母の画策!
母は強し……かな?(笑)
「まあ、琴美ちゃんがあやめちゃんをエスコートしてる! 積極的で素敵だわ」
何処から声を出しているのか、カキ氷を急いで食べた時のように頭にキーンと来た。
目の前にいる二人のうち、一人はまごう事なき我がお母さんだった。
「お母さん。ここで何してるんですか?」
「お友達とお食事だけど?」
「それだけですか?」
「ん〜っ、実は昔の約束を果たす日が来たんだけど……、そう言えば、当人のあなたには一度も話した事は無かったかな? 琴美ちゃん、ごめんね。今から説明してあげるね」
「ぜってーいや! お断り。
もう昔のことなら、期限切れ!
ついでにあなたは賞味期限切れです!」
「わあ、ヒロトちゃんは女の子になってからお母さんにキツイわ」
「そりゃあそうでしょう。今日のコレって、かなり大切な話みたいだし、それを僕に教えないなんて、お母さんの陰謀としか思えない」
嘘泣きするお母さんは今や鬱陶しい。
男の時には、母であっても一応は女の子の涙に狼狽えるものだったが、今や自分も同じ手が使える分、容赦する必要は無い。
言いたい事を言ってからスッキリして、先輩の手を放すと、くるりと反転する。先輩も僕とお母さんとのやり取りにどう対処していいか困惑して、僕が手を放すのを止められなかった。
「お母さんの陰謀に巻き込まれたくは無いから、ここで帰るね。では、一文字先輩、ご馳走様でした」
スタスタと歩いてメイドの横を通る瞬間、見知らぬ美人の声と思しき声が背後から聞こえた。
「あはははっ!琴美ちゃん、気に入ったわ。
さすがは紘美の子供だわ。私とは気が合いそうね。じゃあ、自己紹介が遅れてごめんなさいね。私は、あやめの母で『一文字 さくら』と言います。今日はあやめがお世話になりました。ありがとう」
背中を向けていた僕に向かって、声をかけた美人が一文字先輩のお母さんと分かり、慌てて振り向いた。
「一文字先輩のお母様だったとは、失礼しました。今日は一文字先輩にとても親切にして頂き、僕は楽しかったです。さっきまでは……」
「あらっ、紘美、キチンとしてらっしゃるわ」
「まあ、私の娘だもん。当然でしょう」
「さて、少しだけ独り言を言っちゃおうかな。
ふぅ、困ったわ。琴美ちゃんが帰るなら、せっかく準備したお昼を余らせることになっちゃうから、コックさんに悪いな。
とても美味しい子羊のステーキを用意したのにね。ホントに絶品だから、できるなら琴美ちゃんに食べてから帰って欲しいわよねー!
あっ、でもお食事だけで帰ってしまうのなら、あやめは、さぞかしがっかりしちゃうでしょうね。
今日の日をずっと楽しみにしてた、なんて琴美ちゃんは知らないみたいですもんね。
まぁ、仕方無いかな?
……あらあら、ついお喋りが過ぎてしまったわ」
悪びれず、僕を見つめる一文字先輩のお母様は、うちのお母さんと親友と言うだけのことはある。あれだけ言われて、帰れないよな。
「もう僕の……、いえ、私の分まで用意して頂いてたんですね。それなら、失礼になるからご馳走になります。お母さんは、食事の間は変な事を言わないでくださいね」
「まあ、琴美ちゃん。ホントに良いの?」
……あれだけ言われて、はいサヨナラって帰れるヤツなんていないでしょう。完全にアウトですよね!
むむっ、一文字母、おそるべし!
先輩も溜息を吐いてるし、困った二人な訳ね。
完全に納得したよ。
しかし、先輩が僕とのデートをそんなに楽しみにしていたなんて、どう捉えたらいいんだろうか?
女子から見た僕は今では同性でしかないのになぁ?
☆
速やかに食事の準備が整い、穏やかに昼食が始まった。お母さん達は、お互いの近況を話しているらしいが、ヒソヒソ話なので、こちらには全然聞こえない。
それに二人して、扇子を開いてこちらをチラ見しながらの話だったから、つい気がつくと視線が母に向いてしまう。あやめのお母さんにいたっては、手を振ってくれる。
……気になるけど無視しよう。
僕は気を取り直し、一文字先輩に話し掛けた。
だが、一文字先輩はひたすら僕に謝るばかりで、鬱陶し過ぎたから、半ば強制的に話題を変えた。
お願いモード全開で、あやめさんの話を聞きたいとおねだりする。実にこれは恥ずかしい。
すると、先輩は我に返り、小さく頷いて話し始めてくれた。その話は、僕が初めて聞くことも多く、色々と考えさせる内容だった。
あやめさんの話では、あやめさんは僕の事を知ったのは幼稚園時代からということだったが、生憎、僕には覚えが無い。
あやめさんには、男嫌いという噂があるが、それは嘘であり、単に付き合う対象にならない人を断っていただけだった。ただし、そんな噂をされていることを本人も黙って認めているとのことだった。
まあ、これは分からないでもないか。
あれだけモテれば、自然とモテないように動くだろう。いちいち断るのも面倒だろうし。
さて、これからが核心だ。
何故、あやめさんが僕と会いたかったのか?
それはかなり不思議なことだった。
これについて、説明を受けると、案外、納得出来る答えが待っているかもしれない。
そう軽く考えたのが間違いだった!
ここまでの話は全然大丈夫だった。
しかし、次の瞬間に母達からではなく、ご本人様から爆弾が落とされた。
……僕があやめさんのフィアンセだということを!
しかも、生まれながらにして、決まっていたということだった。
っていうことは、今の僕の状態なら婚約解除になるはずだろうが、そうじゃないらしい。
あのトンチキなお母さん達が、何やら画策して妙案を決めているとのことだった。
その案の内容は聞きたくなかったが、何にしても対抗策を練る為には情報が必要だったから、嫌々ながらも簡単にあやめさんから内容を聞き出した。
その話を聞き終えた直後、僕は手に持つナイフとフォークの両方を手から落としてしまった。
それ程、僕には驚くことだった。




