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Macho Man Act.1

 帰ろうと思っていた矢先に雨が降ってしまったので武者小路さんや竹内さんとサバテレのバックナンバーを見ていたらかなり遅くなってしまった。時刻にして7時前。

 仕方ないのでそのまま帰らずに僕は日課を始める。昼は大学なのでいつも大体この時間からだ。

 途中でドラッグストアに寄り2リットルのお茶を買い少し遠いが市民体育館まで向かう。

 そしてトレーニング室へ向かい、ストレッチを入念に行ってからサイクル、ランニングいわゆるマシン系のの空きの少ない部分を通過して、毎回がら空きのペンチを確保する。サイドレイズ10回、アームカール左右10回ずつ、リストカール10回、ハンマーカール10回、それを1セットとして1分の休憩を加え5セット行いそこからマットに移って腕立て系を行う。それで大体1時間は過ぎる。

 なぜやるかって? かっこよくなりたいからだ。それだけ。


「やあ! 最近いつも見るね」


 隣のペンチプレスに座ったお兄さんがにこやかな声で聞いてきた。

 何を喋っていいのかわからないからとりあえず「こんばんわ」と返した。


「キミのメニュー初心者にしたら中々に攻めてるな、それ残り3セットで後は片腕立てだろ?」


「はい、そうです」


「よいしょっと、ああ……僕はインターバルだからそのまま聞き流してくれるだけでいいよ」

「ジムに来る人間というのは3種類に別けられるんだ」


 彼は目線でサイクルマシンとランニングマシンの辺りを差した。

 サイクルマシンはいつも若い男女や中年の運動してそうな男性で埋まっている。

 ちなみにランニングマシンそこから弾かれた人々がサイクルマシンの空きを待つ為に使ってる感じだ。

 身も蓋もない言い方をすればリア充軍団。


「例えばあそこのサイクルマシンを使ってる御婦人や紳士達、或いはそこから弾かれつつサイクルマシンを狙ってる人々、アレはもはや運動ではなくジムに来る事が目的になってる人種だね……」

「次には僕をはじめとしたペンチプレスやラットプルダウンの紳士方。まぁ僕らの目的は純粋な筋肉の探求とでも言っておこう」

「それでだ、君はその3つ目に分類されるんだ。目的の為の筋肉、あくまでジム通いや筋肉の為でなくその肉体には何かの意志を感じるんだ……」

「そこでだ、もしその意志を話してくれるなら……ならば、僕がそこへ到れる為の方法を教授しようと思う」


 ちょうど3セット目のインターバルに入ったので彼に向き合う。

 彼がそこまで親切心からのおせっかいをかけてくれるのであれば僕も事実を説明しなければならない。


「たとえば、銃の撃ち合いというのがあって……それの為の訓練といえば、信じてもらえますか?」


 彼は暫く黙った後に「サバゲーマーなのかい?」とキョトンとした顔で聞いた。

 僕はそれに頷いた。


「なんだよー、僕さ鬼武者軍団ってチームに所属してるんだ」


「東桜大のサバイバルゲーム研究部会の吾妻です」


「東桜大か、あそこのチームとは何度かやりあった事があるよ」

「とりあえずは話を戻そう。確かに上半身というか銃を構えるという部分という意味では最適だとは思う。一般的な指摘をするならそれに腹腔と足首、持久力トレーニングだな。まぁキミなら勝手に調べて鍛えるだろうから説明は省略だな」

「でだ……そこに僕なら指と体操の2つを加える」


「指と体操?」


「これらは筋力と言うよりも動作の正確性のための訓練と言ったほうが正しいね、特に体操は最近見直されつつあるんだ。ダンスを正確に踊るだけでも結構違ってくる」


「指は、失礼……」


 彼は僕の手を広げた。


「先ずはゴムボールを力強く握るところから始めるといい、一番硬いのがいいな。それで成果が出てまた逢えたのなら次を教えよう」

「一つ言えるのは。動きを制するものはサバゲを制する……かな? そこは自分で怪我しない範囲で苦労してくれたまえ」

「では、失礼するよ。残りのセット頑張ってくれたまえ」


 残りのセットをちゃんと頑張ってから家へ帰る。ヘトヘトに疲れ、家の戸を開けるとお客さんがいるらしく爺ちゃんと姉ちゃんの笑い声と懐かしい声が聞こえる。


「よう円」


「あ、テツ兄。久しぶり」


 そこには爺ちゃんと姉ちゃんと一緒にテツ兄がいて楽しく飲み食いしていた。


――――――――――――――――――――――――


 テツ兄というのは子供の頃にウチで持ってたアパートに住んでいた人で僕との関係は近所の兄ちゃん、または年の離れた友人というような感じでかわいがってもらっていた。本名は(くろがね)(あきら)でクロガネという読み方を知らずにテツ兄と呼んでいた。

 就職を期に東京に行ったのだが、最近になってこの辺りに戻ってきたのだそうだ。定住はしないが1年近くはいるみたいだ。

 僕が映画好き、ひいてはガンマニアになったのはテツ兄の映画コレクションの影響と見て間違いないしテツ兄は撃たせたり持たせてくれなかったがエアガンも持っていて、全部ロッカーにしまっていた。何度か机でメンテナンスしているのを見たことがある。まぁ当然テツ兄はサバゲーマーでしかも話を聞くと現役であるとのことだ。


「ふーむ、見た所整備も行き届いているしパーツ欠けどころか傷の一つもないな。これ本当に貰い物なのか?」


 テツ兄は僕の部屋でドライバー片手にタクティカルマスターの検分をしている。食事中に姉ちゃんが「トラヴィスごっこ」の話をしてそのくだりからエアガンの話になって今に至るということだ。


「うん、さっきも話したとおり部長(・・)からの貰い物」


「タクティカルマスターの中古(・・)ってのは地雷個体(ハズレ)が多いんだ。昔からあるモデル特有の老朽化はともかく、パーツ欠け、整備時の組み間違えとかも多いな。買ってそういうの直す位なら新品を買ったほうが早いしな」

「それ以外の銃は?」


「ないよ」


「無いのかよ……」


 テツ兄は一瞬呆れてから何かを思いついたかのように笑顔でこう言った。


「じゃあ明日銃買いに行こうぜ、ちょうどいい店があるみたいなんだ」


「ええっ! いきなり?」


「そうだよ、人生はいつでもいきなりだよ。俺と円の仲だ好きな銃を選んでくれ」

「俺は一旦宿に戻るから明日までに欲しい銃考えとけよな」


――――――――――――――――――――――――


 翌日の昼前、僕とテツ兄はデッカーズにいた。店には後藤さんと黒人の店員さんがいた。


「よお、なんか目星つけてたか?」


 テツ兄は肩に腕を乗せながら僕に聞く。


「とりあえず体格的にSMGかカービンが最適かなぁと思ってて」

「それでハンドガンがベレッタM92だから、メインも9ミリにしたいなぁと思って」


「んー、そこまでこだわる必要はないと思うぞ。昨今の考えだとサイドアームは緊急時というよりもあくまで独立した武器として使う風潮があるし、そもそも80年代じゃあるまいし今どき9ミリ使うメインアームなんて流行ってない、警察でさえ貫通力重視してM4使う時代だしな」

「それとだ、円は利き手右だよな?」


 僕は「うん」と返した。


「じゃあ利き目(・・・)をちょいと調べよう、そうだな……そこの彼女に指を指してみ?」


 テツ兄は作業してる後藤さんを指して言った。


「それで彼女をじっと見て、目を片方ずつつむれ」


 右目をつむり、次に左目をつむった。左目をつむったら腕が動いた。


「左目をつむったら動いた」


 テツ兄は溜息をついてから説明をした。


「あー……円、非常に残念なお知らせがある。円の体質と直銃床のローマウントとは絶望的に相性がよくない」

「ちょいとおさらいがてらに説明するとだ、銃のストックには直銃床と曲銃床がある」

「直銃床っていうのはストックが銃の銃身と一直線に付いてる銃だな、ここにあるので例えればあそこのMP5kのセンスのあるストック付きのカスタムだな」


 テツ兄は後藤さんが使ってるMP5kのカスタムを指差して言った。

 他の直床銃はM16系列の銃や89式、ファマス等の近代的なアサルトライフルやSMG等が挙げられる、利点として反動が一直線なので予想がつきやすく相対的にブレが少なくなるという事だ。


「曲銃床ってのはストックが銃身と角度がついていて目と銃身がほぼ一直線上になる銃だな、ここにあるのだとあそこのM14だな」


 テツ兄は角にあるノーマルのM14を指差して言った。

 他の曲銃床は一般的なストック付きのショットガン、一般的なボルトアクションライフル、AK47みたいな初期型のアサルトライフル等が挙げられる。

 利点としてはテツ兄が言ったとおり目と銃身が一直線上になるために狙いが正確になるという事だ。


「んでローマウントってのは銃身とサイトの位置が近いって事だな、M4で言ったらキャリングハンドル越しにサイト付けるのがハイマウント、レシーバーに直付けするのがローマウントだな」


 ハイマウントの利点は目線が高くなる事で左右両方の目で構えられる事で、欠点はサイトと銃身の間が高くなり狙いが逸れやすい事だ。ローマウントはその逆でサイトと銃身の間が低くなる事で狙いが正確になるが、右目での射撃が基本となる。また一部の銃で小さめの光学サイトをつけるとフロントサイトが邪魔になる弱点もあると武者小路さんに昨日教えてもらった。


「ま、そんなに落ち込む必要は無いさ。そもそもカスタムなんて好き勝手すればいいし、回避方法なんて幾らでもあるからな」


「やあ、なんか買うの?」


 後藤さんが前の接客を終えたのか声をかけてくれた。


「うん」

 

「なんか気になるのあったら私に言ってね、それじゃ」


 後藤さんはそう言うとそのまま別の作業に戻った。


「んで、改めて聞くんだが目星なんかつけてるの?」


「ジツハツケテマセン……」


「まぁ円の性格上そうだろうと思って、おススメをある程度選別しておいた」


「ちょいと休憩がてらプレゼンしてみようかと思いたい」


 テツ兄は缶コーヒー、僕はいつものを買って空いている席に座る。大会前と比べるとお客さんが増えた気がする、AR系のマシンピストルのメンテナンスをしている女の子や駄弁っているサバゲーマーの一団等がいる。


「まぁ、先ず挙げるのはM4系列だわな。M4系列と言ってもマルイ製、マルイクローン及びその派生、KSC製。まぁKSCはこの中だと除外したほうがいいな。持ってても意外と他と見分けつかん上にKSCで電動ガン作ってるの知らない奴もそこそこいるから自慢するにしても一苦労だし、そもそも流通量が少ない上にマガジンの補充も中々効かないからな」


「そういや思ったんだけどなんでマルイ以外のマガジンって店に置いてあるの少ないの?」


「そりゃ、他が少ない(・・・・・)んじゃなくてマルイが多い(・・・・・・)んだ。そもそもマルイっていうメーカーはKSC、ウエスタンアームズ(WA)、タナカワークス、マルゼン、マルシン工業っていう六大メーカー……人によっちゃこの中にもう何社か加えたり引いたりするがな。まぁ、その六大メーカーの中じゃ一番の後発だったんだな、んでマルゼン以外の他は元はモデルガンメーカーで、区別で分けるならマルシン、ウエスタンアームズ(WA)、タナカは六人部系列、KSCは小林系列に分けられるんだ。六人部と小林ってのは、まぁいわゆる俺や円の偉大なご先祖様みたいなもので設計思想においては六人部は実銃の模型としてのリアリティ重視、小林は遊技銃としての完成度重視が基本なんだ。んでその頃東京マルイは何やってたかっていうとだな……」


 僕は息を吞んだ。


「ガンガル作ってたんだ」


「ガンプラ?」


「の、パチモンだな。他には普通のプラモとかラジコンとか作ってたんだ」

「まぁ模型とか作ってる伝手でエアガンも作り始めたんだな。ただ六人部や小林とは設計思想が違って安さを重視したんだ。んでもって当時高いので2万、3万したハンドガンがなんとイッパチで作ってのけたのさ」


「1万8千円?」


「1.800円、ただ当時主流だったガスに対してエアーコッキングなのとマガジンが割り箸みたいなひょろい奴って欠点があったんだがな何だかんだで数出す上に、まぁ腐っても模型屋だったからガワはそこそこ良かったんだな」

「まあここでリアリティの六人部系列、遊びの小林系列、んでもって第三勢力として値段のマルイが出てきたんだな。まぁここでマルイのパーツがあちこちに置いてある理由というのは大体想像はつくだろ、ただマルイはまだ本気を出してなかった」

「マルイが本気を出したのは電動ガンを出してからだな、ラジコン作ってた影響から他のメーカーにはない電源を使うというエアガンってアイデアがあったんだな。その第一号ってのは何だと思う?」


 少し考えて「M16のA1かA2?」と答えた。


「まぁ普通そう考えるわな、ところがどっこい最初に作ったのはファマスだったんだな。まぁ理由としてはファマス一代だったとしてもファマスのエアガンという希少性で売れるだろうという希望的観測だったと思うのだが、ところが当時のゲーマーにとってはファマスってだけで垂涎ものだったのにバリバリ撃てるという事もわかってこぞって買いだしてM16、G3、MP5、AKとか作ったんだな、まあ推測の域を出ない話なんだがバリバリ撃てるせいかマガジンの需要が増して供給自体は出来たが発送の手間がかかりすぎたせいでならいっそ店に置こうとなったと考えてる」

「ま、それがマルイのパーツが大量にある理由だな」


 エアガンの歴史というのをはじめて教えてもらった、周りで知ってそうな第一人者として部長がいるが部長は意外とそういう蘊蓄とか言わない人だしな。


「本筋に戻そう。んでフルサイズ系よりも円にはカービン、最低でもM4よりも短めのをお勧めしておきたい」


「なんで?」


「持ち運びが楽だから、んでもってバレルの長さは射程や命中に寄与はするが重さや長さとの比率でいったらそんなには寄与はしない。まぁだからさっきのMP5kは中々合理的なカスタマイズだわな。k特有のAKバッテリーのみってのをストックで解消してるしな」


「AKバッテリー?」


「ああ、そこもだな。かつてはラージ、ミニSD、ミニ、AKってバッテリーがあったが、ラージとミニSDはミニに統一。まぁ普通のと細い奴でいいやミニは普通の、AKは細いのだ。基本的にバッテリーは付けやすいようにはなってるんだがMP5kだけは入れるは面倒、出すは地獄とまで言われて後続のハイサイクルカスタムに至ってはバッテリーコネクターの向きを変えつつ隙間のためにスリングホルダー兼用の新規パーツ作ったレベルなんだ」


「まあつまりはM4より短くてAKバッテリーか否かはこの際不問にしておくか。そこでオマエ向きという意味だとP90(キューマル)ことプロジェクトナインティナインを勧めたい」


「P90?」


P90(キューマル)はいいぞ、左右どっちで持ってもいいし、長さバレル比が高いし。地味にポン付け程度で済むカスタムパーツ多いしな」


 テツ兄は改まった顔で「ところでだ」と前置きを置く。


「彼女、知り合い?」


「後藤さん? うん、大学の同級生……かな?」

「大学の同級生で新歓で隣だった」


「同じサークル?」


「いや、僕は結局別の部活に入ったけど」


 テツ兄は耳を貸せとジェスチャーした。


「あの子オマエに気があるぜ」


「そんなご冗談を」


「前の客と比べたら円の方がずっと愛想よかったぜ、何より呼んでもないのに近寄ってきたしな」


「それは単に知り合いだからじゃない?」


「知り合いって事は既に一歩先んじてるって事だろ、しかも愛想いいってオマケ付きでだ。それともああいうボーイッシュなのってタイプじゃないの?」


「いやそんな……」


「色事聞くなら(くろがね)サマって昔から言われてんだ。ありゃ間違いないね」

今週のエアガン


P90

メーカー:東京マルイ


 P90のエアガンとしての歴史は意外と古くトイテック製の外部ソースガスガン、同社の電動ガン、そして2001年にマルイの電動ガンが発売された。

 マルイのP90はドットサイト仕様のノーマル、三面レイル付きのTR、そしてODのフレームとTRのレシーバーロングバレルを持つHCの3つである。ちなみにHCのロングバレルはダミーで内部バレルはノーマルと同じ長さである。

 P90の利点として上げられるのはその形である、唯一無二と言ってもいいマガジンを差した時点でほぼ長方形になる形、全長が短いため運搬や収納に困らない、ブルパップであるため短めの全長の割にバレルが長い、人体工学に基づいたグリップやハンドガード、左右両持ちに対応しているセレクター等この銃ならではという物が多い。

 同時に欠点もこの銃ならではというものばかりだ、マガジンの形が独特すぎてマグポーチを探すのに苦労する。直銃床の中でもバレルとサイトの高さの差が高い。レイルシステムには対応しているものの底面レイルが無いためにオプションパーツの数が限られてくる、スリングを装着するのに一苦労する、ノーマル仕様のドットサイトが破損すると修理が面倒等の弱点もある。

 また他の銃でもそうなのだがP90のノーマル仕様のの場合は新品で購入を勧める、ドットサイトが旧式と新型の二種類があり新型のほうが視認性や耐久性が高いからである。

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