香澄は不機嫌
少し近未来設定に入りました。
「ふーん。そうか、そうね。
あなたはきっと好きになるでしょうね。
そして、必ず後悔すると思うよ」
「なぜ? その根拠は?」
窓の外を眺めながら、話す香澄の顔はどんな表情なのだろうか?
僕の質問にも暫く黙ったまま、なんとなく気まずい雰囲気が流れ始めた時に香澄が口を開いた。
「彼女はGLなのよ!」
キッパリ言った顔は真剣で、嘘は無いようだ。
「そうなんだ。ということは、僕はどうすればいい?」
「彼女と話したい? お友達になりたい?
あなたこそ、どう思っているのかしら?」
「えーと、その前にまずは香澄ちゃんに質問してもいい?」
「なによ?」
……なんで、香澄ちゃんは怒り気味なのだろうか?僕は香澄ちゃんの気に触る事を何かしたのだろうか?
「あのね。さっき言ってたGLってなんの略かな?」
「あなた、まさか知らずに話を聞いてたの?
GLと言えば、ガールズラブの略…だったと思う。
それって、女子と女子が男子と女子と同じように…お付き合いすることだからね。こっ、これで意味分かるでしょう」
香澄ちゃんの顔は耳まで真っ赤になっている。
よほど恥ずかしかったのだろうか?
というよりも僕も人が悪いな。
GLなんて、ヒッキー志望の僕が知ら無いはずはないでしょう。もちろん香澄ちゃんの反応が見たかったからだけど、予想以上に可愛いかった。うん、眼福、眼福!
「そうなんだ。なら、一文字さんは僕にそんなことを要求しているってこと?」
「う〜ん。それがそう言い切れないんだよ。
だって、あなたは純正じゃないもの」
……純正じゃないって、TSという意味か?
なんか酷いぞ香澄ちゃん。
こんなことになったのも、僕が悪い訳じゃないことは知ってるでしょうに。
心の中でブツブツと文句を言うが、面と向かっては言えない。そんな勇気なんて持ち合わせていないし、倍返しされそう。
「あのさぁ、一文字 あやめさんが、あなたの事をどう捉えているかが分からないから、困る訳なのよ。琴美ってば、全然分かってないんだから、お姉様は心配だよ」
あっ、なるほどっ!
そういう訳ですね。
つまりは、僕を女子と捉えているなら、問題は無い。しかし、元男子、若しくは心は男子なら、問題有りだ。
──GLならば、男嫌い!
しかし、やはり僕を女子と認識していても問題はあるぞ!
僕は女子と交際することになる訳だし、それはごめんなさいだよな。
あ〜、ややこしい。
なんだかな〜ですね!
「まっ、会えば分かるのなら、それでいいじゃない。香澄ちゃん、他に選択肢は無いでしょう?」
「そうね。琴美ってば、ちゃんと考えてたの?」
いやいやいや、普通ならそうでしょう。
だいたい、まだ始まってもいないし、終わらせるのなら始まらないといけない。
「一文字さんはどこの教室?」
「三年一組だったと思う。しかも、このは先輩のお姉様だった。だから気をつけなさい」
……このは先輩のお姉様っていうことは、彼女よりも頭がいいって事じゃないか?
このは先輩が頭が悪い人の妹になる訳がない。
なんだか、手玉に取られそうだな。
でも、なるようにしかならないし、妹は一人しか作れないから、一文字先輩の妹になる事もなさそうだ。
「このは先輩のお姉様なら注意が必要と分かった。だけど大丈夫だよ。僕の心は揺るがない」
「それって、なんだかカッコイイけど、もしかして、その相手は私のお姉様?」
香澄の言葉は胸に突き刺さった。
香澄さん、それはキツイ言葉だよ!
……なぎさ先輩でもあり、そしてだんだんと香澄に傾きつつあるんだけど、いかんせん、この身では自由恋愛なんて成立しないよな。
いかに便利な時代とはいえ、TSなんて無ければ良いと思うが、現代には必要不可欠なものになっている。
あの薬のことを調べたけど、現代の少子化対策の抜本的な役割を果たしている。
同性婚がずっと昔に認められた背景にも、この薬が関わっている。
環境汚染が進み、人口が減り続ける中、国際政府から結婚が強いられ、その上で必要な子供の人数も割り振らる。
病気などの特別な理由が無ければ、必ずその人数の子供を産み、育てることになる。
もし、僕がこのまま誰とも結婚出来なければ、僕は必要の無い人として、罰が与えられるだろう。
紫外線が強い外での労働、活火山付近での危険な作業、地下深くでの鉱石の採取など危険な仕事にはキリがない。
そんな状況下だから、みんなが伴侶探しに躍起になるのは当然だと言える。
だから、同性婚してもTS薬を利用して、子供をもうけている。人にお願いすることも出来なくはないが、かなり高額との話だ。
それに、モラルの問題の議論は今でも決着していない。
僕は、鈍感というか、怠惰だったんだ……。
お母さんが色々と服や習い事をさせるのにも納得がいくし、いつも身奇麗にするように言われる意味も分かる。
「……ねえ琴美? どうしたの?」
あっ、思考が優先されて、固まっていたよ。
まあ、今から深刻に考えても仕方ない。
リミットの三十五歳までには、女性ホルモンの作用で女子に慣れてしまうかもしれない。
「あのね。僕が結婚出来なかった事を考えちゃったんだ。子供がいない未来の自分のこと」
「……そう、ごめん。その事なんて、私達は考えもして無かったから、本当にごめんなさい。
そういえば、ゆりはもその事を心配してた」
シュンとなる香澄の頭をポンっと叩く。
「香澄ってば、悩まないでいいよ。
僕は見てのとおり、こんなにモテるんだから誰かと縁があるかも知れないし、諦めるのはまだ早い」
「そう言ってくれるのは、嬉しいけどね。
無理しないで、私には相談してよ」
「はいはい、香澄ってば心配性だよね。
まっ、有り難く聞いとくよ。
それじゃ、この話はこれで終わり。
僕は一文字先輩にメールするから」
学校内の連絡簿をPCで確認すると、ほとんどの生徒がグレーアウトしていたが、一文字先輩の名前は選ぶ事が可能になっていた。返事を受ける為に受信可能にしたのだろう。
早速、用件だけを考え、短文で返事を返した。
☆
件 名:お手紙の返事です。
内 容:お手紙、ありがとうございました。
突然のことで驚いています。
しかし、あの一文では意味がわかりません。
宜しければ、お会い出来ませんか?
お返事、お待ちしております。
琴美
☆
僕のメールを後ろから見ていた香澄が何故か急に怒り出す。
「私にはこんな丁寧な返事はしてくれないよねー! ずるい!」
「あのね。仮にも相手は先輩なんだから、当たり前でしょう。それにそんなよそよそしい返事が欲しいなら、今度からそうするね!」
突き放すように香澄に言うと、「う〜っ」っと言いながら、僕を睨んでいた。




