叔母の気持ち
ご無沙汰です。
時間が取れる時に頑張ります。
僕が向かった場所は勿論、まぁーちゃん家だ。
今更、学内の友達の家なんかに期待してない。
『きいっ』という音がして、扉を開けるとコーヒーの良い香りがする。まさにこれを飲みに来た僕にはたまらない香りだ。
マスターである叔母は僕を一瞥すると叔母の目の前カウンター席にお冷やを用意した。
あらら、叔母に尋問されるのだろうか?
それとも、もっと酷いことになるのだろうか?
静かに椅子を引いて腰掛けるが、叔母からは何も尋ねられなかった。それどころか、僕が頼む前にコーヒーとチーズケーキのセットを並べてくれた。
そーっと、上目遣いに叔母の顔を見ると、にっこりしている。上機嫌と言えば少し言い過ぎだが、それに近い感じがする。
早速、おしぼりで手のひらをよく拭いてから手を合わせて「いただきます」と呟いた。
まずはコーヒーの香りを楽しみながら少しずつ口に含む。豊かな香りが口や鼻の奥まで広がり、短い時間にもかかわらず、すっかりリラックスしてしまう。
次にフォークを使ってチーズケーキの端から口に頬張る。甘過ぎず、それでいて舌の上には軽やかなチーズの味がほんのりと主張する。
昔から好きなセットだけど、今日はいまいちな感じがするのは、なぜだろう?
不思議そうな顔をしていたら、叔母には分かっていたようで、もう一皿を僕の目の前に置いた。
「それがまぁーちゃんのお気に入りだよ。どうぞ」
「ふへっ、そ、そうなんだ。では、遠慮なくいただきます!」
一口分を切り分けて食べたのは、カスタードケーキだった。
「そのまま、フォークなんて使わずに手に取ってガブっと食べてごらん」
叔母の顔は何故か目一杯に頬が緩んでいる。
まあ、騙されたと思って、言われたとおり食べてみるか。
言われたとおり、右手で端を挟んで左手を支えにガブっと食べた。
………?
なに、これ?
もしや、フォークで食べると美味しさが減るかも知れない。
「何故、それが美味しかったか、わかる?」
「んーっ、これっていう答えはないけれど、まるごと食べるからかな? まっ、半分も口に入らなかったんだけど、確かに美味しかったです」
僕の答えは、叔母を更に上機嫌にさせた。
もう鼻唄まで聞こえている。
このドヤ顔というか、ドヤ態度はどこから来ているのだろうか?
「どう? どちらが美味しかった?」
「どちらも、とても美味しかったです。でも、僕はどうやら好物が変わったのでしょうか?いつもと同じ味なのに、チーズケーキは前ほど美味しいとは思えなかったんです」
少しの後ろめたさで顔を上げて叔母の顔を見ることができない。
「ふーん、ヒロト君。そんなに気にしないでもいいと私は思う。だってチーズケーキなんて、女子が好むものではないし、少なくとも私の焼いたチーズケーキはむしろ女子には人気はない。甘さをかなり控えめにしているからね。でも、そんなチーズケーキをメニューに、載せているのは私の理由なんだ。
まーがね、これならヒロトが食べられると私に言ったのは、中一の頃だった。あのお転婆なまーがね!
私はとても嬉しかったよ。今のヒロトなら分かるでしょう。ここに来てくれたこともまーちゃんを変えてるよ。あなたが、不登校になるなら自分の学校に誘うように私に頼んだんだ。まっ、これは秘密だけだね。
ヒロトは色々な人を巻き込んでいる。君が故意にしていなくても、周りの人の心の平穏を掻き乱している。
さて、ここに来たということはまだ解決していないのだろう。まぁちゃんと同じ学校に通ってみるか?」
叔母からの指摘は的確過ぎて反論の余地は無い。
しかし、まぁちゃんの学校に行く訳にも行かない。
全て終わらせてから、再出発ならいいかもしれないが、中途半端は許されないだろう。
「叔母さん、まぁちゃんの学校は有り難いと思う。
けど、僕は今の学校の全てのわだかまりなや決着を付けてからじゃないと逃げることになるし、迷惑だけかけて逃げたことにしかならない。
でも、ここに来て良かった。
纏まらなかった考えが、いや、絡まっていた思考が解けたみたいだ。すべきことを終えてから、自由を手に取るようにするね。ありがとう。
じゃあ、今度来る時は全てが終わった時に来るね。
その時は、とても甘いチーズケーキが食べたいな!」
そっと叔母の顔を覗くと、満足そうな顔をしていた。
たぶん、今日の放課後に僕が来ることまで予測していたと確信した。
叔母はまぁちゃんが僕の煩わしい案件に振り回されることを良くは思っていない。だから、まぁちゃんが帰って来る前に決着を付けることにしたんだろう。
……かなり色々な方面に迷惑をかけているんだろうな。反省しながら叔母に会計をお願いしたが、叔母は今日のコーヒー代は受け取らなかった。
店の中で私的な、親戚の話をしただけだから僕が払う必要は無いということだった。
素直にお礼を言って店を出ると、もう夜空には星が輝いていた。




