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Macho Man Act.2

 吾妻とその連れ合いが店に来ている。

 わたしはこの前の妄想を頭の隅っこに追いやって仕事に戻る。戻るが妄想がどんどん思考を侵略していく。


「よお」


 振り返るとそこに何故かタクさんがいた。いつもと違ってハーフミラーのサングラスを外していて何故かスーツを着込んでいる、顔や体躯、性格とくらべて目がつぶらすぎるので一瞬だけちょっと笑いそうになってしまった。

 ただその隣には帽子を被り赤レンズの丸眼鏡とジャングルハット、マントを羽織った怪人とも言えるような男が立っていて笑うよりも前に驚いてしまった。


「コイツは俺の個人的なツレだ。ナリは気にせんでくれ。んで、仕事の面接(・・・・・)の話を入れてある筈なんだが?」


「店長呼んでこようか?」


「そうしてくれ」


 わたしはナイジェルにマツケンを呼ぶように頼んで店番を続ける。そしてやはり吾妻のことを思っていた。


――――――――――――――――――――――――


オマエ(・・・)が言ってたのってリミットレス(・・・・・・)の加藤拓郎かよ」


 松岡は鉄眼(・・)に対して驚いた口調で言う。

 無理もない、加藤拓郎といえば界隈ではちょっとした有名人であるからだ。

 サバゲー部発展の立役者、カリスマガンショップ店員、サバゲー系の一流動画配信者(Tuber)にしてサバテレのレギュラー陣の一人、さらにはバレットウィークの開催にも大学や行政側の協賛を取り付ける等サバゲーに関して精力的な活動を行っている。


『そ、後は当事者同士(・・・・・)で話しつけてくれ』


 鉄眼はくぐもった声そう言うとバックヤードから退場した。


「ちょいと本題から話それますけど、松岡さんはリミットレス(・・・・・・)のお家騒動って知ってますか?」


「一応は知ってるつもりだ」


「俺、それで弾かれた(・・・・)側でしてね……」


 リミットレスのお家騒動について松岡はじめ外野が知ってる事は経営陣、営業部門と製造部門の対立からの製造部門の解散、及び製造部門が作成していたモーターや部品等の外注のみである。そこからリミットレスが現体制(・・・)に移行したのは業界内では有名な話であった。


「なるほど……」


 松岡は加藤の履歴書を見る。ガンショップの店員、しかも加藤拓郎レベルともなれば当たりも当たり大当たりだ。

 経歴に関しては大学に入ったのが6年前であり、大学生でありながら就業しさらにはサバゲー部の活動をしている。そこから鑑みるに少なくとも真っ当な類の大学生ではない。だが真っ当な人間という意味であれば松岡の方がよほど真っ当ではないしサバゲーにかける情熱に関しては少なくとも本物であろう。

 松岡はそこから鏡子から一夜漬けで教わった面接(尋問)を一通り行い、加藤に関するインプレッションが初期から全くのブレのないものだと再認識した。

 サバゲーが好きすぎるダメ人間。それが加藤であった。


――――――――――――――――――――――――


 僕は目的の銃をP90に決めた、理由としては装弾数の多さからくるマグチェンジの必要性のなさやコンパクトさ等が上げられる。

 テツ兄が「せっかくだから軽めのカスタムしようぜ」と言った事から本体よりも先にP90のパーツ探しに入った。


「P90のカスタムといってもすること少なくない?」


「簡単なので行けばコンペンセイターやサプレッサーの装着、大掛かりなので行けばレイル(R)アダプター(A)システム(S)装着をはじめとしたフロント周り増設や、サイトと一体化してるレシーバーの変更辺りまで結構色々あるぜ」

「それとだ、P90も実は3種類、いや正確には限定品も入れれば4種類の純正があるんだ。まぁ限定品の方はオマエの食指が動きそうにもないから置いておいてその説明もしておこう。普通のP90の形は知ってるだろ? それがノーマル。上がフラットになっていて後付でカスタムできるトリプルレイル(TR)トリプルレイル(TR)の高級機版のハイサイクル(HC)だな?」

「個人的にはTRかHCを勧めたいのだが、ぶっちゃけるとノーマルのドットサイトもそんなに悪くはないから好きに決めるといい、そこ以外は横のレイルの仕様の違いやサプレッサーの有無の違いぐらいだな、まぁP90の横レイルはレーザー位しか使わんしサプレッサーも後付でいいの買えばいいしな」


「それならノーマルがいい」


 P90といえばあのドットサイトは外せない。


「よし、じゃあノーマルで決めよう」


 テツ兄はしばらく商品棚やラックを検分して使えるパーツを選定する。


「先ずスリングスイベルの増設は基本中の基本、んで基本は二点保持なのだがP90の場合だと一点保持の方がブン回しやすくていいから一点式を勧めたい。無難に行くと専用スリングを使うべきだがあえてスリングスイベル増設する、理由は他にも使いまわしできるからだ」


「なるほど」


「んで次は、マガジンキャッチだな。必須じゃあないが、あればマガジンの付け外しが楽になる」


 テツ兄はマガジンキャッチもカゴに入れる。


「フロント周りも決めよう」


「そういえばエアガンにサプレッサーってどれぐらい効果あるの?」


「そこは結構あやふやで最終的に銃本体じゃなくて人間の感覚器の問題だからな、銃本体とサプレッサーの相性もあるし効果自体はハッキリあるが結構成果の可否の見えづらい部分であるんだ。まぁカッコいいからつけてる程度の認識でいいと思うぞ」


「コンペンセイターは?」


「あくまで飾りだな、ただサプレッサーと違い雰囲気かなり替わるからオススメではある」


「ふーむ……とりあえずナシでいいか」


 あの竹を割ったようなコンペンセイターが好きなのだ。


「次はバッテリーだな」


「バッテリーってリチウムポリマー電池とか色々あるけど何が違うの?」


 少し前にヨウちゃんが言ってたことを思い出して聞いた。


「お、よく知ってたな。リチウムポリマーはキレが良くなるな、電動ガンというのは要はスイッチのオンオフで動いてるようなものでそのオンオフの際に高電圧流すことによってキレを良くしてる。せっかくだしそれの使い方なれる意味合いも兼ねて使ってみるか?」


 テツ兄はそう言うとバッテリーと機材と何故か袋を買い物カゴに入れた。


「その袋は?」


「オマエの事だから自分で勉強してやるだろうが一応使い方の説明は後でしておく」

「それと一番重要なのはガンケースだ、ガンケースにも種類があって、いわゆる布地の袋のソフトケースとジュラルミン製のアタッシェケース、FRP製のハードケースの3種類が基本だな」

「まぁP90なら入らないほうが珍しいから大きさに関しては不問にしておく、その代わり収納の多さや持ちやすさ基準で決める」


「ガンケースの持ちやすさやってあるの?」


「持ち手が一体型か独立して可動するかとかでも違うし、ハードケース、ソフトケース、肩掛け紐ストラップや肩掛け紐の有無なんかもあるしキャスター付きのやつなんかも……」


 テツ兄は説明を止めると無言で高いところにかかっている何かを下ろした。


「これいいんじゃねぇかな?」


 テツ兄はリュックサック型のプラスティック製ガンケースを僕に渡した。形はフルサイズライフルが入るぐらいのプラスティック製のガンケースにリュックサックのハーネスと横に持ち手がくっついている。

 僕はそれを背負って確認をする、背負い心地は悪くない。


「横幅あるの以外であれば大体入るタッパはあるし何よりいいのがリュックサック型なのにハードケースなのがいいな」


 そうしてからBB弾やローダーをカゴに入れ後藤さんのいるレジに向かい、会計を済ませる。


「以上で計39400円となります」

「それとP90の試し撃ちします?」


「ああ、エアガンに不備がないかテストしてくれるんだ。是非ともやってくれ」


 後藤さんはP90にバッテリーを繋いでP90の空撃ちを行う。 


「特に異常は見られないっスね、それとリポバッテリー購入者に説明書をお渡してますのでよければどうぞ」


 後藤さんからパンフレットを手渡しされる。


「それとここの休憩室で、銃のカスタムってしていいかい?」


「どぞ」


 僕とテツ兄は休憩室の作業台に買ったもの一式を広げる。

 改めてかなり買ったなぁという感想だ、あの新歓に来てた大半はこれ(・・)を経験していたのか。

 僕は説明書を読みながらスリングとマガジンキャッチをつけ、テツ兄にスリングの調整を手伝ってもらった。その間にリチウムポリマー電池の扱いについて、特に「衝撃を与えないこと」と「火災時の対応」について教わった。


「どうかな?」


 僕はくるっと回ってテツ兄の方を向く。


「んーピッタシ、いい感じじゃねぇの」


「や、やあ。カッコいいじゃん」


 振り返ると、後藤さんが缶コーヒー片手に立っている。

 エプロンは外してシャツとスラックスでありボディラインが意外とくっきりとしている。


「相席いいっすか?」


「どうぞ」


――――――――――――――――――――――――


 遡る事数分前、タクさんとマツケンの間で何が交わされたか知らないがタクさんはデッカーズの一員として働くこととなったらしい。

 マツケンはタクさんを見送ってから休憩室にいる吾妻を見て「オマエ、あいつの情報どうなってんだよ」と耳打ちされる。アドレス交換してから一週間しか過ぎてない旨を伝えると「一週間あればセックスまで持ち込めるだろ」とあっけらかんと言ってのけた。わたしはプロの色事師じゃないんだ。

 休憩終わりのセルゲイと休憩が始まる前のナイジェルに店を任せて、マツケンにケツを叩かれてここにいるわけだ。

 吾妻のツレが「友達だろ、ちょいと席外すわ」と言って吾妻に耳打ちしてから席を外してくれた。


「えーと、エアガンウチで買ってくれて……その、ありがと」


「いえ、どういたしまして」


 いやそれじゃ話が終わってしまうだろ。年寄りの世間話じゃないんだ。

 話題話題話題話題……


「その……えっと」


 吾妻もなんか呆れ始めてるぞ。


「「好きなので付き合っていただけないでしょうか?」」


 そのセリフはほぼ同時に発せられた。


――――――――――――――――――――――――


 テツ兄から「思いは言わなきゃ伝わらん」と助言を貰い、意を決して言ってみたものの後藤さんの喋ってることと被ってしまったみたいだ。


「あ、ごめん……そっちからお願いします」


 僕は後藤さんに言った。


「好きなので付き合っていただけないでしょうか?」

「えっと……そっちは?」


 後藤さんが聞き返してきた。


「好きなので付き合っていただけないでしょうか?」


 途端に後藤さんの顔が真っ赤になり自分も顔に熱を帯びる。


「あ……えっと。うん、付き合おう、それがいい」


「そだね! 今日から私達恋人同士だね!」


 仲良くなった自覚をあまり感じないが、まぁつまりそれが僕の初恋だったのだ。


――――――――――――――――――――――――


 わたしはマツケンと鏡子さんに今日あった出来事の報告をかいつまんで説明した。その後にデッカーズの中にある自室代わりに使っているトレーラーハウス内のベッドに倒れるように横になる。疲れた、身体は幾ら鍛えられても心を鍛えるのは教官も言っていたがやはり難しい。今日はトレーニングサボろう。

 まどろみの中でわたしは鏡子さんと会った日のことを思い出す。

 わたしが彼女と初めて会ったのは鑑別所の面談室であった、2日後に家庭裁判所での初公判が行われる時に現れた。その当時のわたしと面談をするのはやる気のない弁護士ぐらいなもので彼女が現れた時には新しい弁護士かと思った。

 当時わたしは13歳でまだ後藤希(今の名前)でなかった頃で父親に対する殺人の嫌疑を掛けられて収監されていた。殺人の嫌疑というが実際に背中からアイスピックを突き刺して多分殺した。わたしが警察に対して喋ってないだけだ。

 彼女は開口一番に「わたしと仕事をしないか?」と提案をしてきた。彼女はいわゆる「フィクサー」と呼ばれる類の人間でわたしの罪状のもみ消しどころかわたし個人という人物を抹消して全く別な人物に仕立て上げる事まで出来ると言ってのけた。

 わたしはその提案に乗った。思い残すこともあったがわたしはわたし自身が嫌いだった。

 わたし個人の抹消と仕事の訓練のためにアメリカに行き、そこで後藤(ごとう)(のぞみ)という名前と帰国子女の肩書と様々なスキルを得た。

 うつらうつらしてきた脳が大分復活した、目が覚めて起きるとまだ今日だったのでトレーニングをしようと思う。

 トレーニング器具は自室の外にある、当たり前なのだが部屋の外も室内でかつて流通倉庫であった事からかなりの空きスペースがあり計画(プロジェクト)の機材置き場やわたしとマツケンとセルゲイとナイジェルの住居も兼ねている。ちなみにマツケンはすぐ後ろの和室の宿直室、セルゲイとナイジェルには上にある休憩室を各一室が充てがわれているそうだ。わたしはこの広いスペースを有効活用すべくトレーニング機材やカウチセットとプレステが接続されたテレビなどをそこに置いている、若干埃っぽい事と暗い以外慣れればかなり快適だ。

 わたしはショルダープレスマシンに座り20回をスローで行う、そろそろ負荷をもう一段階あげてもいいかもしれないと思いながら20回をこなしインターバルに入り、そこからグリップを使っての片腕立てを左右10回ずつを5セット、次にヒンズースクワットを20分、この時点で30分が過ぎる。そうしてから腹筋、背筋、鉄アレイを使った各種トレーニング、サンドバッグ相手のスパーリングで1時間が過ぎる。


「よお、頑張ってるな」


 マツケンがわたしに声をかける。わたしは汗を拭いてから振り返る。


「なんスか?」


「あー昨日の議事録(・・・)を渡しに来た」


 マツケンはUSBをわたしに投げて渡す。昨日というとマツケンが急にいなくなったアレ(・・)かと思った。


「昨日の夕方って定例会議じゃないっしょ? なんかあったんスか?」


「その事もあるから真面目(・・・)に見ておけ」


「うい」


「それと、日付過ぎてるから早よ寝ろ」


 時計を見ると思っていたよりも時間が過ぎていた。ただ全然寝れなかったのでそこから走り込みを1時間やってからようやく眠りについた。


――――――――――――――――――――――――


「時に、「新しい酒は新しい革袋に」という聖書の諺があるそうだ。意味は各自調べてもらうとして。昨今のエアガン業界には銃、装備、人共に大量の流入があるそうだ。新製品は次々と売られ、どんどん新人が入ってくる」

「で、あらばこのわたしが見逃すような事はするまい。否、今こそ好機」


 女の眼下には無数の機械が蠢きその一列一列がパーツを生み出している。金属もあれば樹脂もありゴムもある。


「ようこそ21世紀へ、過去の亡霊たちよ。それとおはよう、我が愛しい仔たちよ」


 白衣を着て木製のサンダルを履き、伸びきった髪を適当にまとめ、丸い眼鏡をつけ、ポカリスエットの空きボトルを小脇に抱えたその女は……

 丸部長だったのだ!

今週のエアガン



吾妻円のトレーニングメニュー


 筋トレ初心者で体力も平均より劣っているため射撃に必要な腕部や腹部を重点的に鍛えている。また負荷は片腕2.5キロを基本とし、低負荷高回数のトレーニングを主体に行い習慣化するためにほぼ毎日のトレーニングを行っている。また筋トレ以外にはハンドガンを構えてその姿勢で静止する据銃トレーニング、体力増強のためのサイクリング等を行っている。



後藤希子のトレーニングメニュー


 筋力増幅よりも筋力の維持をメインとした高負荷低回数のトレーニングを毎日行っているがその代わりに曜日毎にトレーニングメニューが違うため結果としてかなり大量のトレーニングメニューをこなしている。

 結果として同年代の中ではかなりマッシブな身体をしているため、中々服を脱げないという悩みを抱えている。

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