人間不信
コンコン、と 部屋の扉をノックする音が聞こえる。
数ヶ月間 毎日 決まった時間に聞こえるこの音で 僕は今が何時なのかを 理解した。
(もう、そんな時間か⋯)
時計の針は 10時を指している。
ノックの音が聞こえてから数分後 僕は部屋のドアをゆっくり開け、
いつものように扉のすぐ横の壁沿いに置いてある お盆に乗せられた朝食を取り 部屋に戻っていき テーブルに置いた。
勿論 昔までは 家族と一緒に朝食を取っていた。しかし とある事がきっかけで僕は 所謂 引きこもりになってしまったのだ。
極度の人間不信に陥ってしまい 外に出ると呼吸がままならず、通っている高校の制服を見掛けると 心臓が破裂しそうになり目が眩む。
幸い自分の部屋の2階に トイレもお風呂場もある為 そこは問題ない。
父親は仕事人間なので家にいる事が少なく、母親は専業主婦なので家にいる事が多い。
家族は 何故 僕がこうなってしまったのか分からず、僕自身 変なプライドがあり相談も出来なくて 極力 家族と接する事もしていない
引きこもり当初は 早い時間に朝食を部屋のドア前に置いていた母親だったが 食べ終わった頃を確認してる時に 時間帯などを確認したのか
僕の起床時間を推察し 今の時間に朝食を置いてくれる。
しかし 僕の事を気遣ってる事など当時の人間不信の僕には分からなかった。
朝食を運ばれる行為が ただの時間確認としか 思えなかった程に 僕は壊れてしまってたのだろう。
朝食を食べ終えた僕は 空になった食器を 元あった部屋の外の壁沿いに置いた。
「⋯はぁ」
ドアを閉めてドアに背を向け もたれ掛かる
口から出るのは 何度ついたか分からないため息。
そのままずり落ちるように 床にしゃがみこむ
『 ー⋯⋯っ⋯⋯! 』
ブワッと 昔の記憶がフラッシュバックした
考える事が無くなると 嫌な記憶が幾度となく再生される。
いやだ、いやだ⋯、
僕には、価値が⋯無いんだ…分かってるんだ⋯分かってるから⋯
「 もう、死んでしまいたい⋯」
目を瞑っても、耳を塞いでも 消えないこの記憶を考えないようにするには 僕にはとても 困難だった。