再スタート
久しぶりです。
短めですけど、よろしくおねがいします。
AM7時になる頃、少し伸びた髪をまとめて濃紺のリボンで結んだ。気分がのらないので、色も暗いもので、決まった形ではなく簡単にまとめた。
いわゆる蝶々結びだ。
というか、本音ではあの結び方はしたくない。
今日ぐらいは、誰も何もないだろうし、ぼっちで居るなら迷惑はかけないだろう。
あやめさんから嫌われるかもしれないけど、そんなことで僕を嫌いになるような人格でもない。
……とりあえず、今日だけでも気にしないようにしよう。
さて、姿見で上から下までチェックした。あとはお弁当を鞄に入れると支度が終わる。このあと叔母に駅まで送ってもらうことになっている。
叔母が待つ赤い小型の車の助手席に乗り込むと、シートベルトをする。
んっ?
あれっ?
……って、なんか違和感がある。
き、きつい。
「ヒロくん。意外にあるんだね。
もしかしたら、まぁちゃんより大きいの?」
「えっ、叔母さん? な、なんのことですか?」
「もちろん、あなたその立派な胸のことに決まっているでしょう。昨晩はまぁちゃんと一緒にお風呂に入ったんでしょう?どうだった?触り合いっこなんてしなかったの?」
「いやいやいや、そ、そんな破廉恥なことはしてませんし、一緒にお風呂もしてません!」
僕の顔はきっと真っ赤だったはずだ。
かなり顔が火照っている。
そんな僕をちらりと見た叔母はどこか満足げにしているが、次の言葉は容赦なかった。
「……ヒロくん、女としてはまだまだね!小学生以下」
「それって、きつー!いくら身内とはいえ、容赦ないですよ」
「やっ、それは私がヒロくんのことが可愛いから、女性としての生活に慣れないとね」
「んーっと、慣れてないのは、それはそうでしょう。まだ数カ月だし、それにこれ以上は慣れようとおもってません。なぜなら僕は男の子に必ず戻るからね」
「そう。ふふっ、なら、まぁちゃんは大チャンスを逃したわけか、我が娘ながら不憫だね。だけど、チャンスはまだあるわけか……」
「叔母さん、声が小さくて聞こえないんですけど?」
信号待ちをしている叔母さんの横顔をそっと見ると、フンフンと急に鼻歌をならしながら、なんとも楽しそうだ。なんか、楽しい話題でもあったかな?
まっ、機嫌が良いならOKかな。
一人で納得していると駅に着いた。
叔母さんから、『またおいで』と言われたのは嬉しかった。助手席から降りて軽く会釈し、お礼を言う。
さて、これから駅に向かうと思うと何故か緊張が高まって来た。
ちらっと振り返ると叔母の車がまだ止まっている。
さあ、前を向いてしっかり踏み出そう。
そう思って一歩進んだところ、叔母が走って僕に追いついた。
「ヒロくん、忘れてた。これで頑張って!」
「えっ、なに?」
胸ポケットに突っ込まれたものを取り出すと、小さく折り畳まれたお札だった。
……えっ、こらは多過ぎる。
大枚三枚とはお年玉より多過ぎる。
「お、叔母さん?」
そう呼びながら、素早く後ろを振り返ると手を振りながら、叔母は既に車を発進させて走り去っていた。
僕は何もできず、その場で走り去る叔母の車に向かって、一礼した。
昨日も通ったんだけど、何故か今日は駅のホームの空気が澄んでいる。
いつもならまだ全然起きることのない時間だから、こんな新鮮な空気は久しぶりだ。とてもひんやりしていて清々しい。
そういえば、叔母の家から来る途中、湖畔には早朝ジョギングをしてる人がチラホラみられた。それを見ると、かなり朝早い時間ということを実感した。
因みに、まぁちゃんは自宅近くの学校なのか、僕が出発する時刻、そう、ついさっき起きてきた。僕が出発するのを見つけ、慌てて玄関の外まで出て来て見送ってくれたのだけど、年頃のお姉さんはパジャマの姿のまま外に出ない方がいい。
そんな形で僕を見送ってくれた彼女の気持ちは嬉しくもあるのだが、僕とは違い本物の、いや、正真正銘の若い女の子なのだから嬉しさよりも心配が先に立つ。
普通の人より可愛いらしいことと目立つ存在との自覚が足りないのがまぁちゃんの欠点だ。
きっと叔母も心配だろうに。
ゆっくりと歩き出した僕の顔には朝の光が眩しかった。
読んでいただき、ありがとうございます。




