心のかたち
やっと更新、それに10万字。
長かった!
さも何も無かったかの如く教室に入るが、何故だか罪悪感があるようで、かなりぎこちない動きは、みなさんからの注目を集めた。
……ボソボソ。
所々で小さな声で話が交わされている。
教室に入る直前の喧騒が嘘のようだ。
ま、そうだよな。
こうなるよな!
ええい、ままよ!
しれっと自席に座ろうと思っていた自分の計画は無残にも失敗したのであった。
まあ、都合良すぎだよな。
みなさんが見る中、静々となるべく女性らしく振る舞い、やっとのことで自席にたどり着いた。
隣には香澄が座っているが、どう対処すればいいのかわからない。
……さて、ど、どうしよう?
そんな僕の気持ちを察したのだろう。
「おはよう。それと久しぶり」
「あっ、おはよう。ご無沙汰でした」
「……」
「……」
やばい、会話が続かない。
会話が続かないということは、何を話したらいいかわからないということだ。
お互いの関係がぎくしゃくしているのだから仕方ないとはいえ、そんな時にも香澄から声を掛けてくれた。
なら、何とか話をしないと!
「あのっ、香澄ちゃん」
「なーに、ことみ?」
ゆっくりとこちらを向く香澄の目を見れば、静かな落ち着きがある。
こんな目を向ける意味は、二つの理由が考えられる。
いや、厳密には一つかな。
もう自分と関わる距離感にいない相手を見る時の目だ。
つまり、香澄はもはや友達では無い、若くは知らない人か、どちらにしても赤の他人の位置ということ。
これは仕方ないことかな。
香澄もゆりはも色々あったし、まだあっているのかもしれない。
だからと言って同情することも違うだろう。
全ては彼女達が決めて、彼女達がして来たことだ。
しかし、僕にはもはやそんな二人をどうこうしたいという気持ちも無かった。
そして、それが一番、いや、物凄く辛いことだと心が教えてくれる。
机に座り、教科書を開いても、いつのまにか溢れ出た大粒の涙で字が読めない。
でもこれは香澄達の問題じゃない。
僕はいつのまにか心が壊れていたんだ。
いつとはわからないけど、ずっと前から溜めていた心の雫が溢れただけ。
ただただ涙を流し続ける僕を黒板の前に立つ先生が見つめていた。
かなり動揺しているが、どう対処するべきか迷っているみたいだ。
「先生、ごめんなさい。少し体の調子が悪いので早退します」
「あら、大丈夫?」
「はい、家の者に迎えに来てもらいます」
「そう、ならお大事に」
僕と先生のやり取りはクラスメイトの絶好の話題になりそうだ。
これがあの二人にとって良い方になる訳がない。
少しフォローして帰らないと気分悪い。
こっそりと色んな女子から声を掛けられる。
その度に風邪気味で頭痛が酷くなったことを伝え、決して、香澄とゆりはのせいにはならないようにと振る舞った。
ああ、久しぶりに授業を受けたかったな。
とても残念な結果に終わってしまった。
もう僕にはあまり時間が無いのだから、無理しても良かったのではないか?
兄が迎えに来てくれる事を先生に伝えて、暫くは教室で待つ事にしたが、肝心な今日の目的を思い出した。
色々な感情が頭に浮かぶけれど、今日の目的であり、今の僕にとって大切な事をみんなに悟られないように行動に移した。
少なく私物をセカンドバッグに詰め込み、机の落書きを消す。
真っさらになった机に『ありがとう』と小さく書いた時に兄から連絡が入った。
駐車場に到着したそうだ。
その旨を先生に伝え、周りを見渡す。
見知った顔が心配そうに顔を向けている。
その中に香澄やゆりはの姿もあり、この教室に思い残すことは無くなった。
みんなを眺めながら、小さく『さよなら』と呟く。
その頃には、もう涙は止まっていた。
頭を深く下げて一礼し、みんなの見送りの中、教室を後にした。
玄関で、上履きを脱ぎ、ローファーに履き替える。
それから、玄関の角に置いてあるゴミ箱に上履きと体操着を捨て、スマホの友達、学校フォルダの中を消去する。
もうここに未練はない。
沢山の想い出も心の中に封印する。
玄関を出て髪留めを解くと長く伸びた髪の毛が風になびく。
ああ、やっと自由になれた。
心の底から、そう感じる。
そして、次のステップに行くため僕は走り出した!
読んで頂き、感謝です。




