独白
ひとりごと
2017年4月
中学生になってから1年が経過した。外は春らしからぬ冷たい空気が流れ、灰色の雲が空全体を覆い隠していた。
初のクラス替え。担任はどんな先生だろう、おもしろいヤツはいるかな、などといういかにも学生らしい考えを胸に新たな教室に入った。そのときはまだ何とも思っていなかったんだ。君のことなんか全く。
7月
席&班替えをした。初めて君が隣に来た。6月にあったテストの点を聞かれたときに少しだけ会話したくらいで、君とはあまり話していなかった。あのときは少し敬語だったな。
背は俺よりも5~8センチほど小さく、肩より少し下くらいまでありそうな髪を頭の後ろでひとつに結んでいる。これは所謂ポニーテールというやつか。
すぐに帰りの学活が終わった。俺は一応何か少し話しておこうと思い、左に体を向けた。
「俺隣で授業中とかうるさいかもしんないけど、よろしく」
君はこちらに顔を向け、笑顔で言った。
「私もうるさいほうだから大丈夫だよ(笑)」
見た目的には全くうるさい感じには見えなかったので、思わず聞き返した。
「そうなの?全然そんな感じには見えないな」
「なんていうんだろ。かまってほしい感じっていうか、しつこいっていうか。あっ。そうだ、めんどくさい感じだ。そんなわけだからこちらこそよろしく!」
俺の心臓の鼓動がかすかに大きくなったような気がした。
8月
君とはよく趣味が合った。そのため、すぐにお互い呼び捨てでよく話した。確か、朝の読書時間のあとだったっけ。
「その本なに?」
ふいに彼女の読んでいた本が気になったので聞いてみた。
「余命10年。タイトルがアレだけど一応恋愛ものだよ」
「へぇー、そうなんだ。俺も恋愛ものけっこう好きだよ。いっぱい映画観たし」
すると君は目を輝かせながら聞いてきた。
「お!どんなの?」
「ぼくあす、黒崎くん、おおかみ少女と黒王子、orange...一週間フレンズは恋愛ものでいいのかな」
「わー、いいな!私一週間フレンズしかみたことない!ほんとはいっぱい見たいんだけど、どうしても時間が無くてさ...」
予想以上の食いつきで驚いた。
「ほんとに好きなんだね。パソコンで調べたらすぐ出るよ。スマホでもいけるかな。俺持ってないけど」
「私どっちも持ってないんですけどー」
少しムッとしたように君は言った。この時だ。俺が心の中で初めて君をかわいいと思った瞬間だった。
9月
席が替わった。といっても、俺がひとつ後ろになっただけだからあまり問題はなかった。そのころはいつの間にか俺と君がいい関係だという噂が流れていた。
そんなことはつゆ知らず、二人で副教科のテストの結果を言い合っていた。結果は俺が数点勝っていた。君は頭がいいから、前回の5教科のテストで5点負けたことも含めて少し煽ってやった。
「よし、今回は俺の勝ちだな」
「はいはいそうですねわかりました~」
君はべー、と舌を出した。かわいい。このころにはドキドキは本格化していった。
10月
合唱コンクールの練習に日々明け暮れていた。君はピアノ伴奏で、俺はテナーのパートリーダーだ。あるとき、合唱コンプロジェクト(指揮者、ピアノ、各パートリーダー)で放課後集まった。俺は朝来たときから君の髪型がかわいすぎると心の中で連呼していた。髪型の種類はよくわからないので何とも言えないが、髪をおろし、右耳のあたりの部分の髪をみつあみっぽくしていた。
どうしてもこのことが言いたくて、帰り際に言うことにした。
「ねぇ」
「ん?」
「朝から思ってたんだけどさ」
「うん」
「今日の髪型すごい好み。かわいすぎる!」
言ってしまった。これは引かれたか、と思ったが、意外な答えが返ってきた。
「ありがと。すごい嬉しい!もう一生この髪型にしてやろうかなー」
かわいさと嬉しさとちょい恥ずかしさで心臓がはちきれそうだった。あのときの笑顔は忘れない。
11月
決心した。今日告白する。
本当は合唱コン当日に言おうと思っていたのだが、中々言い出せず、2週間ちょいが過ぎていた。席替えをして、君と近くではなくなってしまった。その影響と、君への好きのレベルが上がったことによる意識のしすぎであまり話さなくなってしまっていた。このままでは言えないかもしれない。そう思い、掃除のあとに言うことにした。
「ちょっと話したいことがある」
「なに?」
人目がつかない一番端の階段まで連れて行った。
「で、なんですか?」
あらたまったように君は言った。
「えーと、あのさ」
「うん」
「あのー、んー」
「なに?」
「ふー」
言葉が出てこない。気持ちはすでに決まっているのに、中々言い出せない自分がいた。だが、ここで言わないともう言えないような気がした。
「よし」
「よし?」
「7月に席替えして隣になってさ、そっから話が合っていろいろ話したじゃん」
「うん」
俺は君の目をまっすぐ見つめた。君も僕の目をまっすぐ見てくれた。
「二人で話していてすごい楽しかった。俺は」
「うん。私も楽しかったよ」
「だから」
心臓が高鳴る。
「俺と付き合ってください」
言い切った。死ぬかと思った。
「え、えーと。すっごい嬉しい。私嫌われてると思ってた」
「え?なんで?」
「だって最近話してなかったしさ。なんかもやもやしてた」
「そっか」
「今すぐじゃないとダメ?返事」
「いや、いつでもいいよ」
これがダメだったのかな。
「じゃあ、なるはやで返すね」
「なるはや?なにそれ?」
「なるべく早くの略。知らないの?」
「うん。知らなかった」
「へぇー。あ、そろそろ行かないと。じゃ、なるはやで!」
「うん」
まだ俺の中に恥ずかしさがあるのか、あまり言葉が出てこなかった。その後、家に帰ってからもドキドキがおさまることは無かった。
翌日の昼休み。君に呼ばれた。昨日俺が呼び出した階段と反対のほうの目立たない場所だった。これより前に、10分休みの間に友達に相談していたのはわかっていた。
「で、昨日の返事なんだけどさ...」
「うん」
いけると思っていた。正直。周りのやつらから、俺のことを好きという情報はいっぱいあったし、うぬぼれてるかもしれないが、自信しかなかった。クリスマス安泰だと思っていた。だが、まさかだった。
「私たち学校でしか話してないし、お互いのことあまりまだ知らないからさ」
「うん」
悟った。すぐに。お決まりの台詞だ。
「仲良い友達ってことで、いい?」
突然胸に槍が刺さったような感じがした。痛みはない。だが、どこか痛い。穴があいたような、力が抜けるような、疲れるような、なんともいえない感情。悲しいとはまた別のもの。脱力感、無気力感、この世の誰にも必要とされていないような、そんな感じがした。
「ああ、わかった」
そう言ったが、分かるわけがない。断然いい返事だとばかり思っていた。俺がバカだったんだよ。席が替わっても話していたら、合唱コンで告白してれば。後悔という言葉が頭の中を埋め尽くしていた。
帰り道。疲労感がすごかった。空気が冷たい。冬だ。君自身からも彼女募集中?やら言っていたのに。それはないだろ。怒りとはまた違う、やり場のない気持ち。左目から涙が一粒流れた。初めての失恋というものだった。
次からどんな顔して会えばいいんだろうな。
たった今、back numberの曲を聴き、ただ呆然とパソコンに向かっている。2017年11月19日0:04
つい最近あった、本当の話です。