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三題噺(ぬこ様、砂時計、狐)

作者: 春夏冬 悪姫

私は闘技場の戦士として育てられた

親の顔も知らず

ただ見世物として最低限の力を持てるようにとトレーニングさせられた

当時から恨みすらしてなかった

私にとってそれが普通だったからだ

そして

いまでも恨んではいない

ここバハムドはけっして豊かな国ではない

民族の厳しい規則

民族間の対立

それによる内戦

自然豊かな国の割にそれらが理由でその日暮らしするものも多い

そんな中私をうみ落とし育ててもきっと私の母は幸せになれないだろう

それなら私を闘技場に売り自らだけでも生きていくと判断しても私は責めない

ただ残念ながら私は死ぬことなく闘技場最強の戦士として今に至るのだが



闘技場にいる私は世界の情勢など詳しくない

ただ戦争が起き闘技場を開く暇すらないことは主催者から聞いている

もちろん開けないからと言って戦士達に休息はない

戦場に今度は雇用兵として駆り出された

そもそも奴隷階級か戦闘狂しかいないのだ

みんな涙をながしながらあるいはまだ見ぬ強者を求めて戦場に送り出された

私を除いては



私は愛刀の大剣を抱え街を歩いていた

「酒場で依頼を受けてこいよ」

このバハムドにはトレジャーハンターや冒険者という職業がある

例えば未開の遺跡のお宝探し

例えばアイアンアントの討伐

アイアンアントというのは鉄で身を固め鉄をくらって生きてるアリで鉱山をよく襲う

それ故に定期的に討伐されているのだ

そして

その手の仕事をまとめているのが酒場というわけだ

私は腕っぷしはいいので討伐を任されるだろう

闘技場からろくに出たことない私は酒場に行くのは初めてだけど

戦争で人手不足ゆえ各地から依頼が集まる

依頼が増えているので冒険者達も増える

故に今酒場は大混乱だろう

「あっ、ライカ様だ。」

そう言って小さい子が手を振る

「ライカ様。闘技場開きましたら応援行きますからね。」

街の人達に応援に返しながら歩いていると

「あなたがライカ?」

ふいにそう声を掛けられた

振り返るとセリアンスロープ

いわゆる猫型の獣人の女の子がいた

見慣れない顔をした女の子はハット型の帽子をかぶり腰にはレイピアを刺している

フリーの冒険者……あるいは賞金稼ぎ……トレジャーハンター

いろいろと候補をあげるが決め手がない

「なにかしら?」

そう聞くと彼女はにっと笑う

「依頼したいことがあるんだけど」



私とセリアンスロープの……名前は

「名前何だったかしら?」

「ネルピア」

そうだ

ネルピアだ

は森の中を歩いていた

彼女の依頼は護衛である

曰くドルイドの村に行かないといけないが道中女ひとりでは危険とのこと

私は二つ返事で了解した

詳しい内容を聞かずに決めたことを疑問に思ったらしいがそんなことはどうでもいい

私としてはどこか遠くに合法的に行ってみたかっただけだ

闘技場とそれがある街が私の行動範囲だ

外に興味持つのは当然であろう

一応私は稼ぎ頭であることからある程度自由はきく

ただある程度聞くとはいえ基本は闘技場の所有物だ

勝手に離れるわけには行かない

そこでこの依頼だ

報酬は全て闘技場に引き渡すことを条件に私はこの依頼を受注した

初めての街の外だ

少し緊張していた

大きく息を吸って吐く

緊張したのはいつぶりだろう

闘技場の戦いは外部の挑戦者含め負け無しだ

多分最初の試合以降は緊張なんてしなかっただろう

だからこうして緊張できることはなんだか嬉しかった

「なに。笑ってるの?」

先行するネルピアは眉をひそめた

「私街の外出るのは初めてで」

「箱入り娘かよ」

彼女は呆れながらいう

何と言われようと私は気にしなかった

初めて踏みしめる落ち葉

木々で囲まれた世界

ちょっと街を出るだけでこうも世界は変わるのか

ふっとこの世界では似合わない殺気を感じた

感じた方を見やると大きな熊がいる

「ネルピア。下がってて。」

護衛の時間だ

私の声で気づいたのはネルピアを私の後ろに回った

「レッドグリズリー」

レッドグリズリーとはこの地に生息するクマのことで気性は荒くまたよく人を襲い食らうので討伐対象となっている

レッドという割には毛の色は栗色をしているがこれは血で赤く染まっていることが多くその時の様子から来ているのだ

レッドグリズリーは私が交戦の準備が整う前が勝機と見たのだろう

一気に走り出し爪を振るうが大振りすぎる

私は大剣を抜き取ると一閃した

とたんレッドグリズリーの上半身ははねとぶ

下半身は力が抜けそのまま倒れた

「凄い」

ネルピアをその一言に私はVサインで返してあげた




旅に出て三日目

やっとドルイドの村についた

私たちを見るなりドルイドの子供たちははしゃぐ

「ぬこ様!ぬこしゃま!ネルピア様が来た」

ぬこ?

思わず呟いた言葉にネルピアは

「巫女様よ。」

と補足してくれる

しばらくすると宝石をいくつか身にまとったドルイドの女性が現れた

「ようこそ、いらして下さいました。」

深々と礼をする彼女に慌てて私も礼をして返す

「いえ、ビジネスですので。」

ネルピアはそう笑って返した




「こちら、ワーウルフが作りました炎狐(えんこ)の首飾り。こちらがドワーフが作りました星の砂時計となります。」

ネルピアは依頼されていたという品物を差し出す

「確かに頂きました。こちら報酬でございます。」

そう言ってドルイドの女性は袋を渡した

ネルピアはその中身を確認する

「確かに頂きました。」

よく見えなかったが何をもらったのだろう?

取引が私がそういうと彼女は笑った

「秘密。」

取引が終わるとすぐに街を出た

本当は宿に泊まりたかったがすぐ引き返すのも闘技場の主催者との約束だ

街を出る時私は子供たちからまた来てねと言われた

また来れたらねと言うとドルイドの子供たちは嬉しそうにしてくれた

頭のうえに花飾りをつけたドルイドが私の服を掴んだ

私は軽く頭を撫でてやった


街を出て少し歩くと小高い丘についた

ドルイドたちの街も見えるだろうか?

振り返る時頭上をなにかが飛び去っていった

「飛龍!?」

ネルピアの声が聞こえる

飛龍はアステリアにしかいない龍だ

その龍がバハムドに来る理由なんて一つしかない

「空襲!」

とたん火柱が見える

「あそこは!」

思わず声を上げてしまった

私はいつの間にか走り出していた

おねがい

おねがい

しかし

街についた時私が見たのは燃える家々

出る時に見かけた子供たちを探す

地面に見慣れたものが落ちていた

ところどころ焼けている花飾り

嫌な予感がした

「ひどい。」

私の声かと思ったが違ったらしい

ネルピアはいつの間にか私の後ろにいた

「この村は戦争に加担してないのに。」

彼女の悲痛な声がわたしに突き刺さる

力を持ちながら戦わなかった

戦争に興味無いと

自分とは関係ない世界は知らないと

その結果の一つがこれだ

「私が戦線に出ていれば!」

「それは思い上がりでしょう。」

私の声に答える声があった

「巫女様」

「あなた一人で戦争が終わるわけがございません」

彼女は私の目を捉える

「ですのでご自身を責めないでください」

それは慈悲深い笑顔だった

わたしは胸からこみ上げるものを吐き出した

「でも!でも!」

言葉にならない

なんと言ったらいいか分からない

花飾りをぎゅと抱きしめた

「大丈夫です。我らドルイド族を甘く見ないでください。」

彼女は軽くウインクして見せた

私は何のことか分からないでいると

「お姉ちゃん達!」

私は振り返る

「あなた達!」

そこにはあの花飾りのドルイドとその友達たちがいた

よかった

本当によかった

私は涙を流した

多分人生初の涙だった




「彼女は優しい方なんですね。」

隣で巫女と呼ばれるドルイドは笑う

私も少し笑って答える

「そうですね。」

初めて会った子供をあんなに心配できるなんて

多分普通はできない

あんなに強い女性がこんなに優しいなんてね

「さっ、皆様お引越しです!」

そう巫女がみんなに令をかける

私も手伝うか

私は腕まくりした

お題を下さった方々お粗末さまでした

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