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フリークエスト・ストーリー  作者: 丸くなれない針鼠
序章
6/68

秘密基地

 強い衝撃が全身を駆け巡った。こんなのは産まれてから一度だって経験した事無い!


「ぃっ……!」


 痛みで目が回り、衝撃で体が痺れる。


「ああっ!!?」


 だがそれ以上に衝撃的だったのは目に飛び込んで来た光景。


「あ……」


 地面に開いた穴――その穴に吸い込まれるフィルの体――。

 一瞬だったその出来事が、スローモーションのようにゆっくりと頭の中に入り込んでくる。


「あ……」


 手を伸ばせばよかった。

 そう思い付いたのはフィルの体が穴の中へ消えてしまった後。


「ああ……あああっ! あああああっ!!!???」


 痛みも衝撃も、目に焼き付いた光景に掻き消され蕾森は動く!


「フィルっ! フィルっ!」


 フィルが消えた穴の中へ向かって蕾森が叫ぶ!


「………………」


 その声は暗闇に吸い込まれて消えた。


「そ……んな……」


 茫然と――その場にへたり込む。


「ULIINN」


 そんな蕾森へ、さっきのゴーレムが近づいて来る。重たい腕を振り上げて――。


「みゃうっ!」

「ULINN?」


 どこからか現れた丸い生き物がゴーレムの体へ体当たりを喰らわせた。


「UINN?」


 バランスの悪いゴーレムは、後ろへと倒れて粉々に砕け散る。その破片がカタカタと動き出し――ゆっくりと再生を始めている。


「みゃうっ!」

「………………え?」


 丸い生き物は複数いた。

 それどころじゃない蕾森は数える気は無いが、気になったのは何かを訴えていると言う事。


「みゃう! みゃう!」

「うわっ!?」


 丸い生き物たちは蕾森の体を――足を、腕を、背中を押して壁際へと連れて行く。


「あ、ちょっと! 何をっ!? 危ないっ!?」


 眼前に壁が迫る!

 しかし丸い生き物たちは構わずに体を押してくるので避ける事も止まる事も出来ない!

 このままだと壁と衝突する!


「…………あ、れ?」


 咄嗟に目を閉じて衝撃に備えたが…………来る筈の衝撃など来なかった。

「ここどこ…………?」


 目を開くと、知らない場所に居た。

 大人一人がやっと通れるくらいの細くて長い通路。両端や足元はさっきまでのダンジョンと同じ石造り。後ろは……。


「壁になってる…………」


 なら自分はどこから来たのだろうか?

 壁や床を触ってみる。…………何もない。

 ならばと後ろの壁に手を触れようとした――瞬間!


「うわっ!」


 手が壁をすり抜けた。


「びっくりした…………」


 恐る恐るもう一度。

 やはり手が壁を擦り抜ける。頭を突っ込む。…………やはり頭も、それどこか全身も擦り抜ける。


「びっくりした! 凄い仕掛けだ!」


 ダンジョンではありきたりの隠し通路。魔法で壁の映像を投影の単純な仕掛けも、幼い子供には感動物だった。


「みゃう!」


 丸い生き物たちが飛び跳ねて通路を進んで行く。


「付いて来いって?」

「みゃう!」


 そうだと頷く。


「…………フィル」


 早くフィルを助けたい!

 でもそのさっきの穴からじゃ下へは降りられそうにない。

 このまま付いて行けば下への道があるのだろうか?

 わからないが、今はそれに懸けるしかなかった。



*****



「ぅ!?」


 差し込んで来た日の光に目が眩む。

 閉じた瞼をゆっくりと上げると――そこは不思議な空間が広がっていた。

 天井が崩落した広場。割れた石の床からは植物たちが空へ向かって伸びている。

 上から差し込む光の中、まるで日光浴でもするかのように集まる丸い生き物たちの塊。その上にフィルが気持ちよさそうに寝ていた。


「フィルっ!?」


 蕾森はたまらず駆けだした。


「みゃうっ!?」


 一匹の丸い生き物を踏んづけてしまい、蕾森は前に倒れる。その体は丸い生き物たちが受

け止めてくれた。


「フィル!」

「う……ん……」


 小さく呻いてくれて、ほっと安心できた。


「よかった…………」


 嬉しくなり、気が抜けた。そのまま一緒に丸い生き物たちの背中で寝る。


「あれ…………らい、しん?」

「フィル! よかった! 目が覚めて!」


 フィルは目を擦りながらゆっくりと起き上がる。


「うわっ!? なんかいっぱい居る!?」

「こいつらが、俺たちを助けてくれたんだ」

「助けてくれた…………あっ!? そうかっ!」

「どうしたんだ?」


 フィルは蕾森のお腹を摩る。


「うわっ!? くすぐったいって! どうしたんだよ!」


「ごめん! 思いっきり蹴っちゃった! 大丈夫!?」

「なっ!?」


 何の事かと思ったら…………まさかあの時の事を言ってるなんて!?


「な…………んで! フィルが謝るんだよっ!」


 蕾森が立ち上がる。怒り出した蕾森にびっくりした丸い生き物たちがわっと散る。


「謝んなきゃいけないのは俺の方だろうが!」

「…………どうして?」

「どうしてって! 俺があの変なの見つけたからだろう! それでフィルが穴から落ちて! 助けてくれたのに! 俺は手を伸ばして助けてやる事も出来なかった!」


 蕾森がボロボロと大粒の涙を流す。


「俺のせいなのに…………。フィルが謝ったら俺が謝れないじゃんか!」

「…………ごめん」

「だから謝んないでよ!」

「…………うん」


 蕾森は涙を拭う。そしてフィルの顔を確りと見て――。


「助けてくれてありがとう」

「うん! こっちも。心配してくれてありがとう」


 お互い笑いあった。



*****



「うーん」


 丁度良かったので、フィルたちはこの広場でお昼ご飯を食べた。食べている間、あの丸い生き物たちが群がって来てお弁当が取られるのではと冷や冷やしたが、単に興味を持っていただけでそんな事にはならなかった。


「そうだ! こいつらに名前を付けようよ!」

「そうだな。何にしようか?」

「うーんと……。みゃうってどうかな? みゃうって鳴くから」

「あっ! それいい! そうしよう!」


 そんな事を話しながら弁当を食べて過ごした。

 そしていよいよ出発の時。


「さーてと。ここからどうやってでようか?」

「うーん……」


 二人は腕を組んで考える。日の光が差し込んできているから完全に閉じ込められてはいないから…………。


「みゃう!」


 考え込んでいる二人の前で一匹のみゃうが飛び跳ねる。


「ひょっとして出口知ってんのか?」

「みゃう~」

「やったっ!」

「これで出られるぞ!」

「よし! 案内してくれ!」

「みゃう!」


 みゃうの後を付いて行く。行く先は蕾森が入って来た入り口とは違う通路へと入った。


「また暗くなった」


 日の光が届かなくなり、急に不安になる。

 前を歩くみゃうのオレンジ色も色あせて見える。


「みゃう!」

「ここか?」


 みゃうがそうだと飛び跳ねる。

 連れて行ってもらった先には扉があった。金属で作られた重厚な扉。明らかに何かがありそうな気配が漂ってくる。


「入ってみようぜ」

「うん」


 わくわくしながら扉を押す。


「うーん……」

「重い……」


 見た目通り扉が重い。


「今度は二人で押そう!」

「よーし! 行くぞ!」

『うーん!』


 二人で力を合わせると、ゆっくりと扉が動いた。扉は完全には開けず、子供一人が通れるくらいで止めた。


「みゃう~」

「あっ!」


 みゃうが先に入ったので二人も慌てて追いかける。


「あれ? 行き止まりじゃん!」


 また小部屋に辿り着いた。

 今度は小部屋の真ん中には台座があり、金で出来た二つのブレスレットが置かれている。


「何だ? これ?」


 蕾森が手に取って見てみる。特に変わった事は起きないし、無さそうだ。


「トラップじゃない。ひょっとしてアイテムかな?」

「アイテム?」

「ダンジョンにはアイテムが落ちてるからさ。基本。ダンジョン探索はそういうアイテムを探すのを目的としてるんだ」

「へー。じゃあ。これ。俺らが貰ってもいいのか?」

「うん。いいと思うよ!」

「やったぁ!」


 フィルもブレスレットを着けてみる。まだ腕の細い二人にはぶかぶかで油断すると腕からスポッと抜け落ちてしまいそうになる。


「あっ!? それで出口は…………」

「そう言えば……」


 見た限り、そんなのは無さそうだが…………。


「また隠し通路かな?」

「そうかも! 探そうぜ!」


 二人手分けして何か無いかと探してみるが…………。


「無い……」

「違うのかな?」


 みゃうに聞こうと、今度はみゃうを探す。しかし、いつの間にかみゃうも居なくなっていた。


「どこ行ったんだ?」

「先に外に出ちゃったのかな?」

「しょうがない。他のみゃうに教えてもらう!」


 二人は部屋を出てさっきの広間に戻る。近づくにつれ、なにやら騒がしくなって、二人は走り出した。


「げっ!?」

「またっ!?」


 通路から飛び出した二人の目の前に、またさっきのゴーレムが待ち構えていた。みゃうたちはその周りを逃げ回っている。


「くそっ!」


 フィルは呪文を唱える。風の魔法だが、頑丈そうな岩のゴーレムにも効くかもしれない!


「え?」


 呪文を唱えていると、何時もとは違う感覚に襲われた。力が湧いてくるような…………。


「ウインドカッター!」


 いつも通りに出した風の刃が、いつもよりも大きくて鋭い刃となってゴーレムのコアを真っ二つに切り裂いた!


「すげっ! すげぇぜフィル!」

「う、うん…………」


 腕に着けたブレスレットを見る。


「このブレスレット。魔法の力を高める効果があるんんだ…………」

「えっ!? そうなの? じゃ――」


 蕾森が自分のブレスレットをフィルに渡そうとする。だがフィルはそれを返す。


「いいよ。これは初めて二人でダンジョンを攻略した記念だから。半分こ」

「…………わかった」


 蕾森はブレスレットをもう一度装備してポーズを決める。フィルも同じポーズを決めた。


「そうだ! せっかくだからさ。この場所を僕たちだけの秘密基地にしない?」

「秘密基地…………。うん! いいなそれ! サイコーじゃん!」


 こうして二人の初めてのダンジョン探索は成功に終わった。


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