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お嬢様!

すみません、遅れてしまいました。

あと、多くのブクマや過分な評価、ありがとうございます

m(_ _)m

 意味深な発言の後、少しの沈黙があった。


 そんな雰囲気を壊すかのように、先輩は僕の手から飲みかけのジュースを取り上げ、残りを美味しそうに飲み干した。


「えへっ、間接……というヤツですね。

 もしかして、琴美ちゃんの初めてを、私が頂いたのなら、ごめんなさいね。

 でも、それはそれで私にとっては意味がある。

 ずっと、ヒロトさんを見てきた私にはね」


 ……ヒロトの名前が出てきたんだが、ヒロトの時に先輩と会ったなんてことは無かったはずだ。

 もし、会っているなら覚えている。

 こんな娘を忘れるはずもないし、もろ好みだっただろう。


「ヒロトのことを知っていたのですか?」

「その人は、ずっと私には特別な人でした。まさか、女の子になってしまうなんて思って無かったから、複雑な気持ちとでも言っておきましょうね」


 ……表情はそのまま笑顔をキープしている。

 いったい、何を考えているのだろうか?


「さて、これを戻しに行きたいから、ついて来てくれるかしら?」


 手に持ったパフェ用みたいなデコレーショングラスを右手に持って僕の目の前で振りながら、左手を差し伸べてくれた。断る理由もなく、躊躇いつつも恐る恐る左手を伸ばす。


「ん〜っと、少し違うんだけどね〜!」


 何故か、がっかりといった感じで、グラスを持つ手を変えて、僕の伸ばした手を引っ張ってくれた。そして、そのまま握って離してくれない。離さないというより、もっとヤバくて、指を絡めてぎゅーっと手を繋いできた。


 これは、恋人繋ぎ?

 あの時、僕は右手を伸ばすべきだったのか。

 あらら、先輩に失礼をしてしまったよ。

 だって、これが初デートだから分からない!

 しかし、先輩の残念そうな顔ってなに?

 それに、今から何処に行くのかな?


 数秒も掛からず、頭の中で色々と考える。

 確か、男子の頃にはこんな事は無かった。


 女子が気遣い出来るという前に、女子ってずっとこんな事を考えているんだろうな。

 そう言えば、香澄ちゃんやゆりはも良く周りを見て、色々と気付いて、口に出していた。

 あれって、口に出す事で調整しているって事なんだろうな。


 大変だよな、琴美さん?

 ……ええ、大変よ、ヒロト君。

 一人芝居を頭の中でしてしまう。

 ホントに混乱している証拠だ!


「さあ、着いたわよ」

「えええっ、ここなんですか?」


「はい、そうです。緊張しないでついて来て」

「はあ……」


 デカいビルの自動ドアが開き、勝手知った所とばかり、脇目も振らずズンズンと奥に突き進む。フロントらしき場所にはスタッフの姿が見え、付近にはポーターらしき姿もチラホラと見て取れる。

 みなさんが先輩を視認すると、軽く頭を下げている。


 ……ここにあるレストランを経営しているだけというレベルじゃないな。


 なんとも、自分が場違いな所に来たように思え、かなり恥ずかしい。

 そんなことを考えていると、僕の考えに気付いたのか、先輩から握られた手は以前に増して力が加わったみたいだ。


 それから僕を連れて、一目散にエレベーターホールに向かう。途中で、スタッフの一人にすれ違い様、先輩は当然とばかりグラスを手渡す。

 エレベーターホールが見えた時には別のスタッフがエレベーターの扉を開けて待っていた。

 先輩を見つけるや否や、頭を下げた。


 ……やはりお嬢様か。

 それも最上級のクラスに近い。


 ウチみたいに庶民とは別世界の本物のお嬢様だ。


 香澄のお父さんも弁護士さんで、一般家庭とは違い裕福だし、着るものや持ち物は有名ブランドばかりで、最初は驚いた。

 ゆりはのお父さんも警視庁のお偉いさんと聞いている。所謂キャリア組なのだろう。将来は警視総監か、警察庁の幹部なのだろうな。


 元々、女子の方々は入試の一部として、家柄も審査されるらしい。


 僕がまともに高校から女子として入試を受けても合格するなんてことは無かっただろうな。

 生徒の数が減り、少子化対策と理由を付けて共学になった裏には、男を選ぶ目を養う目的の他、良家の子息を早めに予約する機会を掴むための画策だったのだろう。


 思い起こせば女子校側から男子校が買収されたとの噂もあったな。それに卒業した後に学生結婚した人も多いと聞いたこともあった。


 しかし、今の僕は女子なのだから、同性である先輩からアプローチされるなんて事は考えられない。さて、これから何が始まるのだろうか?

 とばっちりだけは何としても避けたい。


 七十階の客室層を超え、エレベーターはVIPと書かれた最上階で停止した。

 エレベーターガールがカードキーでドアを開け、行ってらっしゃいとばかりに頭を下げる。

 どうもVIPルームがある所では、エレベーターを開くために特別なキーが必要らしい。多少、世間勉強になったよ。


「ありがとう」


 先輩は一言だけ、短くお礼の言葉を伝えると僕を連れてエレベーターホールから廊下に出る。すると、先程までのスタッフとは明らかに格が違うホテル関係者が待っていた。


「お嬢様こちらです。皆様、既に揃っておられます」

「はい承知しました」


 ……皆様?

 なんのことだろ?

 僕達二人だけでは無かったのだろうか?


「琴美さん、怖がらないでくださいね。きっと大丈夫ですから……」

「は……い」


 今更断る雰囲気では無いな。

 まさか、二人の男子が待っていて、二対二なんて事は無いよな。

 そんな事なら、帰らせて頂きますからね!

 それに一生、恨みますからね!


「琴美さん、絶対に変な事では無いからね」


 こちらに顔を向けて、初めて真剣な表情を見せる先輩。その表情にも緊張していることが見て取れる。

 突き当たりの大きな両開きの重厚なドアの前に着くと、ドアの前で僕達は立ち止まった。


「トントン」


 ホテルの方がドアをノックすると内側から鍵が開けられる音が聞こえ、ドアは音も無く開き、二人のメイドが中から出迎えに来た。


「どうぞ、こちらに」という言葉には、強制力され感じられる。


 いつの間にか背後にホテルの人が立ち、挟まれる形になった。くっ、もう逃げ場が無い。


「琴美さん。どうぞ、よろしくお願いします」


 先輩は少し申し訳なさそうに僕に向かって深々と頭を下げている。さっきまでの軽さは微塵もない。

 ……まあ、先輩も一緒なら大丈夫か、まさか命を取られることは無いだろうし、女は度胸だ!


「先輩、頭を上げてください。さあ、行きましょう」


 本心では怖いけど、元々は男だった僕がリードするタイミングだ。先輩を困らせる訳にはいかない。


 短く息を吸って意を決する。

 ええいままよとばかり先輩の手を引いて、開けられたままのドアから部屋に勢い良く入いると、そこには意外な光景が広がっていた。

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