急がないと!
あまりに意味のない時間だったな。
もう少し誠意ある話をしてもらいたかった。
どうして、こんな風になってしまったのだろうか?
多少なり、僕にも責任があるのだろう。
どこがいけなかったのか、じっくり考える必要がある。今更もう遅いだろうけど……。
さて、メールを送ろう。
まずは、向こうの出方を見るのが大事だ。
一行だけの内容で送ると、すぐに返事が来た。
『今から会えますか?』
『もちろん、すぐ迎えに行くわ』
……はやっ!
どこかで見ているのだろうか?
それとも、誰かに見張らせているんだろうか?
いや、そんなことを考えている場合じゃない。
たぶん、迎えに来るのは家なのだろうが、今いる場所、つまり学校から家まで三十分以上はかかる。
急いで帰らないと先輩を待たせてしまう。少しぐらい待たせてもいいとは思うけど、常識的に考えるとそれは駄目な行為だよな。その事をネタにして、不当な要求がされないとも限らない。
小走りで駅に向かうと、ちょうどいいタイミングで電車が来てくれた。途中の階段は見えるか心配だったけど、多少はサービスと気持ち的に割り切った。
少し見えてしまっても遅れるよりもいい。
その甲斐あってどうにか間に合った。
ふぅー、間一髪ってところか。助かった!
額の汗をハンカチを押し当てて拭きながら、そのあとは同じハンカチで顔をパタパタとあおいだ。
うーん、実に自然に女の子だよ。
これでは男に戻っても、しばらくおかまっぽく振舞うかも知れない。それはかなり恥ずかしい事だろう。
でも、男に戻れるのなら、それぐらいは仕方ない。
ドアの外の景色を見上げると、空は青くて、雲がゆうゆうと広がっている。僕の悩みなんてあの空の下では本当に小さなことでしかないのだろう。
昔からだけど、青い空と雲は僕の心を落ち着かせてくれる。とても心が和む。
思えば、ぼっちの時から、みさき先輩の体育の授業以外は空ばかり見て過ごしていた。
その頃は青い空だけは僕のことを裏切らないと思っていた。そりゃそうだろうけどね。空は人ではないし、まして友達でもない。ただの幻想に縋っていたわけだ。他人に話せない黒歴史の一つだ。
僕の住む駅前から自転車で自宅に帰ると、知ってる車が家の側に止まっていた。やっぱり間に合わなかったようだ。車の中の人物にジェスチャーで鞄を置きに家に寄ることを伝えたら、車の中の人物は間髪いれずにドアを開け、僕の腕をギュッと握った。
何事か?
そう思った時、耳元で囁かれた。
「あなたの部屋に連れて行って」と。
……散らかってるからやだな!
心の中はいきなり嵐が吹き荒れる。
まあ、元は僕は男だったんだから、恥ずかしいかがる必要は無いんじゃないか。
いやいや、今は女子なんだし、そんな訳にはいかないでしょう。
頭の中でルーズな僕と真面目な僕が対決している。
さて、その結果はどうなったかというと、どちらも関係なかった。
僕の悩む姿を見て、小さな声で一言言われて、即座にKOされていた。しばらく立ち上がれない程のダメージだった。
「あのね、駅でのあなたのエッチな写真を持っているんだけど、これをSNSに投稿してもいいのかしら?」
「…………そ、そんな、SNSに載せるだなんて、卑怯じゃないですか?」
目の前の美少女は、可愛いく頭を傾けながら、思案してるポーズを取った。
「いやぁ、いいアングルだったわよ。みんなも見たいんじゃないかな?」
先程の美少女は、もう目の前には居なかった。
僕の目の前には、薄笑いをする変態だけが立っていた。




