でえと!
遅くなり、ごめん。
なんというオーラなのだろうか?
───絶句した。
一目で、この人と分かってしまう。
こそっと少し離れたビル陰から待ち合わせ場所を覗いてみたが、存在感が半端無い!
やっとあのメールに書かれた言葉が嘘では無かったと腑に落ちた。
『かなりのナルちゃんなのだろうか?』っていうのが僕の勝手に想像していた人物像だったが、見事にはずれた。
いや、良い意味ではずれたといっていい。
多分、この姿を見なければ、今もそう思っていただろう。
兎に角、カッコいい!
この距離から姿を見るだけで、とても緊張するのだから、これから二人だけの行動となるのは嬉しくもあり、不安でもある。
学内で人気があるという理由も良く分かる。
僕とのメールのやり取りでさえ、気さくな先輩のように思えるし、僕の都合や好みに合わせてくれるといった優しい気遣いも持ち合わせている。
女子だけど、格好いいというのが正直な感想だ。
襟足の長さで纏められたすっきりしたショートカットはサラサラで、涼しそうなサブリナパンツとそれに合わせたサンダル。帽子はメジャー球団のキャップを斜めに被り、白いタンクトップの上にはくしゃくしゃで大きなストライプ柄のワイシャツを羽織って、腰で結んでいる。
出るところと引っ込むところのバランスが取れていて、僕でさえつい羨ましく思ってしまう。
……すげぇ、いいスタイルだな。
目元は涼やかで流し目されると思わずドキッとするだろう。
耳たぶに光る金色の大きな輪っかのリングがよく目立つ。
じっと見ること二、三分だったけど、既に五人に声を掛けられている。
僕が見る前から待っていたのだから、かなりの人数からナンパされたんだろうな。
さて、意を決して会いに行きましょうかね。
一旦、ビルの陰に戻り、ポーチから手鏡を取り出して、特上の笑顔をつくり、それを確認してから先輩に向かって歩き始めた。
先輩もすぐに僕に気付いたのだろう。
座っていた噴水近くのベンチから立ち上がって、小走りに僕の元に来てくれた。
はいっ、正直言ってドキっとしました!
そして、今はドキドキしています。
目の前にいる人の顔を間近で見てしまったからなんですけどね。
いやいや、見つめ合うという表現が当てはまるだろう。
「お待たせしてしまいました。ごめんなさい」
「えっ、そんなこと全然無いわ。
そんなに怖がらないで欲しいんだけど。
これから楽しみたいんだもの、琴美さんよろしくお願いします。さあ、行きましょう」
スッと伸びた手は、自然に僕の腰を抱いて引き寄せた。いきなりだったけど、全然嫌な感じはしなかった。
それに、かなり慣れているようだ。
歩きながら、色々な事を言われたけど、ハッキリとは覚えていない。
適当に相槌をうっただけの自分に、僕自身が驚いている。こんな風にあがってしまう事なんて、今まで皆無だからだ。
そりゃあ、人との付き合いは薄かったとは思うけど、小学生までは人並みだったと思う。
少ない対人関係でも違いぐらいは分かるものだ。
たった一人の人にこんなにも心が動かされるものなのだろうか?
頭の中が思考でパンクしそうだ。
しばらくして腰に置かれた手から解放されたと思ったら、左肩に先輩の右手が置かれ、僕の右手を引かれる。
あららっと思いながら丁度、半回転した所で、優しく肩を押された。
えっ?……と思いながら、後ろに倒れる。
「きゃっ!」
思わず声が出てしまった。
しかも、思わぬ声で!
そして、次の瞬間、僕はフカフカなソファーに見事にキャッチされていた。
少し恨みを込めて、先輩を見上げると、クスクスと笑っていた。それも太陽のような明るい笑顔で。
あの笑顔にクラクラしちゃうよ。
「可愛い声だね。
驚かすつもりは無かったんだけど、ごめんね。
でも、役得だったわ!
琴美さんって、なんて可愛いのかしら!!
さて、そこで少しだけ待っててね」
そう言ったかと思った瞬間、先輩は僕の視界から消えた。その素早さは、並の男でも真似は出来ない。
……火照った顔を自覚しながら、それでも自己嫌悪になんてならなかった。
正直に言えば、女子で良かったと初めて思った瞬間だった。
☆
十分ぐらい経った頃にいきなりだった。
冷たい感触が頬を伝う。
僕は驚きのあまり、再び声をあげた。
「あっ、いやんっ!」
…………言った後に真っ赤になった。
「あはははっ、じゃないか。
ごめんなさい。さっきの反応がとても可愛い過ぎたから、また悪戯してしまいました。
お詫びに、これをどうぞ。お姫さま」
手渡されたのは、冷えたトロピカルジュース。
どうしてこんな場所で手に入るんだ?
「琴美ちゃん。目が真ん丸だよ。どうかしたの?」
「これって、トロピカルジュースですよね。
ここら辺で手に入るものなんですか?」
「あっそれは、特製だよ。私のオリジナルなのさっ! 昨日のうちに材料を買っていて、今作って来たということ。良ければ感想を聞かせて欲しいんですけど?」
「ん〜、ビックリした点は、二十点減点します。でも、嬉しいし、美味しいから、悔しいけど百二十点をつけましょう! だから差し引き百点かな?」
なんだか悔しいけど、メロンはゴツい縞が入っているし、サクランボも国産に見える。
マンゴーに至っては、完熟の高価なヤツだった。これで文句を言うなんて事は出来ない。
しかし、何処で調理したんだろう?
「調理した場所は、そこのビルの中のレストラン。お父さんが経営しているレストランだから気にしないでね。
それより、琴美ちゃんの今日の格好は、期待どおりで、お姉さんは嬉しいわ」
「いえ、少し見栄を張っただけですよ。先輩みたいに可愛いくて、さらに格好良い訳じゃないですから、褒め過ぎです」
「ふーん。私は本当の事を言っただけなんだけどな?」
「先輩みたいなお嬢様は、私の気持ちは分かりませんよ」
そうそう、こんな一等地でレストラン経営しているなんて、お嬢様以外には分類出来ない。
だから、僕との縁も今日までだ。
「それって、琴美ちゃんが言うの?」
………………意味深な言葉を発した先輩の目は何故だか笑っている。
この笑顔の裏にある事実を知った時、僕には再び笑う事が出来るのだろうか?
それは、神のみぞ知ることだろう。




