舌戦?
遅くなりました。ごめんなさい。
昼休み前に香澄に説明して、あやめ先輩がやって来ることを話した。
二人の机を合わせて、横にゆりはとあやめ先輩でいいと話していた。
しかし、蓋を開けるとあやめ先輩だけでは無く、ゆりはと姉のこのは先輩までが来ている。
僕と香澄の机は後ろのドアのバリケードに使われ、僕らの席の空いた所には、ござが敷かれていた。ござの上には人数分の座布団と折り畳みのテーブルがセッティングされていた。
ござの下には緩衝材まで敷いてあり、居心地は悪くなさそうに見える。
ござの上には既に座っている方がいる中、意外な人まで混ざっている。
先ほど、目にしてはいたが、
この人が参加するとは聞いてないし、想定もしてない。つまり、この人とは、このは先輩のことだった。
しかし、この人員の配置や準備は、さすがとしか言いようが無いし、あやめ先輩の妹だから不思議では無い。
「どうぞ」
「はい、遠慮はしません」
靴をぬいで、ござの上に座る。
各々が持ち寄ったオカズがとても楽しみな時間だった。こと香澄の唐揚げ、ゆりはのポテトサラダなんて絶品だ。
僕は初めに、一口ハンバーグを頬張った。
これは僕が作ったものだ。
人に食べられる前に自分で失敗していないかという確認で、毎日することだ。
『ん〜っ美味しい!』、合格だ!
満面の笑みが零れるが、横から僕に向かってハンカチが出された。
そして、当然とばかりにサラッと僕の口の横に付いたソースを拭いて引っ込んだ。
そして、僕の目の前には、横から出された後に僕に向けて出されたハンカチが揺れていた。
ハンカチの持ち主に目をやると、今にもキレんばかりの形相をしている。
「私は納得出来ません」
キッパリした言葉が出たのは、香澄からだった。真正面からあやめ先輩を真剣な表情で見つめながら、怒ったようにも見える。
「香澄っ、落ち着きなさい」
すぐさま、ゆりはが間に割って入り香澄も引くものと思ったが、いつもの温厚な香澄とは違い、一歩も引かないという表情を保っている。
「まあ、そうなるでしょうね。香澄にとってもあやめちゃんは、ライバルという訳か。
そうなら、あやめちゃんには今回の件について説明する義務があるでしょう。どう?」
一人だけ冷静に事の次第を分析しながら、的確に判断しているのは、このは先輩だった。
意外にも、この件については、茶化す気はないらしい。
「このはが言うのなら、そうなんだろうね。
私もこのはの言う事に従うだけだわ。初めから分かってもらえるなんて虫のいい事だと私自身も思うもの。
でも、一つ提案してもいい?
まずは、座って食べながら聞いてください。
一応はお昼を食べに来たのですし、もう休み時間は半分しか残ってないから」
あやめ先輩の言葉には香澄も素直に従った。
相変わらず、御飯は食べないみたいだけど、お茶を飲んで、緊張感を和らげている。
「さて、最初に何から話そうかな?
まあ、私はずっとヒロト君を見て来た。
幼稚舎の頃から、今までずっとだから、香澄さんがヒロト君と知り合う前という自負はあるんだけど、ここはフェアにいきましょう。
まずは、私はヒロト君と結婚することを小さな頃からずっとお母さんに聞かされて育ってきたし、私もそう思っていた。ヒロト君を好きな気持ちは誰にも負けないし、それがずっと続いた結果、私の伴侶登録が始まる歳に両家で決めた事になる訳よ。これに異論を挟む余地があるというのですか?」
一歩も引かない気構えで、あやめ先輩が分かりやすく説明してくれた。ついでに言えば、僕もよく分かった。実は謎だらけだったから、納得出来たと言える。
だけど、僕のどこにそんな魅力があったかは、この世の七不思議が八不思議に変わる程、原因が不明だ。
「あやめ先輩の気持ちは、分かりました。
でも、やっぱり私には納得出来ません!
その納得出来ない所は、琴美さんの気持ちに全く触れていなかった点です。もうヒロト君ではありません。それに本人はどう考えているのでしょうか?」
毅然とした態度であやめ先輩に向き合う香澄は今まで見た事のない強さがある。
何故そこまでして、僕のことに拘るのかが、当人の僕にも分からない。
でも、香澄の言ったことはとても大切なこと。
誰もがこれを無視していい訳じゃない。
僕の気持ちを中心に考えてくれる優しさにはホロリと来る。
「本人の気持ちは、今決めてもらっている期間だから、何も支障は無いと思うのだけど?」
「あやめ先輩は、私に、このわたしに、琴美が泣いて助けて欲しいと言ったことは当然、知りませんよね。
あなたは、自分の好きな人を拘束して、更に泣かせている。だから私は納得出来ないんです。
琴美は私の大切な友達なんです。私は心から琴美の力になりたいし、この子ともっと分かり合いたい。
あやめ先輩は、琴美の、この子の気持ちを思い遣る必要があるのではないですか?」
香澄の発言の後、少しの間シーンとしていたが、パチパチと小さな拍手が起こった。
このは先輩とゆりはの二人が香澄の意見に賛成したということだが、このは先輩はあやめ先輩の味方にならないでも良かったのだろうか?仮にも嫁と姑…、いや姉と妹の関係だというのに。
「はぁ、このはまで私に反対するのね。
でも、あなたは私の、この想いを知っていたのでしょう。少しは私に協力してくれてもいいんじゃないの?」
「さぁ? 姉の愚行を諌めるのも妹の役割だと思っている私は間違いですか、お姉様?」
「……いえ、そのとおり。やはりこのはちゃんは、このはちゃんということね。優しい妹で感謝するわ。琴美さん、香澄さん、悪かったわ。
でも、お役所の手続きは済んでいるから、それだけはどうにもならない。でも、急ぐのはやめましょう。琴美さんが、泣くなんて、私にもキツイことですから。
……琴美さん。良い友達を持ちましたね。
大切にするんですよ。
じゃあ、これから、私もお仲間に入れて頂きたいから、お昼はよろしくね!」
「あら、先輩はまだ来られるのでしょうか?
ここは一つ、私は身を引くわ! とはならないのですね?」
「とはならないでしょう。香澄さん、私が琴美さんの涙に少し譲っただけで、あなたに諭されたわけではないということを覚えておいて!」
火花が散りそうな香澄とあやめ先輩の間に割って入るのは、やはりこのは先輩だった。
「お二人共、私がいないと全校に筒抜けですけど、どう致しましょうか?」
ここで二人共沈黙してしまうが、直ぐに復活する。このは先輩を見て、強気になるあやめ先輩と香澄は同時に口を開いて、このは先輩を一喝した。
「あら、そんな事を言うのなら、ご自分の力で百万部売ってごらんなさい」
「なぎさちゃんから、GLものを貸さないでって、私からお願いしてもいいんですか?」
この二人の言葉には素直に反応して、このは先輩は『ごめんなさい。図に乗りました』という震えながらの言葉が呪文のように唱えられた。




