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僕らしく!

 校舎に向かう僕の姿は目立つようだ。

 いつもと違う髪型や特に服装を変えたわけでは無い。ただ、一人二人とズルズルついて来ているみたいだ。


 手鏡で前髪を気にするふりをして、後ろを見るとなぜか長蛇の列が出来ている。

 今更、僕のどこに興味があるのだろうか?


 しびれを切らし先頭の一人に話しかけた。

 このままでは人だかりになって下駄箱で靴も脱げない。


「あのー?何の用ですか?」

「えっと、琴美さん。不躾ですけど、演劇部に入部して頂けませんか?この前のクラス発表会の演技に魅了されました」


 ……なんだ、部活の勧誘なのか。

 なら、演劇部の他は、映研やユーチューブ同好会なんだろうな。さて、なんて答えよう?


 いいです。結構です。遠慮します。僕は一人が、ぼっちが好きなんです。ほっといて貰えませんか?それにやるより見る派なんです。そりゃあ僕は可愛いかも知れませんが、演技をすることはトラウマなんです!


 心の中の引き出しにはマシンガンのように言葉が詰まっていた。思いつくままに答えようものなら、かなり危ないことになっていただろう。たぶん白い目で見られるところだった。


「あの、せっかくですけど、この頃は家で料理に凝っていて、お時間が取れないんです」

「まあ、それはご立派ですわ。さすが、あやめ様の婚約者だわ。ごめんなさいね、貴重な時間を割いて頂いて。でも、余裕が出来たら検討してくださいね」


 そう言った途端にカバンを持たない左手を取られ、強引に握手されていた。無論、背後の人達も一列に並んで、順番待ちをしているが、僕には握手するなんて義務はない。


 なんか酷いよな!

 皆を一瞥して心に決めた。

 この頃、色々とため込んだストレスが一気に爆破しそうだ。


 なんだよ、なんだよ。

 僕が男の時は誰も見向きもしなかったくせに。

 可愛いなんて特別なことじゃ無いし、外見だけの僕が必要な奴は友達でも何でもない。



 ──最低だ。


 こんなのは大嫌いだ。




 女子になってからは、チヤホヤされるのが当たり前だったけれど、一番大切なことを忘れていたよ。




 自分らしく生きること。

 それをすっかり忘れていた。

 何をするにも馬鹿みたいに他人に期待し過ぎていた。


 これはヒロトの生き方じゃない。

 そう気付いた時、悔しさと後悔で胸が締め付けられそうになった。


 ……素の自分に戻ろう。

  いつも過ごしていた校舎の屋上には、いつものように変わらぬ青空が広がっている。

 変わってしまったのは自分だった。



 あーあ、ホント僕は馬鹿だよな。



 さあ、気持ちからヒロトに戻ろう。

 言葉遣いなんて付け焼き刃だし、こんな風に過ごしても全く楽しくない。


 次々と握手する生徒を前に、静かに落ち着いた声で尋ねた。


「ねえ、……いや、なあ、お前らは僕の何が目当てなんだ?もし、明日にでも男の姿に戻ったら誰も僕のことなど見向きもしないだろう。違うか?」

「………………」


 皆が僕の言葉遣いに呆然となっている。

 まさかの展開だろうな。

 そりゃあそうだろう、自分でもまさかと思っているからな。


「まあ、そういうことだから、これからはかまうな。ほっとけよ。じゃあな」


 スッと踵を返して下駄箱から上履きに履き替えると、さっき見た景色の中に飛び込んだ。

 誰も来ない屋上に。



 ああ、すっとした!

 これでいいだろう。

 香澄やゆりは、このは先輩やあやめちゃんも琴美という幻想から解き放たれるだろうし、これが僕らしい。


 両親は悲しむだろうけど、どう生きていくかを決めるのは僕自身だ。残念だが、逆玉は諦めてもらおう。


 さて、最後の仕上げかな。

 スマホを取り出すと、あまり登録されていない連絡先を聞いた。


 その中の一人の番号をタップする。

 心には、何のためらいもない。


 呼び出し音が三コール目ですぐに相手が出てくれた。


「あらっ、あなたから電話なんて初めてね。嬉しいわ。あっでもなぜかな?

……そっか、あやめちゃんは振られたわけね、そうでしょ?ヒロトくん」

「さすがですね。じゃあ、そういうことだから、ごめんなさい」


『ふふふっ』


 楽しそうな声が電話越しに聞こえてくる。


「なら一層、諦められないわ。おばさんは、益々あなたが気に入ったわよ。ヒロトくん。じゃあまたね」


 プッ、ツーツーツー。


 ……いかん、どうやら厄介な相手との話し合いが拗れたみたいだ。

 まあ、いっか、なるようになるさ。


 さて、気怠いけど教室に行きましょうかね。

 もうかなり遅刻してるけど昔はよくやってたな。

 ヒロトとしての再スタートなら丁度いい。

 本来の僕らしく、やってやろう!


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