な男達に言い寄られてそれ助けてくれたのが先輩なんだよね」

「そこから猛アタックして1年の2月ぐらいにオーケー貰ったんだ」


「わたしよりよっぽどドラマ性あるじゃないっスかー。次、サカタちゃん」


「え、わたしっ!?」


 のほほんと聞いていたサカタちゃんが猫が驚いたように震え、うつむきながら話す。


「えーと、えーと……その、好きな人がいたんですけど……」


 サカタちゃんは赤面しながら「お風呂上がります」といいお風呂を上がり足早に去っていくががドアにぶつかり痛そうにしながら中へ入っていった。


「店長ちゃんは普段からわりとああいう感じだから気にしなくていいの」

「次、わたし? いないの。なんか文句ある?」


 シイちゃんの無言の圧力から新堂サンに話を振るしかなかった。


「いるわけないじゃない、サバゲーが彼氏よ」


「新堂ちゃんいいこと言うの、シイちゃんもそうなのー」


「じゃあとりあえず店長ちゃん回収しに行きますか?」


 皆で風呂を上がりサカタちゃんを探して回る。


「そういえばなんで店長ちゃん?」


 田所サンに店長ちゃん(・・・・・)の事を聞く。


「あのコ駅前のガンショップの店長なのよ」


「駅前にガンショップなんてあったかしら?」


「あるんですー」


 店長ちゃんは内風呂で大人しくしていたのでその回りに集まる。外と違い内風呂は熱く田所サンと新堂サンはジャグジーに座っり残りはその裏の湯に浸かる。


「っていうか後藤ちゃんお腹すごいの……なに、この……なに……」


 シイちゃんが腹筋をグイグイと押してくる。なんとなく触り方がいやらしくこそばゆい感じだ。


「ホントだ、すごい筋肉だね!」


 店長ちゃんは脇腹をグイグイ押してくる、こっちはこっちで力加減が強い。


「え、筋肉そんなにすごいの?」


 田所サンが後ろから聞いてくる。


「シイちゃんが生まれたてのひよこだとすると後藤ちゃんは狼なの」


「そりゃ確かにすごいね、特別にお姉さんが確かめてやろう」


 田所サンがジャグジーから上がり仕切りを跨ぎわたしの横にきて腹部を軽く押し込む。


「……すげぇな、ウチのママみたい」


 ヨウちゃんもマジマジとお腹を押し込む。マジでなんだこいつら。


――――――――――――――――――――――――


「ゴン太くん、ゴン太くん、250円と100円ちょーだいなのだ」


 お風呂から上がって後藤さん達を待ちながら休憩していると英さんが裾を引っ張ってお金を要求してきた。


「350円ってことでいいのかな?」


「そうなのだ、ソフトクリーム買ってメタスラ1クレやるのだ」


「あとで返してね」


「ハイなのだ」


 新堂さんの連れの子は350円を握って走っていった、前も思ったけど全体的に動きや行動が子供っぽい。

 そろそろお腹も空いてきたなぁと思い待っていると、後藤さん達が戻ってきた。


「吾妻くん英見た?」


 新堂さんに聞かれたので「今ソフトクリーム買いに行きましたよ」と食堂のもらい口の方を差す。丁度もらい終わった頃だったので新堂さんが連れ戻してくる。


「さてと、ここで、吾妻くんとシイちゃん、それと後藤と英にも謝っておかないといけないわね」

「今年の新歓の事なのだけれども、皆さんに不快な思いをさせて申し訳ありませんでした」


 新堂さんが急に頭を下げる、今年の新歓というと思い出したくもないがそこから全てがはじまったのだ。そこでふと疑問に思っていた事を聞く。


前々日(・・・)の夜中にメールが来て新歓の日程と場所がかわったって話があったと思うんですけれども」


「えっ、なにそれ?」


 新堂さんは驚いた顔で聞き返す。


「一応、不快な思いの部分を聞いても?」


「いきなりテロリスト現れた奴っスよね?」


 それはそれでちょっと楽しそうだと思った。ただ途中退出したもののテロリストは出ていない。


「そう、わたしが考えた演出だったけれども正直失敗だったわね」


「アレ、新堂サンが考えたんスか? ダメなサバゲーマーを新堂サンがダメな部分片っ端からしばき倒す部分はそこそこ良かったスよ? わかりやすかったし」


「ハジメちゃんもそれ見たのだ! 新堂ちゃんすっごくカッコよかったのだ」


「え、シイちゃんそれ知らないんですけど」


 つまり僕はテロリストが出ていない方、英さんと新堂さんは出ている方、後藤さんは両方に出ている。


「僕はヒーローズって人が仕切ってたんですけど」


「シイちゃんも吾妻くん追い返されるの見たの」


 進藤さんの顔がみるみる険しくなる。


「吾妻くん、こっちでそれ詳しく教えてもらってもいい?」


――――――――――――――――――――――――-


 やっべ、危なかった……

 わたしが両方(・・)に出ている事ひいては計画の一員である事は新堂サンやタクさんに知られるわけにはいかない事に喋ってから気づいた。

 連中がサバゲー部から吾妻やシイちゃんを引っこ抜いた理由はSNSアカウントのハッキングとロールバックの組み合わせ技だというのは事前に鏡子サンから教えてもらったが、誰がやったかはわからずわたしが情報収集のために出張っていたのだ、最もわたしは里見って嫌味なアゴヒゲだと見当をつけたのだがどうやら違ったらしく誰かわからずじまいだった。


「新堂ちゃんお顔こわいこわいなのだ……」


 新堂の連れが顔を青くしてソフトクリームを食べながら言う。


「そういえば君とエリの関係って?」


「えーと、えーと、毎日おべんとのサンドイッチ持ってきてくれるのだな。あと新堂ちゃんはハジメちゃんのためにおパンツくれたのだ!」


「んまっ!」


 シイちゃんが顔を赤らめる。


「ああ、エリは常に予備の下着(ボクサー)用意してんのよ」


「なぁんだ、シイちゃんちょっとびっくりしちゃったの」


「シイちゃんはうっかりさんなのだな」


 そっちはそっちでまとまってくれた。


「そうだ! 飲み物とおつまみ買ってこようよ」


 店長ちゃんが提案した、たしかに喉が乾いてきたし腹も減ってきた。


「どうせ今日車乗らないから、わたしビール!」


「じゃあシイちゃんはお酒以外の」


「ハジメちゃんはトマジューがいいのだ!」


「わたし一緒にいくっス」


「エリにもビールと吾妻くんにテキトーなの買っておいて」


 店長ちゃんと一緒に買い出し部隊に立候補した。


「そういえば後藤さんって吾妻くんのどこが好きになったの?」


 券売機で並ぶ途中で店長ちゃんに聞かれた。

 考えてみれば吾妻の事って何も知らないし、一応自分も乗り気であったがあくまで計画の一仕事としてこなしているにすぎない。


「んー、雰囲気が合いそうだから……かな?」


 鏡子サンから教えてもらった無難な回答を答えておく。個人的には店長ちゃんにも吾妻にも後ろめたいが、ふわっとした回答は相手の想像で補完されるためこういう時に便利だ。


「後藤ちゃんは何飲む?」


「じゃあ烏龍茶」


 こういう時も他人の真似をしておけと鏡子サンに教えてもらった。

 考えてみればわたしは空っぽだ、後藤という名前も本名ではないし偽りの身体と暗い記憶と後ろめたい仕事以外わたしにはなにもない事に再度気付かされれてしまった。


――――――――――――――――――――――――-


「なるほど、つまりヒーローズが主催という事ね」


 新堂さんに連れられ廊下のソファーで話をする、新堂さんに何故かお茶を押し付けられそれを飲みながら話ししている。


「ええ、それでアゴヒゲの里見さんでしたっけ? に、入部を辞めてもらいたいと言われまして……」


「ここから先は後日サバゲー部で話してもらえるかしら? この話はわたしの一存ではどうすることも出来ないし。お詫びとか釈明等もしないといけないし」


 たしかに今新堂さんに原因究明を求めるのはお門違いだし、多分というかほぼ絶対に新堂さんはこの件の被害者であろう。

 そうしてから立ち上がろうとすると新堂さんに肩を抑えられ座らされた。


「こっちが本題なのだけれども……後藤の事なんだけれども……」

「あのコ社交的に見えるけど意外と人見知りなトコあるからどうか仲良くしてやってね」


 新堂さんはにっこりと笑いながら僕に言った。

 そうしてから食事処に戻ると丁度食べ物や飲み物が来たところであった。食べ物は串カツ、フライドポテト、唐揚げ等のガッツリ系を中心にサラダや枝豆等もある。


「話終わった?」


「まぁね」


「ビール頼んでおいたから呑もうぜ」


「気が利くわね」


 着席すると隣の後藤さんが「烏龍茶とオレンジジュースどっちがいい?」と聞かれたので「烏龍茶」と答えた。


「では不肖、田所ヨウめが音頭を取りまして……かんぱーい」


 ヨウちゃんの音頭と共に乾杯が行われ、グラスが高い音を鳴らしてぶつかる。


「おつかれちゃーん」


 皆で宴をはじめる。新堂さんが小皿に取り分けたり、ヨウちゃんがケチャップこぼしまくったり、ヨウちゃんが椅子に登って叫び始めたり、ヨウちゃんが隣のおじさん達と仲良くなったり大騒ぎだ。


「ヨウちゃんって……」


「あら、気が付かなかった? あいつ、バカよ」


 新堂さんはさらっと答え、隣のおじさん達に謝ってヨウちゃんを連れて「ちょっと休ませに部屋へ行くからテキトーに過ごすこと」と言い、鍵を2本僕たちに渡してヨウちゃんを連れて行った。


「今日泊まりなんスか?」


「「どこも渋滞してるから帰るのは明日にするわ」って新堂ちゃんが言ってたのだな」


 英さんは新堂さんのよく似てるモノマネをしながら説明をする。


「わたしたちもそろそろ撤収するのー」


 シイちゃんは僕から鍵を1本貰って部屋へ向かう。

 そういって皆別れてしまった。

 僕と後藤さんは顔を見合わせて一本の鍵を見る。


「吾妻部屋使っていいよ!」


「後藤さんこそ部屋使いなよ」


「じゃあハジメちゃんがお部屋使うのだ!」


 ハジメちゃんが最後の1本を持っていってしまった。

 2人で笑いながらお互い隣同士のリクライニングチェアで休むという事になった。


「吾妻……」


「なに、後藤さん?」


 後藤さんは僕の手をぎゅっと握る。


「今はこれが精一杯」


 後藤さんはにっこりと笑い僕の手を握りながらソファーに沈んでいく。僕も後藤さん手を握りソファーに沈む。

今週のエアガン



サバイバルゲームと車


サバイバルゲームにおいて切っても切れない関係なのが車である。

理由はフィールドは大抵がかなり不便な場所にあり他の趣味よりもアイテム数が多いサバゲーマーは車移動が基本となる。

乗り合いの場合には運転手や車に敬意を表し、車内での飲食は控え、ゴミは持って帰り、場合によってはガソリン代や手付を出すのも辞さない勢いで乗り、サバゲーを楽しみ、降りる前に感謝を述べまた次回もあることを願い帰る。

また新堂が行っていたクーラーボックスにガスやバッテリーを入れるのは、停止した車内は太陽光や反射熱等で車内温度が上がりガス缶の破裂やバッテリーの異常変形、バイオBB弾の劣化などを引き起こしその対策として大型のクーラーボックスを積んでいてその中に入れている、キャンプ等でも有効な手段であるので覚えておいて損はないテクニックだ。

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