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Intrigue Act.1

「いやーあの店、中々気合入ってますすねー」


 昼過ぎから降り始めた大雨は夕刻になって降り止み窓辺から夕日が差す。

 神林は夕日が差し込むベランダの窓際に腰を据えて自分の膝上に灰皿を置いて右手でタバコを吸いながらスマホで指示を受けつつ調査報告を行っていた。左手にはペンを膝元にはメモ帳が置かれている。神林は必要があれば手元を見ずにメモを取っている。


「先ず居抜きとはいえ上モノだけで軽く見積もって億は超えるでしょ、しかも内装も内装で全部綺麗にしてるんですよ。はい、写真見てもらえばわかると思うんですけど」

「リミットレスとかPRIMARYの支店とかだったらわかるんですけど……新規参入、出店じゃなくて参入なんですよ。はい」

「それより報告書にも書いたんですけど、ええ……いやー驚きましたよ。世の中似てる人間が3人はいるっていいますけどねー、あそこまで顔そっくりで名字同じで名前も似てるとなると……ねぇ」

「え、それ元請け(・・・)に報告しないんですか? あーはいはい、その様に」

「って事は先輩(・・)もこっち来るんで? へぇ……先輩(・・)、こっちが地元なんですねー」


 神林は世間話を適当なところで切り上げて電話を切った。

 そうしてから灰皿を作業台の上に置きタバコを吸いながら作業台の下に置いてある荷物を開ける。ブーツは先ほど汚れを落としシューワックスをかけウェアは既に洗濯機の中で回っている、ハンガーに掛けているタクティカルギアのポケットやマグポーチにはその形に作られた硬いが弾力性のあるスポンジを入れられ、汚れを濡れ布巾で丁寧に落として消臭スプレーをかける、一般的にタクティカルギアといえばベストやチェストリグであるが神林はHハーネスとベルトを基本にしている、理由はそっちの方がラクだからだ。

 次に今日使ったMP7とリボルバーランチャーの外側を無水エタノールを染み込ませたペーパータオルで拭き、バッテリーの再充電の傍らでMP7のバレルをきれいに掃除した。

 最後にBB弾や買ってきたガスを所定の場所に置いて作業を終える。時計を見ると結構いい時間になっており腹が空いたのかジャケットを羽織り外に食事に出る。


――――――――――――――――――――――――


 都心にあるとある高層ビルの地下駐車場にその車は入っていった。

 その車は一世代前の白いプロボックスでそのビルのマンション区画の居住者層と比べたらかなり見劣りするランクの車だ。

 その車は業者用に用意された区画を過ぎ、来客用の区画の奥を曲がり、とあるスペースに停車した。その区画はマンション内の指定スペースである。

 指定された場所に停めたプロボックスから現れたのはその車には似合わないスーツを着こなした長駆の美人だ。

 彼女こそ岡鏡子、後藤希子の保護者、松岡研二の上司にして計画(プロジェクト)の責任者本人だ。

 鏡子は地下駐車場から高階層専用の高速エレベーターに乗ってとある階に降りた。

そこはグループ6の本社であった。受付から来客用のパスを受け取り、整理整頓されたガラス張りのオフィスを抜け編集室や資料室を横目に社長室に入った。時刻は既に夕刻で美しい社長室の窓は夕日と都市の影をコントラストで写す。

 入って眼前にはほとんどのビルよりも高い場所からの絶景を写すガラス張りの窓、その手前にはグループ6のCEOである若い男が座っていた。この男はグループ6の草創期メンバーの一人でありそしていま現在グループ6の全てをその手中に収めている。

 右手にはメガネの細目の男と小柄な少女の二人がいるソファーセット、左手には会議用のデスクとモニターがあり、入口側の壁に沿うようにミニバーが設置されている。

 男はアタッシュケースを小脇に抱え書類を読んでいて少女はその向かいの長ソファーに仰向けで寝そべりフーセンガムを噛みながらスマホを無心に眺めている。


()は?」


 CEOが細目に聞いた。


「さあ? 美雪、知っとるか?」


 細目は「美雪」と呼んだ少女に聞いた。少女はスマホから目を離さずに「ん」と鏡子の真後ろを指差す。


『いやーメンゴ、メンゴ』


 鏡子は驚いて振り返った。裏方専門とはいえ仮にも裏社会で生きてきた彼女は他人の気配や物音には注意を払っている。鏡子といえども彼の接近には全く気づけなかった。

 彼はぼろ切れみたいなマントにつばの異様に広いジャングルハットをかぶっている、少し背筋を屈めているものの大きさは身長がありその時点でヒールを履いている鏡子よりも頭一つ以上大きい、推定2メーター弱。マントに隠れていて体型は伺い知れないが肉付きを見る限りでは太っているタイプではない。その顔も赤レンズの大判メガネとマントのネック部分とその下のエアダクト付きのマスクのせいで正体不明の怪人そのものだ。声はボイスチェンジャーを使っているのか聞き取りやすいのだが機械的でノイズが入ってたりして不明瞭だ。


『歳のせいかトイレが近くてな』


 怪人は鏡子に会釈を返してから会議用の椅子に座る。


「まぁ……いい、要件はこの3名を君のチームに加える」


「何故?」


「先の経費削減代替案とでも思ってくれたまえ。3名共に使いみちはあるはずだ」


 鏡子は即座にCEOの意図を理解した。彼等は首輪、しかもCEOの恩着せがましさもついてくる始末だ。

 さらに言えば彼女のチームにはCEO及びグループ6に対して隠しておく必要がある隠し玉がある。これは一種の保険であり同時に言えば重篤な裏切りに対しての報復措置でもある。


「俺は高屋ジン、関西支部の編集部員や。このちっこいのは江崎グリコって聞いたあるやろ?」


 鏡子は薄々感づいていたが江崎グリコと言えば関西をメインに活躍しているサバゲーマーアイドルだ。グループ6の芸能部門とプロモーション契約を結んでいるアイドルであり顔とそれ以上のことは詳しく知らない。

 高屋ジンも顔は知らずとも名前は辛うじて知っている。


『んで俺は鉄眼、聞いたことあるだろ?』


「無いわね」


 鏡子は即答した。「鉄眼」と己を自称した怪人は深く肩を落とした。


『これでも界隈じゃそこそこ名が通ってるだけどなぁ……まぁ、いいや。これからよろしくね』


「いきなり受け入れというわけにもいくまい、後の事は高屋とで決めてくれ」


 CEOは席を立ちコートハンガーにかかっているハットを被る。


「それでは失礼するよ、土曜とはいえ予定が詰まってるのでね」


 鏡子は高屋や鉄眼と今後の予定について会話を交わす。

 グリコは鏡子の潜入先にある大学に編入しつつ仕事を行いその過程でマネージャーである高屋も現場でグリコのサポートを行うという事実が発覚した。

 鉄眼は別件で雇用されたプロのサバゲーマーで鏡子達の仕事先で調査を任されていた。


「いや、ホント申し訳ないですわ。社長が世話役がいる言うから頼んだ程度のことでして」


 高屋はそう謝罪したものの世話役は鏡子の得意分野である事には違いない。 

 東京での仕事が終わり次第高屋とグリコは合流と話がつき、鉄眼とはあくまで協力体制のみの関係と話がついた。

 それから鏡子は撮影の移動がある高屋達と別れビルに入っている喫茶店で仕事を済ませてから地下駐車場へ戻った。


「何処までついてくるつもり?」


『アラ、バレてた?』


 柱の影から鉄目が現れた、全身からこれでもかという位に不気味な雰囲気を出しているが少なくとも敵意はない。

 鏡子は鉄目の見つけ方として音や気配でなく光で見つけるという方策を即興で考えた、音や気配がなかったとしても鉄目が人であり物体であり続ける限り光の吸収、つまり影からは逃れられない。それが即座に活用できるとまでは思ってなかったが。


『いやーお姉さんやるねぇ』


「で、要件は?」


『2件。1件目は互いに隠し事ナシでいきたいと交渉しに来た』


 鉄目は柱に寄りかかりながら説明した。


『便宜上は俺は雇われのサバゲーマーって事になってるけどアンタと同じく裏側の人間なんだ、一応雇われのサバゲーマーってのも事実だがな。んで俺の仕事ってのがとある人物の捜索だ。そこは検索するなよ。どっちも得しない』


「それで?」


『お姉さんの隠し玉の内容を知りたい、察しはついているが確証がないんでね』


「その情報じゃ無理ね、大人しく帰りなさいな」


 鏡子は冷たく突き放す。


『まぁ待てって、テイクはここからだ。それ説明してくれたら隠し玉を隠しておく工作を一手に引き受けてやるよ』


 鏡子は少し考える。


「聞くけど、わたしの周り嗅ぎ回ってた?」


『うん、今年の頭から。デッカーズでしょ?』


 細心の注意を払ってたわけではないが、こんな不審人物に結構な時間を見つからずに偵察されていたのだ。

 つまりこの提案自体は彼にとって詰めであり、鏡子にはこの提案に乗る以外にリスクとリターンの取れている選択肢がないのだ。


「負けた、乗るわ」

「それで、2つ目は?」


『デッカーズに行くならクルマ乗せて』


 鏡子はズッコケた、そしてしばらく考えてからしぶしぶ鉄目を後部座席に座らせてからクルマを出した。


――――――――――――――――――――――――


 マツケンをはじめ計画(プロジェクト)メンバーは鏡子の緊急招集に応じていた、この場にいないのは別件で帰ってこれない少数とデッカーズの店番のために残した後藤のみであった。

 緊急招集の内容は言わずもがな高屋ジンと江崎グリコにデッカーズの存在を知られないようにするための作戦会議と鉄眼との顔合わせだ。


「……という訳で若干名のお荷物を押し付けられた」


『あい、そのお荷物第3号です』


「これから人員の再編成を行う。あとお荷物が2名来る上に内片方はグループ6の幹部だ、向こうにはその意志は無くともこちらは悪意を隠す必要がある」

「松岡、お前は暫く店から外す。その代わりにセーフハウスで裏工作の方をメインにやれ」


「了解」


『いや、それは逆がいい』


 鉄目が指示に割り込んだ。


「チームがこの店との関与を隠せば社長も高屋も騙せるし何よりも理由があって彼に店を任せていたんだろ? まぁ、松岡さん(・・・・)は裏方に徹したほうがいいと思うけどね」


 鏡子は感心した、確かにデッカーズは鏡子のチームの拠点として使ってるというだけでグループ6にはデッカーズとの関与は知られていないはずだ。


「それでいこう、別の拠点は確保しておく」


 鏡子が解散を告げ皆が持ち場に戻る。


『あーそれと一つこの店の経営者って松岡さん?』


「そうだ」


『松岡さんにお願いというかご協力賜りたいんですけど、ちょいと別件で雇用主(・・・)とトラブってるガンショップの店員ってのがいてさ、それの再就職先ってのを探してるんだ。あんたになら任せられるし、逆に店側も即戦力が手に入る利点があると思うんだよね。見てきたところここ結構てんてこ舞いでしょ?』


「とりあえず連れてこいよ、それとそいつにこれ渡しておけ」


 松岡はデッカーズの採用広告を渡し、鉄目はそれを受け取り懐にしまう。

 同時に鏡子には松岡でなければ鉄目は一体誰を(・・・・)探しているのか? という疑問を覚えた。

今週のエアガン



タクティカルベスト


 いわゆる一般的な軍用ベスト。

 装備を載せる用の単純なベストからモジュラータクティカルベストやインターセプトボディアーマー等の防弾プレートの格納機能を付与されたものまである。

 肩、胸元、腹回りと多くの装備を載せられ防弾プレートの格納部分にレプリカの防弾プレートや防弾プレートを模した保冷剤を入れられたりと多くの装備を搭載できる。



チェストリグ


 チェスト(胸回り)リグ(装備)というようにタクティカルベストと違い胸元にマガジンポーチと少数のポケットを付けた装備であるが。簡素故に値段が安くそこそこの量の装備を載せられるためサバゲーでは主流派となっている。

 またメインアームをアサルトライフルに決めている場合はチェストリグに予備マグを入れるだけで装備が整うのも人気の秘訣である。



Hハーネス


 Hハーネスはリュックサックの要領で装着するタクティカルギアで、主にリュックサックでいう肩紐の部分と腰回りに装備を付けるため身体にフィットし身軽に動ける。

 また神林みたいに最小限の道具のみを持ち運ぶのにも最適である。

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