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WILD CHARENGER Act.3

 4回戦のクイックドローは空き時間が多いので吾妻に接近する。


「や、やあ。2回戦すごかったね」


 当たり障りなく声をかけて隣に座る。

 しばらくの沈黙が気まずい空気を作る。


「「そういえばさ」」


 2人で声がかぶったのでわたしは吾妻に譲る。


「銃にペイントしてある虫ってなんの意味があるの?」


「あー、あれ?」


 それには深く(・・)不快な(・・・)事情があるのだが対外的な説明でごまかす。


「わたしさー、昔からサバゲーやってて偵察とか撹乱とか得意なんだよねーだからゴキブリ(・・・・)ってあだ名なんかついちゃって」


「嫌なあだ名だね」


「慣れればそうでもないし、わたしはそんなに嫌いじゃないしゴキブリ」


 わたしはなんの話をしてるんだ。


「そっちは?」


「今、何処(・・)でサバゲーやってんの?」


 吾妻が聞いてきたので本題に入る前に聞いておきたかった事を改めて聞く。

 サバゲー部では見ていないし、新歓の際に銃すら持っていなかった彼がここまで出来るようになったという事は少なくとも何かしらの手ほどきがあった筈だ。


「大学のサバイバルゲーム(・・・・・・・・)研究部会(・・・・)。えーと、新歓やった教室の裏手になんか陰気臭い建物あったでしょ……」


「お二人共次出番でありますよ」


 出番になってしまった、仕方なく吾妻と対決する。

 わたしは警官の側、吾妻は悪党の側のレンジに立つ。

 4回戦のクイックドローは銃口を下げた状態でいかに早く相手に当てるかが問われる。

 正直な話を言おう、わたしは銃が苦手だ。

 正確にはわたしは他人に暴力を行使するのが苦手だ。

 それはわたしの家庭環境や過去から来るものだ、故に実はサバゲーは好きじゃない。

 ただ楽しそうな他の人を見ているのは嫌いではないしすみっことはいえその輪の中にいるという事も嫌いではない。

 ブザーが鳴る。

 わたしは慌てて警官に銃を向けトリガーを引く。結果として悪党は警官に倒されてしまった。

 マツケンの言葉を借りるなら「負けるもまたサバゲー」との事だ、勝者がいれば敗者もいるのは必然で「勝敗以外は全く何も動かないのもサバゲー」とも言っていた。

 改めて2人で並んで着席する。


「何処まで話したっけ?」


「陰気臭い建物の辺り」


「そうそう、その陰気臭い建物の地下にサバイバルゲーム研究部会ってのがあるんだ」


 陰気臭い建物が何かは知らないがどうやら吾妻はサバゲー系の同好会の一端に所属しているらしい。

 ウチの大学は地域柄からかサバゲーが盛んでサバゲー部の他にもサバゲーを主体とした同好会やサークルが多い。

 部室を充てがわれているという事や名前からして大学の正規のサークル(・・・・)なのであろう。

 心のなかでよかったと胸をなでおろす。


「サバゲーってこんな凄腕の人ばかりなの?」


「全体的に今回はレベル高いよ」


 武者小路、神林みたいなベテランはともかくとして小学生の佐志をはじめ得点の低めな竹内でさえもサバゲー部内であれば中堅ぐらいの技量だ、アレよりヘタな連中はゴマンといる、吾妻に至っては1ヶ月前に始めたという条件下であればほぼトップであろう。


「4回戦終了です」


 4回戦が終わった。

 ここまでの順位は1位は神林、2位は武者小路、3位は小川、4位は佐志、5位は椎名、6位にわたし、7位は津々井、8位に吾妻、9位は真壁、そして10位は竹内である。

 1位から3位まで得点差がほぼ10点の激戦だ。

 神林、武者小路、小川、それにわたしについて言うことは特に無い。

 佐志は小学生ながら全体的に安定していて10歳以上用というハンデを負っている事から同条件下であれば神林、武者小路、小川のトップレースに参加出来るぐらいには化けるかもしれない。

 椎名はクイックドローやエニーターゲットみたいな反射神経が必要な場面で上位に食い込んでいる事から実戦で強いタイプと見受ける。

 津々井も椎名と同じく実戦に強いタイプなのだが3回戦のパフォーマンスのせいで成績を落としてる。

 竹内は外見から比べ銃の撃ち方は比較的に真っ当だが大型のSPPを選んだせいか早さが必要なクイックドロー、エニーターゲットで得点が伸び悩んだ。

 問題は残りの2人だ、吾妻は1回戦が最下位で銃の撃ち方もなっていないが2回戦から急にしゃっきりし始めて、3回戦は遅めなもののムダのない動きをして中位につけ、4回戦では安定した動きで勝数を稼いでいる。このメンバー内で技量は最低に近いが冷静に勝てる得点を稼いでいる感じだ。

 真壁は全体的に普通だ可もなく不可もなくといった感じなのだが、説明できないのだが何かが不自然で不気味な感じがするのだ。


「では再開は一時間後の13時としましょう、それまでに各自昼食の方を取ってきてください」


 マツケンが解散を言い渡した。


「あ、えっとさ……一緒にメシ食いにいかない? 今からちょうど休憩だし」


 わたしは吾妻に提案をした、


「うん、丁度みんな(・・・)で行こうと思ってたんだ」


「クルマの割当、野郎は俺、女子は真壁ちゃん、バイク組は各自でいいだろ?」


 どうやら神林が音頭を取っていたらしい。


――――――――――――――――――――――――


 神林さんのクルマの中で銃談義が行われる。


「そういやSPPって結構珍しい銃ですよね」


 後ろの席に座っていた竹内さん達に僕は聞いた。


「家の裏手にバルクリユースがあるんよ、街道沿いのクソでかい中古屋。そこで適当なジャンク拾って直して遊んだり売りさばいたりしてるんよ」


「へー何が利益率いいの?」


 神林さんが竹内さんに聞いた。


「教えたら真似されて俺の食い扶持無くなるからな、ダメだ」


 僕は少しだけ頭を捻ってから「儲からない物や面倒なのは何か?」と聞いた。


「それだったら教えてやるわ。儲からんと思うのは戦隊モノ、ライダーシリーズ、魔法少女モノ、バルクに出回った時点でとうの昔に旬は過ぎてるしビデオならともかくおもちゃは全体的に使い方が荒いせいか状態が悪い、あとは白物家電、意外と簡単に直せはするんだがいかにせん新品買ったほうが後腐れなくていいし、売れたとしても利ざやがほぼ無い。まぁ白物家電は自前で使う分しか手を出してないがな。面倒なのは自転車、1回盗品に当たって面倒なメに遭ってな」


「あーたしかに面倒だー」


 神林さんが笑いながら相槌を打つ。


「ただエアガンに関して言えばいい買い手を見つければ儲けられるかもな」


「なんで?」


「エアガンってノーマルの中古には価値がなくてカスタムや絶版の方が市場価値が高いんよ。中身ダメでもガワがすごいのと状態いいノーマルだと圧倒的にガワがすごいのの方が価値がある。車と違って意外とみんな綺麗に使ったりそもそも飾るだけで使ってなかったりするから中身ダメな理由って単純な部分にある場合も多いしクルマと違ってミキシングも楽だしな、ただニッチ産業だからいい買い手がいないと無理だな」


「まー吾妻や神林サンになら売ってやってもいいぜ」


「ムムッ、拙者だけ仲間はずれは悲しいですぞ」


「初対面で他人の事を面と向かってDQNとかって言う奴には売ってやんねー」


 竹内さんが武者小路さんに舌を出しながら言う。


「そういえば神林さんって東京の人?」


 僕は疑問に思った事を聞く。理由はこのSUVが練馬ナンバーであるからだ。


「よくわかったね。んで次の質問はなんでこんな所まで遊びに来てるかとか?」


 僕は驚いてその質問に「はい」と答えた。


「この辺りフィールドとかショップ多いから地元からだと都心出るよりも楽なんだ、クルマに優しいし何より駐車するのにお金取られないのがいいよね」

「それに来年の今頃にバレットウィーク(・・・・・・・・)やるからその予行演習ってのもあるね」


「バレットウィーク?」


「あ、吾妻知らねぇの? 旧区画の有効活用だなんだって事で街区まるごと封鎖して数日間限定のサバゲーフィールドにするんだと」


 竹内さんが後ろから話題に入ってきた。


「サバゲー界のウッドストック的な? そんな感じを予定してるらしいですな」


「オマエの口からウッドストックなんて言葉出るとは思わなかったぜ……」


「お、ついたみたい」


 前を走る青い小型自動車がレストランに入る。近所では有名な食べ放題のお店で僕も家族で何度か行ったことのある、僕と椎名さんと真壁さんとで選定した店、ピザの食べ放題のあるお店だ。

 後続のバイク組は駐輪場に並べて停車して降りる。

 神林さんは真壁さんの軽自動車の隣にクルマを停め、皆でレストランに入っる。


「10名、とりあえず禁煙でいいよね?」


 誰も異議を唱えなかった。


「申し訳ございません、お席の都合上8名、2名にわかれてしまいますけど……どうしましょう?」


「あ、じゃあそこの彼と彼女だけ別席で」


 神林さんが僕と後藤さんだけを別の席に移した。


――――――――――――――――――――――――


 わたしは吾妻と一緒に着席する。


「「あのさ」」


 丁度同じタイミングで口を開き、わたしは吾妻に譲る。


「ピザ取りに行こうよ」


「そだね」


 わたしと吾妻は一緒に並んでピザを取りに行く、アメリカで食べていたピザと比べると随分と小さいが種類がやたらと多い、イタリアン、サラミ、シーフード、モッツァレラ等をはじめチョコ味のピザなんてものもある。

 わたしは箸のない店で良かったと安心していた、理由は箸が苦手だからだ。

 とりあえず適当にピザを集めて席に戻る。

 吾妻の皿にはピザは4切れ、わたしの皿には10切れ以上のピザが積まれている。

 しばらく2人でピザを食べる、向こうのピザと違い小さめだが種類は多くて味もしっかりとしていて美味しい。これでサイズが3倍あれば文句なしなのだが食べ放題なのでヨシとしよう。


「そういえばさっき言いかけた事、何?」


「あ、アレ?。良かったらアドレス交換しない? 同じ1年同士だしさサバゲーに限らず授業や他とかでも情報交換とかもデキそうだし」

「よかったらセルフォン出してよ、こっちでやっちゃうから」


 吾妻からセルフォンを借りてアドレスの交換とSNSのアドレス交換を行う、女がやるソーシャルエンジニアリングってラクでいいね。わたしのセルフォンにアドレスを入れる、ノルマ達成。


「そういえば後藤さんって……」


「ん?」


 わたしはテリヤキピザを口に入れながら吾妻の質問を聞く。


「アメリカ出身だったりしない?」


 わたしは図星を点かれてテリヤキチキンを喉につまらせかけたが、表情に出さずに答える。


「そだよ。高校の3年間アメリカにいた」

「んでアーカンソー州のフォートスミスにいた」


 3年間アメリカにいたのは事実ではあるが高校には通っていない。

 ただフォートスミスにいたのは事実だ。


「君は何処出身? 東京?」


「地元民だよ、大学の裏が実家」


「へぇ、そうなんだ」


 そこからは吾妻と他愛のない話をしたりして腹をトマトソースとチーズと雑多なトッピングで満たした。

今週のエアガン



スーパーレッドホーク(7.5インチ)

メーカー:マルシン工業 (カスタム)


 リボルバー三大巨頭の一角マルシン工業のカート式ガスガン。

 リアリティある動作とシングルアクション特有のガス消費の少なさと命中精度が売りだ、津々井はハンマーとトリガー周りをスチール製に変え激しい使用に耐えうるカスタムを施している。

 ちなみに津々井のリボルバー連射は実在する技であり、津々井はそれを動画で見てから練習し最近実用レベルにまで会得した。



マカロフPMG

メーカー:KSC


 KSCのニューモデルのエアガン、マカロフの近代化仕様。

 今回のコンペでは珍しい完全ノーマルの仕様であるが通常のマカロフのベークライトグリップの代わりにデフォルトでラバーグリップが付属している、ちなみにこのラバーグリップは実銃や他社製品には転用不可能である。

 それ以外にもベークライト仕様にはないランヤードリングがついている。

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