最悪の事態です
本日2話目です
1話目を読んでない方はそちらからどうぞ
「っ! 馬鹿な!」
俺の顔めがけて飛んできた飛来物は十センチほど手前の空中でピタリと停止していた。
仕組みは単純であまりに濃度の高い魔力を放出したために魔力が物理的な壁のようになっていたのだ。
これは妖精達と魔力の修行中に発見したことだが、あまりに濃度の濃い魔力は物理的に影響を及ぼす。
これを使うとこんな感じで飛んでくるものを止めることも出来る。
俺はこれを勝手に魔力障壁と呼んでいる。
「ちくしょう!」
「舐めやがって!」
また何かが飛んでくる。
今度は二つだが全く関係ない。
しかしこれもさっきと同じようにピタリと停止する。
「化け物め!」
「喋んな三流。安く見えるぞ」
「なんだと!」
「ガキが! 調子に乗るなよ!」
「.....」
挑発に乗るのは2人。
乗らない1人はなんか強そう。
「喋んなと言ったのが分からんのかお前ら? それとも言葉が理解できないほど頭が悪いのか?」
煽るだけ煽って冷静さを失わせる。
前世でも喧嘩の際によく使った手だけどこっちの世界でも有効らしい。
うん? いつの間にか強そうなやつがいないな。
どこかな〜
後ろ!
「ガッ」
振り向きざまに魔力弾を叩き込む。
残念ながら魔力感知で位置はバレバレです。
「アニキ!」
「お前! よくもアニキを!」
この男はアニキ的な存在のやつらしい。
弱いので修行し直してから一昨日来やがってください。
さて父さん達が帰ってくる前に片付けなきゃな。
しかし強すぎる妖精魔法を街中で使うのは論外だし…...
いや一つ使えるな。
属性魔法の中で唯一の精神干渉をメインとした魔法。
闇魔法。
それなら妖精魔法でも大丈夫だろ。
もし大丈夫じゃなくてもこいつらは犯罪者だし配慮する必要が無いな。
俺はこの世界で前世ではできなかったことであるみんなと仲良く暮らすという事がやりたいのだ。
何が悲しくてこんな犯罪者の相手をせにゃならんのか。
ふざけるんじゃない。
考えてたら腹が立ってきた。
こいつらは邪魔だ。
平和な日本人のリョーマがここまで冷静に現代日本人なら忌避するような事を考えていられるのは実は神であるエリクシールの仕業であったりする。
人が簡単に死ぬ異世界で日本人の価値観をそのまま持ち込んだら最悪の場合精神が持たない可能性だってある。
だからエリクシールは別にリョーマだけではなく転生者全員の精神構造をこの世界に適応させていた。
リョーマは詠唱を開始した。
詠唱は魔法を使う際に一般的に使われている。
詠唱破棄や詠唱短縮、そして無詠唱などはひと握りの者だけが使える技術である。
ちなみに無属性魔法は詠唱は必要としない。
「"我に恐怖せよ"『フィアー』」
「魔法!?」
「どうせはったりだ! こんなガキが魔法なんて使えるはずが.....」
その続きは言葉にならなかった。
なぜなら俺の身体からどす黒い煙が溢れ出たからだろう。
闇魔法初級『フィアー』
その効果は.....
「ちくしょう! "吹き荒れろ新緑の風!"『エアバースト』」
『エアバースト』は自分を中心に強風を発生させる魔法である。
こういった煙を吹き飛ばすには最適と言えるだろう。
しかしそれは普通の煙の場合でしかない。
『フィアー』は煙に触れた生物を恐怖させる魔法。
そしてこの煙は魔力で構成されている。
魔法と魔法がぶつかり合ったときはその魔法に込められた魔力が低い方が負ける。
俺の「フィアー』は初級魔法だが、妖精の魔力が込めてある。
一般人の魔力と、妖精+俺の馬鹿みたいに多い魔力。
誰が見ても勝敗は明らかだろう。
『フィアー』の煙は大体15キロ前後が基準。
あとは込める魔力しだいで速度が変わる。
吹き荒れる風を抜けてどす黒い煙が2人の男を包む。
「くそが!」
「アニキ! アニキィィィィィィ!」
この程度でパニックになるなよ。
人様の事を襲おうとしてんだ。
逆に返り討ちに会う覚悟くらいあるはずだ。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「嫌だ! 来るなぁぁぁぁぁぁぁ!」
一瞬もレジストできなかったらしい。
本当に弱いな。
.....ふぅ。
一旦落ち着こう。
若干冷静じゃなかった。
さてこれから色々聞こう。
♢♢♢♢♢
あれ? そういえば最初に倒した奴がいないな。
まぁ関係ないな。
妖精達が追跡してるから見失いようがない。
妖精と俺は魔力の繋がりがあるから位置もずっと把握ができる。
そして俺はどす黒い煙が晴れた場所に目を向けた。
そこには何かを恐れる2人の男がそこにいた。
「もう嫌だァァァ」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「おい」
男達の身体が面白いようにビクッと震える。
「ひとつ聞きたい。何故俺を襲った」
質問すると何かから助かろうと必死に俺に情報を漏らしてくれる。
「ガディアスの旦那にあんたを襲えって言われたんだ!」
「今日の夜にあんたの両親を追い出すからその間にアンタを殺して森の小鬼共の巣に運んじまえって!」
「は? 待てお前ら、それはおかしいだろ」
おかしい。
そんなことはありえない。
だって今日父さん達が家から出てったのは魔物の襲撃があったからなのだ。
こいつらの言うことが本当ならガディアス、つまりアックスの父親は魔物の襲撃を意図的に起こしたことになる。
テイ厶された魔物は人間の匂いが染み付いているからと魔物は敵対する。
だからそんな事に方法は無いはずだ!
思わず男の1人に掴みかかる。
「どうやったんだ! ガディアスが魔物を操ったとでも言うのか!」
「ち、ちげぇ! ガディアスの旦那は魔物の巣をぶっ壊して魔物を追い出した後にその魔物の子供の死体をこの街に向かって等間隔で置けばあとはこの街にたどり着くだろうって!」
「俺たちが知ってるのはそれだけだ! だからもうあの魔法はやめてくれ!」
あの野郎! なんて事をしやがったんだ!
そんな事したら確実にこの街を襲う!
子供を殺されて怒らない親がいるわけない!
「くそっ! あのクソ野郎! やらかしやがって!」
こうなったらせめてさっき逃げた男を追わなきゃ気が済まない!
あいつは.....居た!
男達に魔力弾を叩き込んで意識を強制的に飛ばしたあと身体強化で屋根に飛び乗り隣の家の屋根に飛び移る。
「待ってろよ! せめてあいつを捕まえればもっと情報が手に入るかもしれない!」
やっと詠唱を出せました!
階級が上がるともっと詠唱が長くなります。